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3 ルルアの勇気

声からして男の人、だろうか。たぶん、師匠よりも若い人!


「こっち! そこの誰か、こっちに来て! シールドに入って!!」


めいっぱいの声をあげて、人と魔物両方の気を引こうと細い木を揺らした。

これで魔物が逃げてくれたら、と願ったけれど、藪を揺らす音は変わらない。

どうしよう、どうしようとシールド内で右往左往しながら目を凝らした時、また唸り声と人の声がした。

近い……!

視線の先、ほんの10メートルやそこらの藪が大きく揺れ、何かがまろび出て来た。


「こっち、こっちだよ! 安全だから、ここまで来て!!」


崩れ落ちるように膝をついてしまった人に、夢中で声をあげる。

途端、ボッと音をたてて手前の藪からも何かが飛び出してきた。

ツン、と鼻を突く異臭。

マダラトカゲ! 僕の3倍はあるだろう派手な黄と緑のトカゲが、ぬらりと表面を光らせて僕を振り返った。

ひゅっと息を呑んで固まった僕の方が、きっと簡単で美味しそうに見えたんだろう。

つつっと近づいてきたトカゲの体表に、葉っぱがいっぱいくっついているのが見えて。

見上げた僕の目と、黒くて丸い目が合って。


その大きな口が開きそう、と思った瞬間、バキっと音がした。

目の前にあった桃色の口腔内に、尻もちをつく。

速……僕、シールドがなかったら、もう食べられている。


きゅっと唇を結んで立ち上がり、苛立たし気に口を開閉するトカゲを睨みつけた。


「師匠のシールドは、それくらいで破れないから! そこの人、頑張ってこの中に入って! 僕より後ろがシールド内だから!」


不幸なことに、襲われた人とシールドの間にトカゲが位置してしまっている。でも、僕が引き付けるから……! 何とか、そっと回り込んで!

震えそうな足を踏みしめ、シールドぎりぎりまで近づいてみせる。

大丈夫、師匠のシールドだ。出ない限りは、大丈夫。

再び突撃してきたトカゲが、躍起になって僕を食べようとしている。

シールドを掻く爪が、僕の身体が半分入りそうな大きな口が、目の前にある。

服がちょっとでも出てしまえば、あっと言う間に引きずり出されるだろう。

カラカラになる喉を上下させながら、僕はその場に留まって足を踏ん張っていた。


ふと、トカゲが何かに気付いたように首を巡らせた。


「あっ……ダメ! こっち! 僕を見て!」


叫ぶ僕の声を無視して、トカゲが体の向きを変える。

見つかった……!!

気配を潜め、何とか足を引きずって近づいていた人が、僕の方を見て、立ち塞がるトカゲを見て。

絶望に顔を歪めた。

もう少し、なのに!


俯いて動かなくなってしまった人が、ふらりと膝をついた。

そこへ悠々と近づく、トカゲの背中。

堪らず、駆け出した。

――シールドを、抜けて。

大丈夫、できる!


「いく、よっ! いち、に、さんっ!!」


素早くこちらを向いたトカゲと目が合ったのが、大きな口が開いたのが、きっと先。

――だけど。

嬉々として飛び掛かってきたトカゲの顎が、僕を捉えて閉じるよりは。

僕の方が……先!!


ドッ……バキリ、と鈍い音がした。


両手を突き出したまま、ふうふう荒い息を吐く。

爆発しそうな心臓を感じながら、見上げた。

ゆっくり空を掻く、短い四肢。

その胴を深々と貫いた、氷の槍。

トカゲは、見事、木に縫い留められていた。


「は……はあっ、でき、できた!」


同時に、膝をついていた人が倒れ込んだ。

安堵の涙に潤みそうな目をこすって、がくがくする足を叩いて、まろび寄る。


「だ、だいじょう、ぶ……? あの、頑張って……! もうちょっと、あそこまで行けば、シールドに入れるから!」


どう見ても大丈夫じゃなかったけれど、僕の力でこの人を運べるとは思えない。

一生懸命肩を貸そうと腕を引っ張っていると、荒い息をするその人が、呻きながら立ち上がった。

滴る赤に、仰天して僕の方が涙目になる。

身体からも、そしてボロボロになっている足からも……。

この人、どうやってこの足で逃げていたんだろう。


「どこ、だ」

「え、え……あ、シールド! こっち、ここ!!」


僕の手は振り払われてしまったので、慌ててシールドの境目まで行って手を振る。

ふう、ふう、と息を吐いた人が、一瞬俯いたかと思うと、キッと視線を上げて――


「う、わ……すごい……」


走った……あの、足で。

力を振り絞るように駆け、僕の横で勢いのまま倒れ込んで、人形のように転がった。


「すごい、すごいね! もうシールドの中だから! 大丈夫だよ!」

「……? ガキ……? 助、かった。アレに食われんの……は、嫌だった」


身体は僕より大分大きかったけれど、よく見ればまだ少年だろうか。

朦朧として焦点の合わない目が、僕を見て不思議そうな顔をして。

呻きながら、なんとか仰向いた。


「こ、こ……なら。……悪い、な」


妙に穏やかな顔で僕にそう言って、ことんと目を閉じた。

悪いって、何が……


「……え? え、どうして?! わ、うわわわ?! ダメダメダメ!!」


既に意識がないと気が付いて、泣きながらカバンの中を引っ掻き回す。

大怪我だけど、主に脚だもの。今すぐどうにかなる傷じゃないと思ってた。

だけど……もしかして、毒?! トカゲ系には毒が多いって書いてあった!


「なんでもいい、とにかく、早くしなきゃ!」


震える手で、とにかく掴み出した小瓶の中身を次々ぶちまけた。

たぶん、どれかが回復薬!

魔法薬は、これでも効くはず……! 

……でも、解毒薬なんてもってない。

カバンに入っていた小瓶は5つ、最後のひと瓶の中身も頭から浴びせたところで、思い切り顔が顰められた。


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