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異世界転生なんてしてたまるか!  作者: 雨白
第1章 始まりにして終わりの世界
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第7話 要注意人物

 美しい翠緑の瞳を持ち、特別華美ではないが、どことなくお洒落な服を見に纏った元気な少女に連れられ、綾音は医務室へと辿り着く。


「急患一名でーす♪」


 そう言って佳奈は綾音を伴って医務室へ侵入した。

 医務室の中は、白を基調とした色合いの特に何か特徴のある部屋ではなく、壁に沿うように置かれた棚の上には観葉植物が置かれている。

 その様子はまるで病院の一室のようである。

 部屋ついている一つの窓からは暖かい光が差し込み、すぐ近くにあるベットを照らしている。

 そのベットには綾音にとって見知った顔の人物が座っていたが、その手前にある椅子にはこれまた知らない顔の白衣を纏った小柄な少女が座っている。

 見知った顔の少女は綾音を見るなり、駆け寄って


「綾音ちゃん、あのあと大丈夫だった?」


と手を握りながら言う。

 握られていない方の手から流れる血に気づいたもう一人の人物は


「夜月ちゃん、少し話は後だ。ほれ、その手の傷を見せてみな」


 そう言って綾音が右手を差し出すと、すぐ近くの引き出しから包帯と塗り薬を取り出し、それを用いて適切な処置を行う。

 手際よく処置を行うその人物に綾音は問いかける。


「あの、あなたは…」


「ああ、申し遅れたね、私は桃園寺茂子とうえんじ もこ、ここの専属の医者さ。この組織についての説明は聞いたかい?」


「ええ、おおよそは」


 綾音の手当が終わると、夜月は綾音に話しかける。


「綾音ちゃん、私ね、初めて怪我をしたの、あんなに痛いなんて知らなかった!みんなあんなに嫌がる理由がわかったわ!」


 夜月は嬉しそうに言う。


「…ええ、それは良かったわね、それより、アンタは尋問とか大丈夫だったの?」


「尋問?綾音ちゃんはそういうのがあったの?」


 夜月は予想外の回答をした。

 この回答を聞けば夜月はあの尋問を受けていない事は一目瞭然である。

 夜月が尋問を受けていない、綾音はその事実に対して色んな思考を巡らせるが、それに歯止めを加えるかのように茂子は発言する。


「夜月は随分と前にうちの組織に確保された異常実体だよ。まあずっと檻に閉じ込めといても意味がないって事で、要注意人物として監視を付けながら一般社会に離したんだけどね」


 茂子の発言によって綾音が抱えていた疑問には終止符が打たれた。夜月はずっとこの組織に監視されていた。おそらく夜月が柏木が担任を務めるクラスに転校してきたのも必然であったのだろう。

 さらに、あの亀裂が発生してまもなくこの組織に駆けつけられたのも、おそらく夜月に発信機か何かを取り付けて監視していたからであろうとも綾音は考えた。


「君もおそらく要注意人物として、これからこの組織の管理下に置かれるだろう。どのような扱いになるかは上の判断によるが、当分はここで過ごす事になると思う」


 茂子は綾音にそう告げた後、夜月の肩に手を置いて


「少し、ここの案内をしてやってくれ」


 そう告げる。

 夜月は少し嬉しそうに頷き、綾音の手を握って


「さあ、行くわよ。まずは西側から案内するわね」


と笑顔で言った。

 綾音は夜月の案内で広大な施設の廊下を歩き、様々な場所を巡る。

 西側に食堂、事務所、書庫などがあり、南側が宿舎、東側は倉庫で埋め尽くされ、北側にあの尋問部屋や異常物品と呼ばれるこの世の理では測れない何かが収容されている部屋があるようだ。

 中央には巨大な空室が存在し、各区間を巨大で頑丈な扉越しに繋いでいる。

 綾音は歩きながら案内を続ける夜月に尋ねた。


「そういえば、アンタ、傷は大丈夫なの?」


「アンタじゃなくて、夜月ちゃんって呼んでほしいな〜、一緒に危機を乗り越えた中でしょ」


「わかったわよ、えっと、夜月ちゃん、それで傷は大丈夫なの?」


「よく出来ました、これからもそう呼んでね。傷はまだ痛むけど、でも茂子さんがいうには数日で治るって話だから。」


 すぐに茂子の診察に間違いはないだろうと綾音は考えた。綾音はあの傷を負わされる場面を綾音は間近でみていた。その傷の規模は、言ってしまえばカッターで誤って指を切ってしまっただとかその程度の傷である。

 しかし、夜月は明らかに傷の規模に合わない猛烈な痛みに対する反応をしていた。

 あの場にいた鎖の刃を操る超常の存在、あの存在の持つ鎖には神経を激しく刺激する毒か何かが含まれている可能性を綾音は危惧したのだ。


「ごめんね、心配かけさせちゃって、多分これくらいの傷って普通そんなに喚くような傷じゃないのよね、でも私にとっては人生で負った怪我の中で1番大きい傷なの」


 夜月は申し訳無さそうに、そして少し悲しそうに言う。

 不傷の呪いの影響で痛みに慣れていない彼女にとっては、たとえ私たちが普段無視しているような小さな痛みでも、耐えがたい苦痛となってしまうのだろうと綾音は考える。


「いえ、謝られる筋合いはないわ、むしろ私がお礼を言わなきゃいけない立場よ。

 夜月ちゃんが助けてくれなかったら、私はとっくに死んで異世界行きよ、本当に、ありがとう」


 綾音は少し恥ずかしそうに少し顔を傾けながら言う。

 すると夜月は笑って


「ふふ、わかったわ。それじゃあ、綾音ちゃんのこともっと教えて欲しいな〜」


と言って夜月は綾音に擦り寄る。

 綾音は少し困惑しながらこれまでの事について今一度詳細に話し始める。


***


 雨上がりの晴天、地面は泥濘んでいるが、この場に集結した人員は日々過酷な訓れに耐え、時に大規模災害の際、民間人の救助をする事もある。

 それは自衛隊と呼ばれる、日本唯一の軍事力であり、数少ない戦闘や過酷な地ので行動について訓練された集団である。

 彼らは現在、異常事物研究機関の指揮下の元で“亀裂”と呼ばれる異常実体の周囲2km圏内を封鎖し、そのほか異常な実体が確認されないか調査を行なっている。

 幸い、“亀裂”が山中に発生したおかげで、民間人への被害はなく、また、亀裂のある場所へ通ずる道も限られていたために封鎖も容易かった。

 彼らは亀裂から再び何かしらの異常実体が発生する可能性に備えて、常にその亀裂を監視し、警戒している。

 彼らは民間人と比較すれば圧倒的に強く、それに加え、政府から支給された武装を身につけている。

 しかし、それでもやはり、ただの人でしか無い彼らは超常の力の前にはあまりに無力であった。


バァン!!


 突然、亀裂の内部から巨大な光の斬撃が放たれ、自衛隊の敷いた包囲網は一瞬にて打ち砕かられる。

 場は一瞬騒然するが、彼らは訓練を受け、また異常に対処するために必要な覚悟を備えていために、すぐに冷静になり、立て直しを図る。

 防弾着をきた集団は、大盾を持って亀裂を包囲し、その後ろの集団が亀裂に向かって銃を掃射するが、内部から出てきた少女は手に持つ杖で銃弾を弾きながら亀裂から飛び出し、地面に降り立つ。

 その金髪のサイドテールの少女は、勢いよく地面を蹴り、明らかに人間が出せるスピードを超過した速度で大盾を構えた集団に突撃し、彼らを吹き飛ばす。

 すぐ後ろの隊員はその少女に銃を向けて引き金を引こうとするが、その前に杖で頭を勢いよく突かれて気絶する。

 周囲の隊員もそれを認識すると一斉にその少女に銃を向けるが、発射前に杖を振り回した少女によって、手元の銃は弾き飛ばされる。

 素手になった隊員はそれでも少女を取り押さえようと直進するが、それは他方からの射撃によって阻止される。


「一体何が起こっている!」


 一部の隊員が、目を銃弾が発射された方向に目を向けると、そこには明らかに隊列に従わず、別の秩序のもとに動く隊員の集団がいた。


「貴様ら!何をやっている!命令違反だぞ!」


 部隊を率いる隊長が声を荒げてその集団に叫ぶが、彼らは全く聞くことなく、味方のはずの隊員を撃ち殺していく。

 また、これにより杖を持った少女への注意が逸れ、彼女は残りの部隊員を次々と殲滅していく。

 ある隊員が決死の覚悟で少女に抱きかかり、別の隊員は少女に向かって手榴弾を投げかける。

 手榴弾は勢いよく爆発し、少女はその隊員諸共爆発四散したと思われた。

 しかし、少女はギリギリところで爆破の直撃を回避し、再び動き始めるが、無傷とはいかず、全身の各所から血を流し、火傷を負っている様子である。

 隊員たちはこれを機と見て一斉にに襲いかかるが、彼女が傷口の手を当てると、その傷は一瞬にして塞がり、それによってある程度動きやすくなった少女は、杖を手に襲いかかった隊員を次々と殲滅し、ついには指揮下から外れた部隊だけが残った。

 まだ自衛隊の指揮にあった隊員は一斉に逃亡を図り、車のエンジンを起動させるが、その車は杖から放たれた光の斬撃によって一瞬で破壊される。

 こうして、この場所は1人の少女と一部の隊員の集団によって制圧された。


「セト、そんなに魔力を使ってしまって大丈夫なの?」


 杖を持った少女は隊員の集団に問いかける。

 するとその集団の中から、灰色の毛色の猫耳を生やした小柄な少女が出てくる。


「祖国の為であれば、わたくしがどうなろうと構いません」


 そう猫耳少女は語る。

 しかし、杖を持った少女は猫耳少女のその発言を良しとしなかった。


「今、貴方に死なれては困るわ。この命を果たす為にも、魔法の使用は程々にするように」


「わかりました、ルーシア様、ところで、権能の所在はわかりましたか?」


 杖を持つ少女はそう問われると、手元にある方位磁針のような何かを見て


「ええ、意外と近くに居るわね。そいつらを使って、残った機械の操作は出来るかしら?」


 杖を持った少女、もといルーシアはそう猫耳少女に尋ねる。


「可能です。何なりとおまかせ下さい。」


 そう言うと、2人の少女と、かつて自衛隊だった集団は歩き始める。

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