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【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第二章

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18 初めての場所

「――うわあ、なんにもない!!」


森を抜けたら、町があるのかと思っていた。

目を輝かせて見回す僕に、ディアンが呆れた顔をしている。


「何にもねえのに、何で嬉しそうなんだ」

「だって……見たことない景色だもの!」


本で町を見たことはあるけれど、僕の知っている景色とあんまり違って、ちょっと想像がつかなくて。森と町って、どうつながってるのかと思っていた。

だけど、僕の想像はまるきり違ったみたいだ。

森を抜けたら、丸坊主の緑! 草しかないよ?! そして、びっくりするほど広い、広い空。

急に、空気がたくさんになった気がする。

……なんだか裸ん坊になったみたいな、心細さ。

狭い所に行きたい。囲まれた、どこか。


「……何やってんだ」

「あの、ちょっと僕、こういう所が初めてで……」


ディアンの脇の下に入り込むと、ものすごく不審な目で見られた。それはそう。

でも、ちょっと慣れるまで挟まっていたいと言うか……。


「草原の方が怖ぇえとか、聞いたことねえ。森の方が、よっぽど危険で怖ぇえだろ」

「そう……かな。確かに、本にはそう書いてあったけど」


歩きにくそうにするディアンに、申し訳なく思いつつこのスペースは譲れない。

静かになった僕を気遣ってか、今度はディアンが色々話をしてくれる。


「少し急ぐぞ。魔物は大したのは出ねえはずだけど、野盗が厄介だ」

「や、野盗が出るの……? それって、人だよね。出たら、どうするの?」

「魔法、ぶちかませ」

「ええっ?! もし当たったら、し、死んじゃうよ?!」

「当たったらじゃねえわ、当てろ、仕留めろ」


びっくりして見上げた目は、少しも笑っていない。

本当に……? 本当にそんなことをするの……? 魔物じゃないのに?

何も言えなくなった僕に、ディアンがふうと息を吐いた。


「……お前には無理そうだな。なら、そこで躊躇うより、逃げる方に全力尽くせ。逃げられるように、魔法を使え」

「う、うん……」


それなら、できそう。ホッと息を吐いて、そろりとディアンの脇の下から抜け出た。

多分、もう大丈夫。怖い場所じゃあない……はず。

まだ、心細さは残るけれど、ほっぺにふわふわ、傍らにディアン。これなら、大丈夫。

誇らしげに『るっ!』と鳴くグリポンに頬ずりして笑うと、遠く見えて来た町に心を弾ませる。

あれが、町。人がたくさんで、建物がたくさんで……!


「――あ、しまった」


ふいにディアンが呟いたから、何かあったのかと思ったのだけど、彼は僕をじっと見ている。

僕……?


「お前のカッコ、それじゃちょっとアレか……」

「恰好? 変かな……あっ!!」


不安になって見下ろして、気が付いた。

すっかり忘れていたけれど、僕、血まみれのままだった。それも、首から胸元にかけて酷いことになっている。

これ、下手したら犯罪者みたいに思われるんじゃ!


「ど、どうしよう? そうだ、水魔法で洗う? でも、今度はびちゃびちゃになっちゃうけど」


せっかく、乾いて……というか固まっているのに。そういえば、首やアゴ辺りがぱりぱりする。


「ひとまず、首元を拭け。マジで、遅かったのかと……」


思い出したように顔を歪めて、ディアンが唇を引き結んだ。

ああ、それであの時、あんな顔をしていたのか……。

だけど、慌てて拭こうとして止められた。


「いや……これはこれでいいかもな。町に近づいたら、抱えていいか? お前、目ぇ閉じてろ。この調子だと、着くまでに門が閉まる。怪我してるっつったら、手っ取り早く門を開けんだろ」


にやっと悪い顔をしたディアンに、それって大丈夫なのかと眉尻を下げる。


「問題ねえよ。つうかお前、何も証明書持ってねえだろ。めんどくせえ。そういうのもすっ飛ばせてちょうどいい」

「も、問題ないの……??」


騙していることにならない? と思ったけれど、怪我したのは確かに事実ではある。もう治っているだけで。じゃあ大丈夫なの、かな? 

そしてもうひとつ、気になる言葉が。


「あの、証明書ってどんな……? ないとダメなの? 僕、悪い人になっちゃう?」

「ならねえよ。俺なら、冒険者証だ。けど、フツーお前みたいなガキが持ってるわけねえし。ただ、門が閉まってるとめんどくせえんだ」


どうやら、それでも入れないことはないようだけど、手続きが必要らしい。

あと、多少のお金も。


「僕……町に入るのにお金がいるって知らなかった……」

「だから、普通はいらねえって。町に入ってから、冒険者証でも作れ」

「僕、冒険者になれるの?!」


ぱっと顔を輝かせると、ディアンが苦笑した。


「一番下のランクなら、誰でもなれる。登録するだけだ。お前、素材売りたいんだろ? なら、冒険者証は持っていた方が便利だな」

「そうなの? あの、ディアン……もうちょっとだけ、町に着いてからも一緒にいてくれる?」

「ああ。むしろ、一人にできるかよ。すぐさまどっかに売り飛ばされそうだ」

「え! 僕、売れるの?! いくらで?!」

「…………気にするのは、そこじゃねえ……」

「あ、そっか、ごめんね。大丈夫、分かるよ、危ないってことだよね!」


じとり、と目を眇めて僕を見たディアンが、地の底を這うような溜息を吐いた。

ご、ごめんね。僕、本当に物知らずなんだなとガッカリする。

魔法の事とか、素材のこととか。あと、病気とお薬とお料理のこと。そういうことはすごく勉強したけれど、他のことが疎かになっていた。だって、必要なかったんだもの。


「僕、色々頑張って覚えるね! 素材を売ったら、少しお金ももらえるはずだから、ディアンにもお金を払えると思うよ!」

「なんでてめえが払う側なんだよ……」

「どうして? 教えてもらうから……」

「その前に、俺の命の代金は?」


そうか、ディアンはあの時も、お金がどうとか言っていた。

少し安堵して、にっこり笑う。


「じゃあ、回復薬のお金の分、お願いできるってこと?!」


あれって僕のというより、師匠からもらっていた回復薬だけど。

いいのかな、と思いつつ、正直素材を売ったお金で足りるか分からなかったから、心底ほっとした。

ディアンは、『もうそれでいい……』なんて諦めた顔をしていたけれど。


「前にも言ったと思うけどよ、俺は教会に間借りしてる。お前も、しばらくはそこに居ろ。色々教えてやるから、満足するまで聞け。その代わり、そこで働け」

「うん! 本当に、何からなにまでありがとう!」


ぱっと笑うと、ディアンは額に手を当てて天を仰いだ。


「……あのな、疑え。簡単に『うん』って言うな。仕事内容を聞け。お前、マジで放り出したらマズい」

「ご、ごめんね……」


だって相手がディアンだからだよ、と言ったって信じてもらえないんだろうな。

くすくす笑って、薄暗くなり始めた道の先を見つめる。

きっと、言ったら嫌な顔をするだろう。だから、言わなかったけれど。

本当に……優しいね。

夜になっても煌めいているだろう、お日様の橙を見つめて、僕はご機嫌に笑ったのだった。


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