3話目 王子と公爵令嬢は二人で月の音を聞いた
行事が終わり、私は背を伸ばす。
それなりに疲労したのだ。
学園の生徒やその親たちも、だいたい帰っていったみたいだ。
高等部の生徒会役員は主催者側。
パーティ中は、食事どころか水分補給もままならない。
喉、乾いたな。
少し夜風に当たろう。
学園内の池の畔まで、私は歩いた。
水面には月が揺れている。
「う――ん。風が気持ちいい! 独り占めなんてもったいないね」
「それなら一緒に、お茶でもしばきましょうよ、お嬢さん」
背後から声がする。
声の主は分かっているのさ。
「それほど安い女じゃなくてよ」
「さすが筆頭公爵家令嬢。そして我が国が誇る天才かつ超絶美形、第一王子の婚約者様」
「自分で天才とか美形とか言うな!」
声の主こそ第一王子アリスミー殿下だ。
しゃくなことに私の婚約者でもある。
「ほら」
殿下は私に紫色の果物を投げる。
「あ、これ好き」
「うん、知ってる」
手のひらサイズの果実は、甘酸っぱくて瑞々しい。
乾いた喉にしみわたる。
「どうせ殆ど、飲み食いしてないだろう?」
「う、うん」
チッ。見抜かれている。
なんとなく負けた気分。
「今日のドレス、カッコよかったな」
「そ、そう?」
走り廻ることも想定して、先ほどまでのパーティでは、男性が着用するタキシードみたいな服装していた。
「いつもカッコいいけどね、パリィは」
ニカッと笑う殿下。王族のキラキラ感が空中に舞っている。
カッコいいのは……。
本当にカッコいいのは……。
君だよ!
悔しい、けど。
「でも、ラリアは綺麗だったし、フローナは可愛かったでしょ?」
「うん」
「わ、私は、カッコいいだけ、なのかな」
ふわりと風が吹く。
殿下の右腕が私の肩を引き寄せている。
落ち着け心臓。火照るな顔面。
「今更だけど。わたしの妃は君だけだ。昔も今も……。
生まれ変わっても」
「忘れているよ、生まれ変わった時には」
「いいさ。覚えているから、わたしは。
だって、天才だから」
「だから、自分で天才とか……」
言葉は途中で止まる。
私は殿下の両腕に収まっていた。
アリスミー殿下の胸板は、思っていたより厚みがある。
剣技、鍛えているもんね。
互いの鼓動が重なる頃、月は天空で微笑んでいた。
こんな夜も、たまには良いのかな。
夏休みはまた、忙しくなるから。
Q なんすか、珍しく恋愛話になってますね?
A そりゃジャンルはイセコイだし。
パリトワとアリスミー殿下が麗しく描かれております。
「土いじり令嬢は二度目の恋を咲かせたい ~初恋は実らなかったけれど、熱心に花壇のお手入れをしていたら、本物の恋がやって来ました~ 」
2025年5月23日 配信始まります。