第八話「眠れる獅子」
目が覚める。
だが、ベッドの羽毛布団を頭まで被せ、包まる。
しばらくすると、鐘の音が聞こえてくる。
ようやく体を起こす。
この街では毎日、日が昇ってから沈むまで、
15回の鐘が鳴る。
僕の村では10回以上鳴ったり、鳴らなかったりと、大雑把だった。
それゆえか、未だに慣れない。
「はぁぁぁぅ」
大きなあくびをする。
横を見る、
トラジロウはまだ、ぐっすりしている。
「何としても……ふにゃふにゃ」
寝言を言っている。
どんな夢を見てんだろう。
そんな事より支度しないと!
2度目の鐘が鳴る頃に、室内の修練場に行かないと。
入団時にもらった、革鎧を着ようとする。
ああぁ、トイレ行って無かった。
ドタバタする。
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ようやく準備万端だ。
修練場に入る、
兜を着けていなかったので、すぐに分かった。
薄い紺色の髪。
僕が期待した人がそこにいた。
「おはようございます!」
すぐに挨拶をする。
「おはよう……」
一瞬硬直したように見えた。
「そうか、君だったのか……タロウ中団長殿が、言っていた稽古をつけて欲しい者とは、本当に兵士になっているとは」
「お久しぶりです! あなたに稽古をつけて貰えるとは光栄です」
「変わった奴だ……、そうだ、まだ名前を聞いてなかったな。私はミノだ」
「イサミです」
「イサミ、構えろ! 始めるとしよう」
盾と木剣を構える。
稽古は昼過ぎまで続いた。
「ふう、ここまでにしよう」
彼女の一声で、体の力が抜ける
最後まで、僕の剣は彼女に、当たらなかった。
鉄壁とはこの事なのだろう。
タロウ中団長は力と素早さが凄かった、
でもあと、100回ぐらい手合わせしたら、
剣を当てれそうな気はした。
対して、ミノ中団長は、何回やっても攻撃が当たる気がしない。
「ミノ中団長ってすんごい強いんですね」
「んふ!」
彼女の口角が大きく上がる。
とても嬉しそうだ。
「ま、まぁなー! 1対1なら負けはしないさ!
……勝てもしまいが」
最後だけボソッと声が小さく、
上手く聞き取れなかった。
もしかしたら、ウルスの王はこれを分かっていて、撤退したのだろうか。
いや、違うな、僕とは実力が違いすぎる。
未だに鮮明に覚えてる、ウルス王の技を。
あの時、2人が戦っていたらどうなっていたんだろう。
うーん、気になる。
聞いてみるか。
「ミノ中団長、僕の村でウルス王と対峙した時の事、覚えてますか?」
「うん? あぁ、もちろんだとも」
「勝てるから、挑発を?」
「あの時は、王をあの場にとどめておきたかった」
「?」
「私が1対1で時間稼ぎしているうちに、
私の残りの部下が回り込み、包囲する。
そして、北西にいる別の団が、南下して逃げ道を塞ぐ策だった」
「そうだったんですか」
「まぁ、1体1では無く、全員で来られて乱戦になったら、突破されていただろうな
後方には仲間がいなかったし」
んー!とても複雑!
「策略など考えず、1対1だけの勝ち負けは、
正直分からない。私も、初めて会ったからね」
それはそうか。
初めて会うし、僕と違って彼女は王が戦うのを見てないし。
「まぁ、多分だけど、彼は私が盾持ちなのを見て、長引く事を嫌がったかもね」
「なるほど」
あれ、あの時、ミノ中団長は盾なんか持ってたけっけ?
全身鎧と顔しか見てなかった。
「明日も、稽古つけてもらえますか?」
「すまない、明日には北の戦場に出なくてはならない」
急に憂鬱な気分になる。
「赤の大きな部隊編成があったから、滞在していたんだ、本来ならすぐにでも行くはずだった」
「それは……残念です」
北は今、激戦区だったかな。
無事でいて欲しい。
僕よりもずっと強いんだ、大丈夫か。
「それより、君の盾には、光るものを感じる、精進しろ! (磨けば、私よりも……)」
「はい!」
そこで別れた。
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あまりにもお腹が空いた。
思えば、朝も昼も、まだ食べてない。
昼もかなり過ぎているせいか、
食堂にはポツポツとしか人がいなかった。
今日は何にしようかな。
鮭定食にしよ!
なかなかに美味しかった。
だが、まさか鮭が丸々出てくるとは思わなかった。
ウッ! 食べすぎた。
吐きそう。
深呼吸して抑え込んだ。
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部屋に戻る。
そして僕は驚愕する。
鮭が丸々出てきた以上に。
トラジロウ! まだ寝てる!
なんて奴だ!!
そう思った。