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【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第一章 ルルアの小さな世界

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16 獲物になるのは

撃ちまくれ、と言われたから。

僕は、遠慮なく撃った。大丈夫、ディアンがいるから。

大丈夫、このくらいの消費なら、いくらでも。

僕たちの通った跡が、すっきり藪のないきれいな道になっていく。そこへ転々と落ちている、ヒヒ犬の遺骸。


「お、おう……すげえな? 俺、いらなくね? 魔法ってすげ……」


ぼそり、と背中から声がして、乱撃を止めた。

褒められて、頬が緩む。


「ありがとう! でも僕、ひとりだったら何もできなかった。ディアンが来てくれたから、頑張らなきゃって思って……」

「そうか。とりあえず、お前ひとりじゃ危ねえのは分かった」


ギャン、と響いた声に驚いて視線をやると、どうやら僕に飛び掛かってきた魔物がいたらしい。

……本当だ。僕、やっぱりダメらしい。しゅん、とした僕の頭に、ぽんと手が置かれる。


「馬鹿が、魔法使いが守りを他に任せんのは、当たり前だ。お前は、気にせず撃て」

「……うん!」


多分、師匠なら……きっとこんな風じゃない。だって師匠、ひとりでも強かったはずだから。

いつか、その高みに。

そう思いながら、再び乱撃を放ち始める。僕ができる、全力を、今使う。

もったいないなんて、思わない。だって僕、もういなかったかもしれないもの。


僕、二人しか知らないのに、その二人に何度も助けてもらっちゃった。

いつか、返せるといいのだけど。

町でたくさんの人を知ったら、僕、大丈夫だろうか。

その人たちみんなに、助けてもらったりしないだろうか。みんなに、お返しができるんだろうか。


魔法を使ってさえいれば、ほぼ寄って来ない魔物に、つい意識が逸れる。


「来るぞ!」

「えっ?!」


何が、と驚く僕の身体が、ぐいと引かれて転がった。

ガィン、と重い音がして、雄叫びが響く。呼応するように、藪の中からヒヒ犬が鳴く。


「いちいち転がんな! 立ってろ!」

「う、うん!」


そんなこと言われたって、と急いで立ち上がり、ディアンと睨み合う魔物を見た。

ヒヒ犬……だと思うけど、ひとまわり大きい。


「シルバーバックじゃねえか。どうりで。……いい獲物だ」

「獲物?」


なるほど、他のヒヒ犬と違って、頭から背中にかけてタテガミのような白い毛が生えている。

だけどそれよりも、ディアンの言葉にビックリした。

獲物……これ、獲物なのか。

僕……僕の方が獲物だと思っていた。

冒険者にとって、これが、獲物。

すごいな、と思う。

瞳をぎらつかせ、舌なめずりしそうな顔でにやり、と笑うのが。

僕とも、師匠とも違うな、と思う。

燃える火のような、強い強い橙の輝き。

僕も、こんな風ならな、と思う。……そして、師匠も。


「獲物なら、倒すの?」

「ああ。俺だけなら狙わねえ。けど、お前がいるなら……周り、任せられるか」

「え、う、うん?!」


任せ、るの……僕に?!

だって、だって、失敗してごめんねですまないよ?!

また心臓が走り出して、手が震えそう。

だけど、それは魔物に囲まれたときとは、違う。

また、鈍くぶつかり合う音がした。

飛び掛かるシルバーバックを剣で受け、ディアンがわずかによろめく。


「ディアンは?! ディアンは大丈夫なの?!」

「うっせえ! てめえの心配だけしてろ!」


怒鳴り返され、きゅっと唇を結んだ。

そっか、じゃあ、僕ができる最大は――こっちの魔物を全部倒して、ディアンを助けること!

両手を空へ伸ばし、ひと際大きく魔力を集める。

隙だらけだ。でもまだ、まだ大丈夫。さっきまでの魔法が効いて、魔物も用心している。

全力、全力だよ。

自分に言い聞かせるように呟く。だって僕、全力で魔法を使ったことがないから。

ちら、とディアンの方へ視線を向けた途端、そちらで藪が揺れたのが分かった。


「ディアンに、近づかないで! ――風のぉっ、乱撃!!」


ばっ、と両手を広げた。

……凄まじい音が響く。

耳が、聞こえなくなったみたい。

吹き乱れる風で、髪が、服がめちゃくちゃに動き回った。

広げた両手を、羽ばたくようにゆっくり自分の前へ。そして、再び広げて。

都度、移動する風の刃は、もはや刃の嵐のよう。

基礎魔法でも、小さな魔法でも、これだけ数があれば……!!


幾重にも刻まれた木が、ミリミリ音を立てて倒れ始める。

刈られた草が舞い、段々と僕らの周りの空間が広がっていく。

藪の中の魔物も、逃さず全て。

僕は、ディアンみたいに素早くないから。見えないから。だから、抜かりなく。

空間さえ広ければ、ディアンが奇襲を受けることはない。

森の中にぽかりと空いた、破壊の空間。

ふう、ふう、と息を吐いて、もう姿の見えなくなった魔物へ声を張り上げる。


「こっち来ないで! もし近づいたら……ええと、僕がやっつけるから!!」

「……そこは、『ぶっ殺す』ぐらい啖呵切れよ」


呆れた声に振り返って、あっと声が漏れる。

苦笑するディアン。その足元に、大きな魔物。

うわあ、と声が出た。

感極まって飛びつくと、びくともせずに受け止めてくれる。


「す、すごい! すごいよディアン、こんな強そうな魔物を……!!」

「いやぁ……お前に言われてもな……」


僕? 首を傾げながら、涙さえ浮かびそうで、ごしごし顔を拭った。

やったね、僕たち、勝ったよ……!

顔が熱くて、意味もなく飛び跳ねた。

まだ、胸がどきどきする。

興奮しきりの僕に、ディアンは大人のように笑って『落ち着け』と僕の頬をつまんだのだった。


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― 新着の感想 ―
いやー ルルア凄いじゃないの(^_^;
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