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【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第二章

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23 全属性とは

結局、すごく、すごく怒られて。

すぐさま出て行ったディアンが、夕食を手に戻って来た。

ドン! と荒っぽく置かれたお盆の上が、食べ物でいっぱいになっている。

美味しそう! ……だけどまさか、これで二人分……?

そろり、と見上げたディアンが、威圧感溢れる顔で『食え』のオーラを醸し出している。

もちろん、食べるけど……! いいのかな、こんなに。


今日の夕食は、薄いお肉をたくさん焼いたものと、スープ。そして、パン。

ディアンがパンにたっぷりお肉を挟んで、豪快にかぶりついた。

こぼれる、と思いきや大きな手は上手にパンを掴んで逃さない。

固いパンも、肉汁を吸って少し柔らかくなるよう。

たらり、こぼれそうなよだれを拭って、僕もさっそく真似をした。

噛みついたパンをむちっと勢いよく引きちぎって、せっせと咀嚼する。


「おいしい~! これも、ヒヒ犬……ええと、ゲルボのお肉なの?!」

「まあな。焼いたら固いから、このくらい切らねえと食いづらい」

「そっか……だって解体の時だって、ナイフで全然切れなかったもの!」


感心しながらやっと飲み込んだ時、もうパンの半分以上を食べていたディアンが顔をしかめていることに気が付いた。

そうか……口の中もきっと、切れているから。


「ねえディアン、明日回復薬買いに行こうか」

「なんで」

「だって、痛いでしょう」

「ハッ、この程度で使ってられるかよ!」


小馬鹿にして笑われ、むっとする。

表面的な傷くらいなら、安い回復薬で大丈夫のはず。痛いのを我慢するより、使えばいいのに。


「そういやお前、全属性つったけど、回復魔法はどうなってんだ? あれは属性魔法じゃねえだろ?」

「そうでもないよ? 回復魔法は、派生形基礎――あっ!!」

「あ?」


思わず、持っていたパンをぽろりと落として、ディアンにキャッチされた。

でも、僕の方はそれどころじゃない。


「回復……ディアンには、回復魔法が使えるじゃない?!」

「はあ?」

「ああ僕、考えてなかった! 師匠には使えないから……自分以外には使えないとばっかり!」


頭を掻きむしりたい気分で、急いで木箱を回り込んだ。

両手をディアンの頬に沿えると、ギョッと身体を引かれる。


「何だ……?」

「悪いことしないよ、回復だよ!」

「なっ……できんのか?!」

「うーん……ほとんどできない、かな。でも、このくらいの傷なら……! 難しいから、じっとしていてね」


ガチリと固まっているディアンに少し笑う。痛かったりしないから大丈夫だよ。

最近は回復薬、結構余っているし、僕自身も怪我をすることがなくなったから……もう全然使っていなかった。


「ええと、この場合は……水だけでいいかな?」

「水……?」


うん、と頷いて目を閉じ、両手から注ぎ込む魔力に集中する。


「流れ流るる水の命。巡り巡りて施しを与えん――僕は癒やす、水の回復!」

「?!」


ふわ、と癒しの光が灯ったのを感じる。

……よし、ものすごく久々だけど、ちゃんとできた。表面的な軽い傷や打ち身なら、これで大丈夫のはず。

目を開けると、ディアンが橙の瞳を丸くしていた。


「どう? 待ってね、身体も治すから」


僕、基礎の基礎しか使えないから……ちょっとずつ治すしかない。

腕、胸、お腹、あとはどうだろう。


「ディアン? 他に痛むところはある?」


一言もしゃべらないディアンが、小さく首を振った。

にこっとして手を離すと、再びパンにかじりつく。すっかり手を止めてしまったディアンを見上げると、まだ僕を見ていた。


「お前……回復、使えるのか……?」

「今、使ったよ? でも、基礎だから、ごく軽い傷くらいしか無理なんだ。それに、土の回復はまだ使えないの。あれって軽症向けじゃないから」

「あの野郎も、知ってるのか……?」

「師匠? もちろんだよ、教えてもらってるんだもの。ああ、でも師匠には使えないんだ……師匠の病気にはね、魔法が使えないの」


だけど、ディアンはそうじゃないと言うように首を振った。

真剣な顔で口を開いて、躊躇って閉じて。また、開いた。


「……お前、いい暮らしができるぞ」

「いい暮らしって、どんな?」

「王都に住んで、美味いもん食ってちやほやされるとか? 貴族ってやつだ」

「それは、嫌」


きっぱり答えた僕に、ディアンは変な顔をして瞬いた。


「何言ってんだ? いい暮らしをしたくねえってことがあるか」

「あるよ。僕、貴族は嫌。でも、おいしいものは食べたい!」


にこっとした僕をまじまじと見て、ディアンが何かに気付いた顔をした。


「お前、もしかして貴族の――そりゃ、そうか。その顔で、魔力で。平民のワケねえ」


納得顔をしたディアンが少し距離を置いたようで、僕の唇がへの字を描く。


「違うよ、僕貴族じゃないよ。ちゃんと孤児だったんだよ!」

「ちゃんと孤児ってなんだ」

「全然貴族じゃなかったの! だって僕がその頃を覚えてないのはね、死んじゃったからだよ」

「は? 生きてんだろ」


しかめ面をするディアンに笑って、座り直した。


「うん、でも……多分前の僕と今の僕は、違う人だよ。ほとんど記憶がないのも、多分そのせい」

「ああ、死にかけたっつう話か? まあ、そういうことはあるらしいけどよ」

「うーん。それだけじゃなくってね、師匠が……」


少し考える。これって、一般的な話だろうか。

多分……違うな。魂の保管と補完、それって古代魔法でもすごく難しいものだよね。

ディアン、そんなこと聞きたいかな。


「とにかく、そんな感じ! 僕は瀕死の孤児だったし、師匠に助けてもらったんだよ」

「どんな感じだ?! てめえ、誤魔化すのか」


ガシっと片手で両ほっぺを潰されて、間近く睨みつける橙を見上げた。

もう、とその手を振りほどいて、ほっぺをさする。


「誤魔化してないよ! いらない話かなって思って」

「いるだろ?! いらねえかどうかは俺が判断する。どうせ、あの野郎が碌でもねえことをしたんだろ?! 隠さず話せ」

「してないよ?! 僕、助けてもらったって言わなかった?!」


これは、ちゃんと説明しなきゃ師匠が悪者になっちゃう!

聞く体勢になったディアンが、『食いながら話せ』とパンを押し付けてくる。

お肉がたっぷりのおいしいパン。でもこれ、僕のお腹には1個全部入らないかもしれない。

まだ積み上がっているパンに慄きながら、僕は生まれて初めて『僕のこと』を話しはじめた。


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