1話目 フローナと母ペリノ
コミカライズ記念のSSです。本編を知らなくても、なんとなくお読みになれる、と思います、多分。
それは私、フローナ・ドロートが初めてドレスアップして、パーティに参加した夜のことでした。
パーティといっても、通っている学園の中で行われた、規模としては小さめのもの。
でも、学園に在籍している我が国の第一王子様や、高位貴族の諸先輩とそのご父兄たちが参加された、ハイソな趣のパーティでした。
私の家からも、思いがけず母が来てくれました。
あ、父もいましたが、それはおまけ。
母は、私がお世話になっている学生寮に、泊まることになりました。
私は思い切り、母に甘えたのです。
そして、かねがね疑問だったことを母に訊いてみました。
「ねえ、お母さん」
「なあに?」
「なんで、お父さんと結婚しちゃったの? もっと良い男性、いたんじゃないの?」
コロコロと母は笑います。
「何を言うかと思ったら、フローナもそういうことに、興味を持つお年頃になったのね」
「だってぇ」
パーティには、母と同じ年齢くらいの貴族の男性も参加されていました。
爵位も人格も、父よりずっとずっと優れていらっしゃる皆様です。
何より、私の憧れのアルバスト先輩の御父上、イルバ公爵様と母は、学園でご一緒していたとのこと。
母は元々伯爵家の生まれです。
ちょっと頑張れば、公爵家との縁結びも出来たでしょうに……。
「でもね、お父さんと結婚しなかったら、私はフローナに逢えなかったわ」
母は私の頭を撫でて語ります。
「私はね、フローナ。高位貴族の夫人になるとか、王宮に勤める官吏になるとかよりも、なりたいもの、したいことがあったの」
「そう、なんだ。……ねえねえお母さん」
「何かしら?」
「お母さんのなりたかったものって、何だったの?」
母はふわりと微笑みました。
その晩遅くまで、私は母の話を聞きました。
ツッコミたい内容もありましたが、それは心の中に留めたのです。
◇◇母ペリノは語る◇◇
末の娘だった私は、妹か弟が欲しかったの。
子どもは好きだったから。
成長する姿を近くで見るって、素敵なことよね。
でも高位貴族の母親たちは、自分で子供を育てることをしないの。
私は出来るだけ自分の手で、子育てをしたいと思ったわ。
程々の家格で侍女やメイドが少な目のドロート家なら、自分の手で、子供を育てるという希望が叶えられる気がしたわ。
(それってドロート家が、ビンボーだったってことでしょうか、お母さん……)
それにね、あなたのお父さん、まあちょっと困った人だけど、二十年に一度くらいはカッコいいところを見せてくれるのよ。
(なんですか二十年に一度って。星廻り? 厄年か何か?)
そうねえ、婚約して、すぐの頃だったかしら。
ドロート家の領地を案内してもらったの。
ああ、いつもは岩牡蠣みたいにへばり付いているセラシア様が、その時は熱が出たとかで来なかったわ。
ドロート家の領地は広くはないけれど、緑には恵まれていてね。
お父さんは面白くもなさそうに、黙って木々の間を歩いていたわね。私の手を取ることもなく。
(うわっ。サイテー)
ぽとり。
何かが落ちて来たの。
見れば羽がまだ、ホワホワした小鳥のヒナ。
私は思わず拾おうとしたわ。
『やめろ』
そう言ったの、お父さんが。
(え、何で?)
『君がそのヒナの面倒を見る気がないなら、手を出すな』
それも自然の淘汰だって彼は言ったわ。ヒナが巣から落ちて、飛び立つことも出来ずに生き延びられないなら、それまでだって。
(お母さん、それでヒナどうしたの?)
彼が言ったことは間違ってない。でも私は納得出来なくて言い切ったのよ。絶対、ヒナが成鳥になるまで、そして寿命を全うするまで面倒みるって。
『まったく、これだから女は……』
彼はぶつくさ言いながら、手袋をはめてヒナを拾ったの。
『野生の生き物に触る時の鉄則だ』
その時ね。
その時だけは、スキーラは、お父さんはカッコよかった。
カッコよく見えたの。
(ああ、それこそが若気の至りってことですね、お母さん)
それが二十数年前。
そろそろ、お父さんのカッコいいトコ、見られるかも、ね。
(ああははは……。期待しないで待ってます)
◇◇続きは夏休みに
ところで、お母さんの一番なりたかったものって何だったのでしょう。
拾ったヒナは成長したのかな。
お母さんは毛布を掛けてくれました。
「ねえお母さん」
「お話の続きは、夏休みになってからね」
「うん。あのね」
「なあに?」
「お母さん
大好き」
私は毛布をかぶって目を閉じました。
母は小声で何かを呟いたようです。
あとでもう一回、聞いてみましょう。
「私が一番なりたかったのは、『お母さん』なのよ、フローナ。あなたのね」
フローナと母ペリノ 了
Q これって単なる宣伝用のSSじゃないっすか?
A おっしゃる通りです(きっぱり
あ、高取というより、亜積翔太先生の作画をぜひ、ご覧いただきたいと思います。
お読みくださいまして、深く感謝申し上げます。