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【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第二章

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29 鳴き声を

小さく息をして、ぎゅっと体を縮めた。

隠れよう。さっき出て来た路地が、一番いい。

ほとんど本能的に路地に身を潜め、あっと声をあげた。


「どうしよう! もうディアンから離れちゃった……?!」


今、本当にたった今約束したのに!

でも、行き交う人の中どれだけ目を凝らしても、彼を見つけられない。

こういう時は……どうすればいいの。今、選書魔法が使えれば……!


「る?」

「あ……! そうか、僕一人じゃなかった……ありがとう」


ほわっと優しいぬくもりが頬に触れ、小さな相棒を思い出した僕は、心から安堵した。


「ディアンが、いなくなっちゃったんだ。でも……そうだね、ディアンはきっと僕を置いて行ったりしない。だから、探してると思う」

「る」


グリポンが聞いてくれるから、落ち着いて話をする。

ディアンが僕を探すなら、きっと来た道を戻ってくるはず。

きっと、見つけてくれる。僕がすべきは、見つけてもらうための行動。


「君なら、どうする?」

「る? るっ! るーっ!!」


ちっとも響かない声を張り上げるグリポンに、くすっと笑って頷いた。


「そっか! 分かるよ、巣から落ちた雛も、ずっと鳴いてるもの」


僕も、真似をすればいい。

鳴き声は、もっていないけれど……。


「ディアーーン! ディアンーー!」


僕は、一生懸命鳴き声を上げ始めた。

こんなに音が多い場所では、分からないかもしれないけど……でも、ないよりもマシ!



でも、忘れていた。

動物だってそう。雛の鳴く声は、捕食者だって呼ぶ。


「おやおや、迷子かなあ?」

「どうした? 親は?」


……これは、『嫌な人』だ。

何も証拠はないけれど、僕の中の何かが確信している。

もしかして、これが僕を売る人だろうか。

どうしよう、と思う間に二人の男性が路地側と通り側に立ってしまった。

僕……どっちにも逃げられない。

魔法で、逃げるべき? でも、まだ何もされていないのに。

それに、ここを離れたらディアンと会えなくなるかもしれない。

捕食者に見つかった雛は、どうするか。


「ディアン―! ディアーン!! ディア……っ?!」

「この、黙ってろ」


身を潜めた挙句に見つかったら、もう僕は鳴き声を上げるしかない。

とりわけ大きな声をあげれば、二人が即座に顔を歪めて距離を詰める。

伸ばされる手をくぐって逃げようとしたのに、あっと言う間に口を塞がれ、簡単に捕まってしまった。

もう、じたばた暴れる以外ない。

果敢に体当たりするグリポンが、鬱陶し気にあしらわれているのが見えた。


何とか口を塞ぐ手を外そうともがくうち、ひょいと持ち上げられた。

連れていかれちゃう……!

びくともしない腕に、自分が悲しいほどに非力なのが、まざまざと分かった。

まだ、何も痛いことをされていない。でも、でも、魔法を使わないと僕、何もできない……!

それでも――木に縫い付けられたトカゲが、脳裏に浮かぶ。


「ごっ?!」


ふいに妙な音がして、僕の体が振られ、どすんと地面に落ちた。

壁際まで吹っ飛んだ男性が大きな音をたてる。

慌てて見上げた視界の中。

しなやかな影がフッと息を吐く。

踏み込んだ左足がぐっと沈み、次の瞬間、地面と平行になった背中が見えた。ピンと伸びた右足が相手の頬を捉え、その靴の裏までが、しっかりと目に焼き付く。

綺麗、だな……。

場違いだと分かっている感想が浮かぶ。


きっと、回し蹴りというやつだろう。勢いのままぐるり、と回転して真っ直ぐ立ったディアンが、僕を見た。

息も乱さずずんずん歩いてきて、むんずと首根っこを掴む。


「てめえ……いい度胸してんなあ? 言った尻から守らねえとは」


ぎらぎらする目と視線が絡んで、涙が浮かびそう。

その目で分かった。危なかったんだと……今、分かった。そして、助かったことも。

急にせわしなくなり始めた鼓動に、今さらだよ、と息を吐く。


「ごめんね?! でも僕だってついていきたかったんだよ?! ディアンがいなくなっちゃったんだよ?!」

「うるせえ!」


首根っこを掴んだまま、引きずるようにその場を後にする。

あの人たち、倒れてるけど……放っておくの?!


そのまま路地から離れ、少し拓けた場所でやっと解放され、ふうふう息を吐いた。

町が怖いだとか、もうそれどころじゃなくなってしまった。

不安な場所に、まだ心はざわつくけれど。


「あの、ディアンありがとう。僕、どうしたらいいか分からなくて」

「ぶっ飛ばせばいいだろ?! なんで大人しく捕まってんだ!」

「でも……まだ何もされてなかったんだもの」

「へえ? その理屈じゃ、殺されるまで分かんねえことになるなあ?」


確かに……?! びっくりの顔をする僕に、ディアンが深々と溜息を吐いて項垂れてしまった。


「ディアンは、怪我してない? 凄いね……ディアン、剣がなくても戦えるんだね」

「当たり前だろが……」


疲れ切った顔をしたディアンが歩き始め、慌ててついていく。

でも……でも、段々と前から来る人に負けて離れていってしまうのだけど。

どうにも、町を歩くには慣れがいるよう。

また離れていきそうになって、『ディアン―!』と渾身の声をあげた。


「叫ぶな! はぐれたって丸わかりだ」

「そんなこと言ったって、それ以外方法がないよ?!」


戻って来たディアンに鷲掴まれ、ホッと安堵する。やっぱり、この方法が一番確実なように思うけれど。


「……お前、道は覚えられるな?」

「うん、多分」

「なら、教会かギルド、近いほうへ行け」

「はぐれたらってこと?」

「それ以外でも、その二つが頼みの綱だと覚えておけ」


そうなのか。

多分、そう言って歩き出したディアンはギルドへ向かっているのだろう。

町ではこんなに建物があって人がいるのに、頼みの綱がその二つ?

不思議に思いながら、今度こそはぐれまいと、ディアンのベルトを掴みながら歩いた。

じろっと睨まれたけど、これは僕の命綱だ。

すいすい進んでいくように見えるディアンを観察しながら、建物に目を走らせる。

きっと、通りに面しているのは店が多いだろう。

文字と、絵と、看板には色々ある。

いい匂いがして勢いよく振り返った先には、多分パンのお店。

これが、焼き立てのパンの香り……!!

甘く、香ばしく、幸せが漂う香り。


「……飯は向こうの通りで食う」


視線がパン屋さんから離れなかったのがバレたのか、ぼそりと声が聞こえた。

町で、ごはんを食べる……。

きっと、ディアンにはわからないだろうけれど。

僕の目はおひさまよりも輝き、しっぽは、ちぎれるほどに振られていた。


子猫もずっと鳴いて親を呼びますよね。アレです。

にゃー!にゃー!にゃああーー!! (TΔT)

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