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【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第二章

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28 犬の要素

「町……いいの? でも、僕……また師匠の所へ戻るから……ディアンは、嫌でしょう」


教会を出たところで、ようやくディアンが足を止めた。

はふはふ息が弾む。ディアンの歩きは、僕の駆け足だ。追いかけてきていたグリポンも、やれやれと肩にとまった。

掴んでいた腕を離したディアンが、がしっと胸倉を掴んだ。今度は、ためらわずに。


「うるせえ! 腹立つからもう言うな。お前、マジでふにゃふにゃのくせに全っ然折れねえ! ムカつく! 少しくらい、言うこと聞きやがれ!」

「ご、ごめんね? 言うこと、聞いてるつもりなんだけど……」


ディアンの方がしっかりしていて、常識を分かっているって、僕だって分かるもの。


「そういう些細なトコはどうでもいいんだよ! 肝心なトコで全然言うこと聞かねえ!!」

「そう、かなあ。でも、ディアンに悪いことしたくないっていうのは、譲れないもの」

「まず、野郎の所へ戻るって前提を覆せばいいだろが! そういうトコが『犬』なんだよ! 忠犬かよ!」


言われて、ぱちりと瞬いた。

そうか、僕……もしかして実際に犬の要素があるのかな。

ハッとしたディアンが、しまったという顔をする。

あんまり分かりやすいその顔に、くすくす笑みが漏れた。ディアンがどう考えたか、すごくよく分かるよ。

でも、僕は僕のそういうところ……嫌いじゃない。


「忠犬、かあ。じゃあ分かるんじゃない? 僕が、ディアンと離れるのがどうだったか」

「……俺はてめえの飼い主じゃねえ! あいつと一緒にすんな」

「うん、でも僕は『忠犬』だよ? そんな言葉だけで、どうにかなると思う?」


ふふっと笑う。

だって僕――もうディアンに懐いちゃったよ?

これはいい、僕が拙い説明をするより、ずっと伝わりそうだ。

案の定詰まったディアンが、思い切り舌打ちしてぐっと顔を寄せる。


「……てめえの言いなりになると思うなよ? いいか、てめえには一応恩がある。今は俺が折れてやるだけだ。これ以上、ないと思え」


引っ張られて息苦しいし、橙の瞳は刃物のように鋭い。

腹の底から響くような声が、荒々しく耳を打つ。

だけど……ああ、やっぱりディアンは言葉の中身が優しい。

じゃなければ、こんなセリフが、どうしてこうも嬉しいっていうんだろう。

どうしたって漏れてくる笑みを抑えきれずに、もう我慢せずに思い切り笑った。


「ディアン……ありがとう!」


額がつかんばかりの距離で、ディアンが何とも言えない顔をする。

突き放すように手を放し、思い切り顔をしかめた。


「……てめえのヘラヘラのせいで、俺までなまくらになったのか?」

「どういうこと?!」

「ビビれよ。フツーに凄んだぞ」

「そうだね! 凄んでるなって、僕分かるよ」


じろり、と睨む視線に慌て、大丈夫だと両手を振った。


「だって僕、ディアン好きだもの! 怒ってても凄んでても、好きだよ! 『ビビれ』ないよ?!」


言った途端、眉を寄せて額に手を当てたディアンが、地面にめり込みそうな溜息を吐く。

……どうして僕の好きな人は、僕が好きだと言うとそんな顔をするのか。とても腑に落ちない。

僕なら、とっても嬉しいと思うから言ってるのに。


「てめえを放り出したら、秒で面倒事が沸いてくる。いいか、勝手に行動するな。これだけは絶対に守れ」

「う、うん」

「いいか、俺から離れて勝手に行動するな。他のヤツが何か言っても、まず俺の許可を得ろ。守れるな?」


どうして二回も言ったんだろうと思いつつ、頷いてから困惑する。


「でも、ディアンがいない時はどうすればいいの?」

「何もするな」

「ええー無理があるよ……。えっと、事後確認はするね! あと、ちゃんとディアンについて行くよ!」


不満そうな顔をしたけど、一応僕の心構えは伝わったよう。

あのね、ディアン。それはつまり、ずっと僕と一緒にいてくれるっていうことになるんだよ。

そんなことを言うと、きっと怒るから言わないけど。

ちゃんと分かってるよ。グリポンみたいなわけにはいかないってことも。

でも、分かるかな? 僕が、とても、とても嬉しいこと。


あんなに辛い決意をしたのに、すっかり覆されてしまった。

今選書魔法を使ったら、きっと『喜びを抑える方法』なんてものが選出されるに違いない。

スタスタ歩き始めたディアンについて歩きながら、犬の要素があったとして、見た目に現れなくて本当に良かったと思う。


「僕、しっぽがあったら大変だったね。ひと目でバレちゃう」


それを思うと、犬って大変だな……なんてどうでもいいことに意識を飛ばしていると、独り言に慣れた耳に返事が返って来た。


「馬鹿じゃねえ? お前、しっぽが幻視できるくらい分かりやすいわ」

「えっ?! で、でも! そういうディアンだって、結構分かりやすいよ?!」

「そんなわけあるか。俺の評価は『いつも怒ってるヤツ』だ」

「それって、表情だけじゃない?」

「うるせー!」


あ、それもちょっと気にしてたのかな。

だったら、もっとにっこりすればいいのに。


「ディアンが怒ってる人なら、僕は? どんな人?」

「いつでもヘラついてる、ヒョロガリのガキ」

「ええー!!」


そんなの、怒ってる人の方がずっといいじゃない。

がっかりしてむくれているうちに、周囲に人が多くなってきたことに気が付いた。


「ディアン……! 人がいっぱいいるよ?! 何かあったのかな」

「何もねえわ。普通だ」


普通……! これが、普通。

狭い路地から大きな道へ出ると、急に視界が広がった。

落ち着く狭さの暗がりから、急に拠り所のない場所に。

そして、人が! 教会にいた人よりもずっとたくさん、もう数えられないくらいの人がいた。

今まで気にも留めていなかったけれど、そうか、路地の壁は、建物なのか。

当たり前だろうことに気が付いて、ぽかんと居並ぶ建物を眺めた。


確かに……確かに、こういう挿絵があった。

だけど、こんなに大きいのか……! 

建物なんだから、当たり前なんだろうけども。でも、絵と、その風景に自分がいるのは、全く違う。

通りにはビックリするほど色んな音が溢れて、聞き取れない。

色が溢れて、目がちかちかする。

匂いが溢れて、わけがわからない。

見える範囲に生き物が多すぎて、怖い。


僕、小さいんだな。

やっとはっきり分かって、後ずさった。


いつも読んでくださってありがとうございます。

いつか『もふしら』のように、たくさんの方に楽しんでもらえる日が来たらいいなあ……と、ちょっと夢を見ながら日々書いています。

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― 新着の感想 ―
確かに。読み進めているうちに、ルルアに尻尾が見えて来ました(^_^)
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