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【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第二章

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21 教会の子たち

僕……お腹いっぱいで動けなくなるって初めて知った。

結局全然食べきれず、ディアンが怒りながら平らげたんだけど。

ディアン、あんなに食べるんだ……じゃあ僕よりずっとお腹が空いていたと思うのに。

ごめんね、と言ったらものすごく怒られた。

『次、ああいうことをしたら、ぶっ殺す』なんて悪者みたいなセリフ、初めて聞いてびっくりした。それでも……ディアンの言葉の中身は、やっぱり優しい。怒るからもう、言わないけども。


くすっと笑った途端、口元を抑える。

動いたらお腹の中から食べ物が戻って来そうで、僕は今、ただ天井を見つめてじっとしている。

これ、どのくらいこうしていたらいいのかなあ。

せっかく町に来たのに、ベッドの上で1日過ごすなんて、あまりにもったいない。

部屋には、僕ひとり。ディアンは、ヒヒ犬の親玉らしいシルバーバックを売りに行くと言っていた。僕、ついて行きたかったのに……。


シルバーバック以外も、一応毛皮と魔石がお金になるらしい。

僕が、大分傷つけてしまったから、きっと毛皮の価値なんてあんまりないだろうなと申し訳なくなる。

冒険者ってそういうことも、気を付けなきゃいけないんだ。

お肉の方は売れないらしく、ここで全部解体してお肉だけもらうそう。

昨日解体した分を持って行くって言っていたから、今日もまだ子どもたちが解体しているはず。僕より小さい子たちなのに、立派だなあ。


「僕も……手伝えるかな」


身体を起こしてみると、喉まで食事が詰まっていそうだった感覚はなくなっていた。

しばらくちょこんと座っていたけれど、ディアンが帰ってくる様子はない。

滞在する代わりに働け、と言われたのだから、今日の分の仕事をしなくはいけないだろう。

そっと部屋から顔を覗かせてみたけれど、誰もいない。

いい、よね? ここから出るなとは言われなかったし。

ぺた、ぺた、歩く音が響く。

服も靴も洗っていると言われたけれど、どこにあるんだろう。

靴がないと僕、外へ行けなくない?


しばらく外廊下を歩いていると、賑やかな声が聞こえて来た。

同時に、中々不穏な臭いが漂い始める。

生々しい、覚えのある臭い。

そちらへ向かって駆けると、水場周囲でたくさんの子たちが凄惨な姿になっていた。

汚れるからだろう、シャツに裸足で作業しているよう。

すごいな、毛皮剥ぎから切り分け、加工。全て子どもたちで担っているらしい。

僕……教会ってもっとこう、神聖な場所かなって思っていたんだけど。

恐る恐る近づくと、気付いた子たちが一斉にこちらを見た。


「あ! 俺知ってる、ディアンのアニキが連れて来た子だ!」

「違うぞ、お肉をくれた人だろ!」


わあわあと響く高い声が鳥のさえずりのようで、ふふっと笑う。


「こんにちは! 僕、ルルアだよ。僕もお手伝いできるかなと思って」

「えー、無理そう」

「うん、結構力がいるぜ。お前、女? 男? 力なさそうだし」


スパッと言われて、ものすごくしょげた。僕より小さい子にまで、そんな風に見えるなんて。

そして僕って、ディアンたちと同じ保護者側じゃなくて、養われる側だと認識されている気がする。


「あの、でも僕ね、ウサギとかは解体したことあるよ。教えてくれたら、手伝えるんだけど……」

「しょうがねえな、けど、怪我したら怒られるぜ」


来い来いと手招かれ、傍らにあった大きなナイフを渡された。


「これから俺がやるから、よく見てな」

「う、うん」


セリフは大人みたいだけど、得意満面の顔が抑えられていない。つい僕の顔もほぐれてしまう。

だけど、その腕は本物だ。

捌いたことなんて数えるくらいしかない僕より、よほど上手。


「やってみなよ、別に難しくはねえし」

「ありがとう」


にこっとすると、はにかんだ笑みが返ってくる。

わあ……子どもって、かわいいんだな。僕もきっと、こんな風だったと思うのだけど、師匠はかわいいって思ったかな。ああでも、人間嫌いだと、子どもも嫌いかな。

なんて思いながら、ナイフを入れる。


「う、んっ……?!」

「「「弱ぇー!」」」


周囲で注目していた子たちが、やっぱりなと言わんばかりの顔で、きゃっきゃと笑った。

ええ……嘘でしょう?! なんて固い!

食べたらあんなに柔らかかったのに!


「どーぶつじゃないからな! 魔物って固いんだぜ!」

「そうなんだ……みんな、力が強いんだね」

「まあ、うーん……」

「ルルアが弱すぎるだろ!!」


濁してくれた年かさの子の横から、小さな子が元気にそう言って逃げて行った。

足、速いなあ……。

僕、自分がそんなに弱いって知らなかったよ。


「今から頑張ったら、強くなるかなあ……」

「えーと、さ。ルルアはお上品だし、きっとイイトコにお嫁に行けるから! 多分大丈夫だ!」

「僕、男の子だよ……? お嫁って女の子じゃないとダメだよね」

「アッ……俺、向こう手伝ってくるから!」


しまった、とありありと顔に書いて、年かさの子はぴゅっと逃げて行ってしまった。

僕、どっちなのかややこしい感じなんだ。

そんなこと、考えたことなかったけど。でも、ディアンや師匠を女の子かどうかって迷うことはない。なんだか、ちょっとがっかりした。


ひとまず一からの解体は無理と判断して、切り分け班に行ってみたけれど、これも中々力がいる。

汗だくになる僕を見かねて、ついに洗い物班に格下げされてしまった。

ここを担当している子は、他よりもっと幼い。

だけど毛皮を足で踏みながらせっせと洗い、ちまちました手でトレイやナイフを洗う。上手なものだ。

じっと見る視線に気づいたか、僕を見上げて照れ臭そうにえへっと笑った。

釣られて、えへっと笑み崩れる。

……楽しいな。

役には立ってないけど、たくさん人がいて、一緒にいろんなことをしている。

なんだかそれが、とても楽しかった。



解体場から少しずつ子どもたちが減っていき、5人ほどになった頃には、てっぺんにあった太陽が随分傾いていた。


「ルルア、解体したら、ちゃんと手を洗え」

「ふふ、ありがとう」


僕の胸までしかない子が、きりりとした顔で服の裾を引く。僕の、面倒をみているつもりなのかな。

みんな話し方が似ているから、小さいディアンみたいでほっこりする。

……そう言えば、まだ帰ってきていないのかな。

遅くはならないって言ってたけど、『遅く』って何時くらいを指すんだろう。

何気なく、ディアン色をした空を見上げた時、ミラ婆さんの声がした。


「走るんじゃないよ! 先に手当しなっ! あの子は大丈夫だって言ってんだろっ!!」


朝聞いたおっとりした声とは違って、叱りつけるような大音量の声。

ビックリして振り返った時、物凄い速さで走る人と、大分後ろから追いかけるミラ婆さんが見えた。


「……ディアン?」


どうしたんだろう、と瞬いた時、ハッとこちらを見たディアンが足を止めた。

肩で息をしながら僕と視線を合わせ、舌打ちしてどこかへ行ってしまった。


「え? ディアン?!」


今――確かに見えた、赤。

……怪我、してる?! どうして?!

駆け出そうとして、むんずと捕まえられてしまった。


「あの悪ガキはまた……あたしが行っても、どうせドアを開けやしないんだから。これ、頼んどくよ」

「え、え……?」


押し付けられたのは、応急セットだろうか。

ぷりぷり怒りながら離れていくミラ婆さんをぽかんと見送って、僕は慌てて駆け出した。


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