第九話「味方」
ついにどこの団に配属されるか決まる。
だと言うのに、隣で一緒にご飯を食べてる、
トラジロウはあまり関心が無いようだ。
「トラジロウはどこになるか気にならないの?」
「あー、ないな、どうせ、赤のどこかだし」
「え? そうなの?」
「そりゃ、今この兵舎に青は居ないしな」
「気が付かなかった!」
言われてみれば、この兵舎に来てから、
青珊瑚の紋章は1度も見てない。
そもそも、黄色は無いから、必然的に赤になるのか。
まぁ、いいか。
もう1つ、考え事をする
修練の事だ。
ミノ中団長はいなくなったし、
タロウ中団長はいつも多くの者に稽古をつけていて、暇がない。
他の者に、盾を着けて戦う所を見られるのは、まだ少し恥ずかしさが残る。
だから、ここ2日は、
トラジロウに手合わせをしてもらってる。
でも、トラジロウは全然真面目にやってくれない。
トラジロウは人と戦うのは、
あまりやりたくないのかも知れない。
彼が人を傷つける所など想像もつかないしな。
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朝食を食べ終えて、部屋に戻る。
部屋に戻ると、
ドアの下か入れたであろう、紙が1枚あった。
見てみると、2人で第3会議室に来いとの知らせだった。
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トラジロウと2人で会議室に入る。
「全員揃ったか」
言葉を発したのは、タロウ中団長だった。
「貴様らは、今から赤珊瑚第3小団になる!」
とりあえず、空いてた席に座る。
第3小団……か、
僕の実力では小団には入れないと思ってた。
少し嬉しくもあるが、分不相応な所に入れられて、やって行けるか不安になる。
それにしても、なんでタロウ中団長がここに。
「なぜ儂がここにいるか、疑問に思うものもいるだろう」
心を読まれた!?
「先日、3名の小団長が戦で命を落とし、
穴埋めとして儂がこの小団に任命された。
ここにいる皆は、儂と手合わせした事があり、儂が欲しいと思った者だけを集めた」
周りを見回す。
女性が2人、男性が2人。
僕とトラジロウを足しても、6人しかいない。
小団は10人前後と聞いたが、6人は少なくないか?
タロウ中団長……じゃなくて、小団長を入れても、7人だ。
この人数で敵陣に切り込むのは無茶な気もするが、いや、他の団とも連携する場合もあるから、必ずしも7人じゃないか。
僕だけが不安なようで、周りは何処吹く風という顔だ。
「よく聞け! 我が小団は明日、西の戦地に向かう!」
その言葉を聞いてかなり焦る。
もう?
戦場に出るのはもっと後だと思ってた。
「貴様らを一端の兵士にする前に、戦場に連れていくのは忍びないが!
安心しろ! 今回の任務は陽動だ!
儂らが敵を引き付けている間に、味方が攻め込む。要は後方支援だ!」
後方支援?
どこが? と思う所もあったが、
口には出さなかった。
もしかして、この人、最前線じゃなかったら、全部後方支援って思ってるのかな。
そんなわけないか、
いや、思ってそうだな、
そんな顔だ。
「出発は2度目の鐘が鳴ったらだ。
以上! 解散!」
みんなぞろぞろと部屋を出る。
まだお昼にもなってないや。
明日実戦か。
どうにか不安を消したくて、
トラジロウの片足を持ち、引きずって修練場に向かった。
彼の嫌だ!との叫びは僕の耳に入らなかった。
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寝る前に少しばかり、トラジロウと話す。
「水色の髪の女、めっちゃ美人だったなー」
「え? あぁ、うん」
「なんだよ、ちゃんと見てなかったのか?」
「そんな事より、もう戦場に出る事の方が僕は心配だよ」
「それこそ、そんな事だろ。おれたちぁ、昨日まで見習いだったがよ、兵士なんだから、いつ戦に出てもおかしくないだろ」
最近は、兵士からかけ離れていて、
お調子者に思っていたトラジロウだったが、
今この瞬間、とても立派に見えた。
兵士の覚悟が足りなかったのは、僕の方だ。
ここ最近、兵士になってから不安や心配な気持ちが大きくなった気がする。
おかしい。
僕は家族や村のみんな、そしてミノさんが、
悲しい事や不安な思いをさせないために、
兵士になったのに。
僕が不安に思ってたらダメじゃないか!
うおおおお!
「イサミ! 急にどうしたんだ! おい!」
ベッドを持ち上げて、スクワットする。
暗闇のなかで素早く、1回1回丁寧に。
「イカちまったのか!?」
この日、トラジロウは入団以来初めて、
恐怖を感じた。
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出発の時が来た。
支給された鉄の剣を背中に掛ける。
盾は左手に着けておく、いつ戦闘になってもいいように。
今回の任務はスクデ砦の奪還だと言う事だけ、伝えられた。
詳しい内容は道中にするようだ。
スクデ砦までは、7日か6日程掛かる。
スクデ領はもう、敵の領域だが、
砦くらいしか高い所が無く、砦寸前まで、
敵の見張りや待ち伏せは無いに等しいらしい。
まぁ、いても戦うだけだから、どちらでも良いという感じかな。
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ここ数日で小団の者たちの事を知った。
当然ながら野宿だ。
地面に横たわり、腕を枕にして寝ようとする。
眠れない。全くと言っていいほど眠れない。
これは、すぐは慣れないな。
そういう訳で、見張り役とおしゃべりした。
1日目は、薄い黒髪の男の人と話した。
彼の名はキヨマルと言う。
前髪はパッツンで、後髪は結んでいる。
女の人見たく見える。
僕よりも幼く見えるから、歳下かと思って、
聞いたら年上だった。
道中気がついたが、
彼は馬に乗ってる時は、背中に剣を背負うが、降りると必ず腰に剣を付ける。
だから多分、剣士だ。
どうして、兵士になったか聞いたら。
村で1番剣が速いからと言われた。
そうか、丁寧な言葉で喋るから、
忘れてたが、彼も見習いから小団に入ってる。
きっと強いのだろうと思った。
そう思ったら急に目の前のやつがバケモノに、見える。
2日目は、黒髪の女の人だ。
彼女の名前はチカセと言う。
彼女の肌は透き通るように白かった。
髪も肩辺りまであり、元いたところでは、
さぞかし人気があっただろう。
かなり僕を警戒してるのか、なかなか口を開かない。
でもたまに、質問してくる、
好きなご飯はなに?とか、元は何してたの?とか。
結局、僕は彼女名前と、背中に剣を背負ってたから、戦士だとしか分からなかった。
3日目は、僕が見張りだ。
ただただ、焚き火を睨む。
そして、今朝の事を思い出す。
今日の昼間の移動時に、最後の1人。
茶髪の男の人と話す機会があった。
でも、彼は僕に「盾持ちとは話す気にならん」
と言い、僕は何も言えなかった。
そんな僕を慰めるかのように、
ケンジロウが元気出せよと、話し相手になってくれた。
4日目は、さすがに3日3晩起きてて眠い。
慣れない地面でも、ぐっすり眠れた。
その日の見張り役はトラジロウだったらしく。
次の日、トラジロウになんでおれの時は、
話し相手になってくれないんだよと、怒られた。
今度なにか埋め合わせをする約束をしたので、許してくれた。
5日目は、水色髪の女の人だ。
彼女はアンネ・マイヤーと名乗った。
この国では珍しい名だ、それに家名まである。
他の国の貴族様かな、彼女のウェーブのかかった髪は、高貴な感じがする。
貴族なのかと、聞いたら、平民の出と言われた。
この質問を機に、少し不機嫌になったのか、僕の質問には答えてくれず、質問攻めをされた。
6日目、僕達はスクデ砦が遠目で見える距離まできた。
僕達は、森の中で身を潜める。
火は焚かない、敵にバレないように。
少しばかり薄暗い中で、タロウ小団が皆を集める。
「儂はこれから、既に到着しておろう青と、最終作戦会議をしに行く。
貴様らはここで待機。何かあったら呼びに来い」
そのまま僕達は、腰を休める。
随分と時間が経つ、もう夕暮れ時だ、
作戦開始は明日の早朝になろうか。
そんな中、夕日が森に射し込む、
ほんの一瞬、
遠くの木の上の方にあった枝が、
沈むのが見えた。
僕は鳥か獣かが、枝に乗ったのだろう、
そう思って枝の上を見る。
そいつは、こちらをじっと見ていた。
そこには、全身黒ずくめがいた。
だが、1箇所白いところがある、
瞳の回り、つまり眼球が白い。
そんな生き物は……人!
小団の何人かが僕の、声にならない声を聞いたか、
それとも、僕の目線の先を見たか。
誰かが、叫ぶ!
「敵襲!」
心の準備が整う前に戦闘が始まってしまった。