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【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第二章

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30 お腹が減ったので

「そこが、ギルド。冒険者のな」


だいぶ町を歩くのに慣れてきた頃、ディアンがくいっと顎で示した建物。

大きいな……! 他のお肉屋さんや生活雑貨の店よりずっと大きい。そうか、利用者が多いもんね!

てっきり中へ入るのだと思っていたけど、ディアンはスタスタ通り過ぎてしまった。


「ギルドに行かないの?」

「後だ。腹減った」


じゃあ、ごはんが先! 

足取りを弾ませていると、いい香りが漂って来た。

堅牢な建物の並ぶ通りから少し外れて、袋小路になった広いスペースに、それはあった。

布で屋根と壁を作った、おもちゃのようなお店。それが、いっぱい並んでいる。


「これ、屋台だよね?!」


すごい、こんな簡単な造りのお店が本当にあるのか。これだったら、僕でもお店ができそう!

あっちもこっちもいい匂いで、目が回りそうだ。こんなにたくさん、食べ物が……!

ウキウキする僕は、ややあって問題に気が付いた。


「ディアン! ダメだよ、先にギルドに行かないと僕、お金がない!」

「なら俺が出すから、後で払え。あと、お前は外で金の話をするな」


そ、そんなに町って危険なんだ……。

真剣な顔で頷いて、こくっと喉を鳴らした。

もしかして、元の服は着るなって言ったのはそのせい? 教会で貸してもらっている服は、どう見ても僕が着ていた服より安いものだろう。

はた、と足を止めたディアンが、僕を見る。


「……つうかお前、金のこと分かんの? 買い物したことねえんじゃ……」


僕、そんな風に思われてるの?!


「あるよ?! だって毎月お届けもののチェックと購入してたの、僕だよ?! だから、干し肉とかお塩とか薬草の値段なら、僕の方が詳しいと思うよ?!」

「そうか……まあ、なら最低限買い物はできるっつうことか」

「うん!」


……ただ、上手に買えてなかっただけで。そう、こっそり口の中で呟いた。

せっかく任されていたのに、元の金額を守らなければいけないと思い込んでいた。月々同じ金額の範囲で買うべきだと。

一人きりだと、ちょっとした思い込みや勘違いに気付くことができないんだな。

本当に、しみじみそう感じた。だって、今なら僕、なんて馬鹿なことしてたんだろうって思うもの。


「なら、金は渡すから買ってこい」

「えっ?!」


ぐい、と引かれた手の上に載せられた硬貨を反射的に握りしめる。


「そこの店で、タレ3つ。どうせお前、どれが美味いか分かんねえだろ」


それはもう、どれが食べ物なのか判別さえ怪しい僕だけど。

タレ3つ、が何を指すかも分からない、僕だけど。

でも、僕が買ってもいいなら、もちろんそうする!

だって、ちゃんとディアンが見ていてくれるし。


「分かった! 待っててね!」


僕は命綱のベルトを離し、トクトク鳴る胸の中を感じながら屋台へ歩み寄った。

いつもはお手紙だったから……こうして、お店の人と直接やりとりするのは初めてだ。

ほっぺが熱いから、きっと赤くなっているんだろうな。

僕、大丈夫だろうか。また、変なことしないだろうか。


屋台ではじゅうじゅう音が鳴っていて、厚く切ったお肉を焼いているよう。

多分買うのだろう人の後ろに並び、焼き板を覗き込んだ。

腕まくりしたお店の人が、パチパチ撥ねる脂をものともせずに、じゅわあっとタレをまわしかける。

激しい音と共にもうもうと煙が上がって、一気に香ばしい香りが広がった。

な、なんて……美味しそうな……!!

既にお肉を迎え入れる体勢になってしまった口の中が、早く早くとねだっている。

溢れそうなよだれを堪え、じりじりしながら順番を待った。


「おう、チビッ子! 何にする?」


いつ声を掛けたらいいのだろうとドキドキしていると、お店の人から声をかけてくれた。

ホッとしつつ、お金を差し出して口を開く。


「このたびは貴店にて取り扱われておりますお品につき、ぜひ入手いたしたく筆を――」


あれっ?! どうしよう、筆をとってない。お肉に夢中で、前の人がどうしていたか見ていなかった。

途端にパニックになってしまって、あわあわとお店の人を見上げる。

ぽかんとしたお店の人も、黙って僕を見下ろしている。

賑やかな周囲から隔離され、二人の間にしばし無言の時が流れた。


「……タレ三つ」

「あ、あいよ!」


後ろから聞こえたつっけんどんな声に振り返れば、ものすごく胡乱な目をするディアンがいた。


「できる、っつってたと思ったが?」

「そうだけど! でもそんな簡単に言うだけでいいの?! 失礼じゃない? 前置きというか、ご挨拶というか――」

「いるかよそんなもん!」

「は、はは……いい所のぼっちゃんか? はいよ」


乾いた笑みを浮かべたお店の人が、太い腕を伸ばして『タレ三つ』を差し出してくれる。

わあ、と受け取ろうとしたら、ひょいとディアンが持って行ってしまった。


「ついて来い」

「どこ行くの? あの、ありがとうございました! おいし……そうです!!」


まだ食べてないから……美味しかったと言えない。

苦肉のセリフに吹き出して、お店の人が手を振ってくれた。

手を振り返し、慌ててディアンの後を追う。

よかった、優しい人だった。こうしてどんどん歩いてくる人たちも、きっとそうなのでは。

今まで全然見ていなかった顔を見上げる。みんな、一人一人違う顔で、服で、きっと違うことを考えている。

まるで別の生き物のように見えていた人たちが、急に普通の人に思えてきた。

僕の肩から力が抜ける。

なんだ……お話しできる人がたくさんいるだけだ。それって全然、怖いことじゃない。

掴もうとしていたディアンのベルトから、手を引いた。


「待ってディアン、もっとゆっくり! 僕の横を歩いて」


町の中で話すのだって、怖いことなんてない。息を潜める必要はなかったんだ。

ほら、舌打ちしたディアンが僕を振り返る。


「もっとシャキシャキ歩け!」

「僕の方が足が短いんだよ! しょうがないでしょう。それで、どこへ向かってるの?」

「食う場所に決まってんだろ!」


顎で示された場所は、なるほど、ちょっとした休憩スペースになってるんだろう。

途端、口の中からよだれが溢れそうになる。

あの、じゅうじゅう言っていたお肉。確か、パンに挟んでいたはず。

丸いパンを半分に割って、ドン、とお肉を乗せて。

香ばしいタレが、パンを染めているのが見えていた。

無造作に挟んだパンの大きさが全然足りなくて、大きく飛び出たお肉が、脂で艶めいているのも。

あれを、今から食べるのだ。


「そこらに座れ」

「うん!」


飛び乗るように木箱に座って、間髪入れずに両手を差し出した。

フッと笑ったディアンが、それを噛み殺すように唇を引き結ぶ。

さあ、さあ、早く、そのひとくちを。

僕は待ちきれずに、伸ばした手を鳴らして催促したのだった。


いつも読んでくださりありがとうございます!

こちらは現在毎日更新ですが、11月から更新頻度を少し落とす予定です。

今のところ火木土更新にしようかな、と考えています。

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― 新着の感想 ―
さすが選書魔法使い。注文が発注依頼文になってて面白すぎる(≧▽≦) でもディアンもちょっと足りないよね。柴犬なルルアとの付き合い方、そろそろ分かってもいいんじゃないのかな。ふたりとももっとコミュニケー…
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