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勇者  作者: 海目 愚丸
食われた明鏡編
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第五十五話「いざ隠れ村へ」


 日が昇り始めた頃。


 ついに待ちわびていたその時がやってきた。

 朝の見回り番と交代する頃合い。

 すなわち、ヒワシが言っていた隠れ村へ出発のその時だ。


 僕たちは、交代する兵士たちと軽く挨拶をして、すぐに隠れ村へ出発の準備に取り掛かった。


 と言っても、僕が1度兵団の野営地に戻って、馬小屋から(シラホシ)を連れてくるだけだ。

 それ以外の荷物は既に持ってきている。

 シラホシにはそれらの荷物を担いで貰うってわけよ。


 あぁ、あとヒワシも来る。

 日の出の頃合いぐらいに、僕たちが見回り番をしている最東端で待ち合わせのはずだ。

 だからヒワシが来るまで待たなくちゃな。


 そんなことを思い出しながら、僕はシラホシを連れて最東端に戻ってきた。

 

 すると、すでにみんな合流してるらしくて、待ち合わせ場所の人数が増えていた。

 最初から待ってもらってるキヨマルとアンネの他に、白衣を着ているヒワシがいた。


 あれ? でもなんか1人多いぞ?

 なんか頭がすっぽり入る笠を被った人がいる。

 誰だろう。


 僕がみんなの元にたどり着くと、キヨマルが笠を被った人に手を向けながら、僕に顔を向けた。


「イサミ、彼女はセンカさん、ヒワシさんの助手で、材料集めの目利き役だそうです」

「よ、よ、よろしくお願いします」


 そう言って笠を被った女の人はおじぎをした。

 その際、勢い余って笠がすぽっと抜けそうだったが、彼女は慌てて手で押さえ込んだ。


「こっちこそ! よろしく……」


 僕はなんとか動揺を隠しながら挨拶ができたけど、頭の中ではでんぐり返しを3回ぐらいはした。

 え、だってセンカじゃん。

 なにしてんの、みんなにアマテラスってことバレちゃうよ。

 ヒワシが連れてきたのか?


 そんな気がして、僕がヒワシを睨むと、ヒワシはすぐそれに気がついた。

 そんで近づいてきて、僕に耳打ちをした。


「大丈夫ゾ、バレたりしない」

「ほんとにー? キヨマルもアンネも、1度戦ってるんだぞ?」

「無論ゾ、たとえ笠を脱がされても、面は化粧しましたので分からないでしょうゾ」

「……そう、わ、わかった」


 ていうか、センカは材料集めの目利き役だっけ? たぶん、僕が市場で魚の善し悪しを判断するのと同じようなことをするんだよな。

 そんなこともできたんだ、センカってなんでもできるな。

 まぁ、とりあえず初対面って感じで行こう。



 そうして僕たちは出発した。

 


---



 ルナの街から東に4日。

 隠れ村が見える所にたどり着いた。


 1日1山を越えるぐらいの速さで移動した僕たちだが、よくヒワシとセンカはついてこれたと思う。

 山道に慣れてきた僕でも、未だにきついのにな。


 しかも今回、野宿したのは2日目の夜だけだ。

 一応短い休憩はよく挟んでいたけれど、それ以外はずっと歩きっぱなしだった。

 

 だが仕方ないことだ。

 熊とできるだけ鉢合わせないためにも、無理でも移動する必要があった。

 ここらの山はどこもかしこも、木に熊の爪痕があった。

 熊たちの縄張りじゃないところを見つける方が難しいだろう。


 まぁ、幸いにして熊に襲われることはなかった。



 さて、目の前に見える隠れ村。

 正確には、ちょっと山を下った先にあるのだが。

 こうして僕らが少し離れた位置から見下ろしてるのには訳がある。


 どうも、隠れ村の様子がおかしい。

 普通よりも小さめな家が8軒、密集しているだけで、村とは呼べないそこは、すごく廃れていた。


 最初は誰も住んでいなさそうと思ったのだが、なんと人がいたのだ。

 2人ほど屋外で薪割りをしていた。


 ただ、パッと見ても、その2人がそこらの住民でないことはわかった。

 兵士のような革鎧を着ているし、腰に掛けてる剣も、猟師が使う短剣のそれとは違い、2尺以上はある両刃の剣だ。


 兵団の見立て通り、間違いなく盗賊団の一味だろう。


「どうするキヨマル」

「そうですね、見た限りお仲間もいないようですし、暗くなる前に仕留めましょう」

「わかった」

「分かりましたわ」


 ヒワシとセンカをその場に残し、僕ら3人はジリジリと賊の2人に近づく。

 そして目配せで飛び出す頃合を測り、それぞれゆっくりと剣を抜き放った。

 と、同時に僕の頭上に枝が落ちてきた。



 山の中だし、鳥が木の間を飛んだら枝に当たって、枝を折ることなんてあるだろう。

 リスが木の上を走った拍子に枝を折ることもあるだろう。


 だから別段、枝や葉っぱが落っこちてきても気にする事はない、けれども、この時だけはなにか、ゾッとする感じに襲われた。

 きっとそう感じたのは僕だけじゃない。

 この時、アンネもキヨマルも僕と一緒に上を見上げたのだから。


 そしてそのゾッとした感覚は正しかった。


 僕たちの頭上にある木の枝の上に、1人の兵士が立っていた。

 3人目の賊か!?


 そいつは、僕たちが見上げた直後、左腰から剣を引き抜いて、枝の上から飛び降りてきた。


 着地したのはキヨマルのとなり。

 キヨマルとどちらが剣を振るのが速いか、勝負する気だ。

 

 ギィィン!


 手首1個分、キヨマルの方が速かった。

 しかし、首を刎ねることはできず、賊の剣とかち合った。

 

 2人が力勝負をしてる隙に、僕とアンネは賊の左右に回り込む。

 あとは剣を振るだけなのだが、賊の方もかなり腕が立つようで、対処が速い。


 ヤツは鍔迫り合いをしているキヨマルの顔に、拳を振り抜いた。

 もちろんキヨマルはそれを躱したが、賊はそもそも殴ることが狙いじゃなかった。

 振り抜いた手でキヨマルの襟元を掴んだのだ。


 そして、くるりと1回転してキヨマルを投げ飛ばした。

 しかも、投げた先にはアンネがいた。

 アンネは投げ飛ばされたキヨマルを受け止めきれず、体制を崩してしまい、2人はゴロゴロと山の斜面を転がり、隠れ村へと滑り落ちていった。

 

「キヨマル! アンネ!」

 

 くっ、僕が振り抜いた剣も簡単に躱されてしまったし、まずいな、コイツ強い。

 しかも、もっとまずいのが分断されてしまったことだ。

 せっかく人数有利だったのに、一騎討ちか。

 

「うおっ! なんだなんだ! って(かしら)じゃないッスか!」


 どうやら斜面下の隠れ村にいる賊2人にも気が付かれてしまったようだ。

 僕と目の前にいるヤツを指さしている。


 僕の目の前のヤツ。

 コイツは賊の(かしら)らしい、強いのも頷ける。

 

 だがそれにしても、見たことあるような気がする。

 顔を隠す兜を被って、身体にも金属の鎧。

 腰には左右に剣が1本ずつ。

 一体どこで見たんだったか。



 …………思い出したぞ。

 僕らがバレナ兵と共にルナの街に出征した時、多数のウルス兵の襲撃を受けたんだ。


 あの時、僕は人の命を奪わないと決めたのに、この手で奪ってしまった敵兵士がいた。

 その兵士の隣で僕と戦ってたのが、目の前のヤツだ。

 すごく足が速かったヤツ、たぶん、そう。

 

 だが、あの戦場にいた時とは違う鎧を身につけている。

 たしか、ウルスの紋章がついてる鎧を着てたはずだ。

 だから僕らは襲撃したのがウルス兵だと思ったんだ。

 なのに今は違う。鎧についている紋章は見たこともないモノだ。


 ってことは、コイツはウルス兵じゃないよな。

 盗賊団と思わしき連中から「(かしら)」って呼ばれてたし。

 でも、だとしたらなんであの時、わざわざウルスの鎧なんて身につけてたんだ?


 えーい! 今はそんなこと考えてる場合じゃない。

 目の前の敵に集中しろ!


 

 僕は半身で盾を前に構えながら、ちょっとずつ斜面の上の方へと移動する。

 僕が若干、目の前の兜兵(かぶとへい)を上から見下ろす形へとなった。


 本当は僕も斜面を降りて、下の廃村で戦いたい。

 そっちの方が地面がほぼ平だから戦いやすいし、キヨマルとアンネがいる。

 でもそうしないのは斜面の上の方に残してきた、ヒワシとセンカがいるからだ。

 

 この兜兵に僕らが気が付かなかったように、まだ他にもお仲間がいるかもしれない。

 それで、上の方にいるヒワシとセンカが襲われた場合、守りに行くにはこの立ち位置の方がいいだろう。


 さぁ! 来い!

 不慣れな地形だが、いつも通り盾で防いでからの反撃で仕留める!


 兜兵は僕の準備が整ったのを悟ったのか、ヤツは構え直した。

 左手で右の腰からも剣を抜き放ち、両手に剣を1本ずつ握った。


 大丈夫だ、1度戦っているから反応できるはず。

 しかも相手からしたら坂になっているんだ。

 あの恐ろしい速さも、ここじゃ活かせないだろう。


 そう思ったのもつかの間。

 兜兵は飛び込んできた。しかし、1歩じゃ僕の元へ届かなかったらしく、半分ぐらいの距離でもう片方の足を地につけた。


 思った通り、平地で戦った時よりも遅い。

 これなら頃合を合わせて、盾でヤツの剣を弾ける!

 

 だが、僕は頃合を見誤ってしまった。

 いや、頃合をずらされたんだ。

 

 兜兵の2度目の跳躍は、1度目と比べ物にならないぐらい速かった。

 ぜんぜん坂とか関係ない。

 くそっ、1歩目は僕に遅いと思わせるための罠だったのか!


 兜兵は右手の剣で袈裟斬りを放ってきた。


 ギャキィィン!


 どうにか盾で受け止めることはできた。

 でも、剣とかち合う瞬間に力むことが出来なかった。

 そのせいで、僕は力負けして体勢が崩れる。


「ぐっ!」


 このまま押し切られてたまるか!


 僕はかち合う剣を押し返すことをやめた。

 力を抜いて、受け流す。

 迫り来る2振り目、これは右手の剣で受け流す。


 勝負は兜兵の3振り目だ。

 ヤツは左右の剣を交互に振り抜いた。

 なら、また右手の剣を振って来るはず。

 今度こそ盾で弾き飛ばしてやる!


「なっ!」


 まるで僕の心を読んでいるのか、兜兵はまた左手の剣を振った。

 僕は仕方なく剣で防ぐ。


 なら次こそ盾で……くっ! また左手の剣を振ってきた。

 ことごとく僕の勝負感が外れる。

 いや、これまた外されているのか。

 兜兵は僕の右側を集中して攻撃してくる。右の脇腹や右肩、右太もも、左腕の盾が絶妙に届かない所だ。


 一応身体を捻って、無理やり剣を弾きには行ける。

 が、これはやらない方がいい。

 多分そんなことしたら、左側ががら空きになって、やられる。

 きっと兜兵の狙いがそれなのだろう。

 誘っているんだ、僕が無理に勝ちにいこうとするのを。


 僕はそんな誘いには乗らないぞ!

 僕は手堅く、確実に兜兵の勝ち筋を1つでも減らす。


 と、そう思った矢先。

 兜兵の連撃が途絶えた。

 ヤツは後ろに飛び退いて、距離をとったのだ。


 どういうつもりだ。

 僕は防戦一方だったのに、なぜ攻撃をやめたんだ?

 体力切れってわけでも無さそうだし……。


 兜兵の様子を窺っていると、ヤツはわなわなと震え始めた。

 

「やっと、やっと見つけたぞ」


 そして声を震わせながらそう言った。

 

 何を見つけたのかは分からない。

 こんな戦いの最中に珍しい鳥とか探してるわけもあるまい。

 兜で顔は分からないけど、目線的には僕の背後なような。



 だが、それよりもだ……。

 この目の前にいる兜兵、もしかして……。



 次の瞬間。

 兜兵は僕に向かって飛び出した。

 ものすごい速さだ。

 あっという間に目の前。


 ふと記憶が頭の中をよぎった、が、

 かまわず僕は踏み込んで剣を横に振った。

 今までは反撃狙いだったけど、今度は僕から攻める。


 しかし、兜兵にぴょーんっと上に跳ばれて躱された。

 そしてヤツはそのまま、生い茂ってる木々を足場に、お猿さんみたいに跳ね回って坂を駆け上がっていく。

 ほぼチカセがやるような動きだ、でももしかしたらそれよりも速いかもしれない。


 僕は振り返って兜兵の背中を捉えた時、ヤツが何を見つけたのか、ようやくわかった。

 ヤツは坂上から、僕たちの戦いを木陰から覗きみていたヒワシとセンカを見つけたんだ。


 どうしてあの2人を狙うのかは分からないけど、このままじゃ2人がやられてしまう!


「待て! 待てトラジロウ!」


 僕は咄嗟にそう叫んだ。

 先程、頭の中でよぎったんだその名前が。

 

 確信があった訳じゃない。

 先程の剣の撃ち合いを思い出しても、僕の知ってるトラジロウの動きじゃないし、剣の太刀筋も記憶のそれとは違う。

 そもそもトラジロウが剣を2本使ってるところなんて見たことがない。

 それでも、僕が兜兵をトラジロウなんじゃないかと思ったのは、彼の声があまりにもトラジロウと似てたからだ。


 カラカティッツァの兵舎で同部屋だったから、何度もその声を聞いた。

 いつもおちゃらけていて、場を茶化していたあの声色。

 うん、間違いない!


 今だって、僕の叫びに反応していた。

 一瞬だけど、肩越しに振り返って僕のことを見ていた。


 ただ、トラジロウと思わしき人の歩みが止まることはなかった。

 ヤツはもう、ヒワシとセンカを剣の届く間合いに入れていた。

 

 もし剣をヒワシたちに振られたら、僕は止められない。

 僕はまだ6歩、いや5歩地面を蹴らなくちゃヒワシたちと兜兵の間に割って入れない。

 くそ、なんのためにヒワシたちを背にして戦ってたんだか、いくらちょっと動揺したからと言ってしくじった。


 それでも、僕はヒワシたちがどうにか凌いでくれることを願い、坂を駆け上がる。

 そして2歩進んだところで、ついに兜兵はヒワシに向けて剣を振った。

 

 見たところ狙いはヒワシのようだ。

 ヒワシは「ギョー!」っと叫びながら、万歳の姿勢で坂下に飛び込んだ。

 狙ってか知らずか、ヒワシは兜兵の剣を躱しつつ、僕に近づいて来てくれた。

 

 僕は坂を転がって落ちて来るヒワシを通り過ぎ、兜兵の前に立つ。


「トラジロウ! トラジロウなんだろ!?」

「……」

 

 もう1回呼びかけてみるも、返事はくれない。

 兜兵は僕を見下ろしつつ、1歩後ろに下がった、そしてまた1歩。

 

「無事ですかイサミ! 今行きます!」


 この声はキヨマルだ。

 僕の背後、坂下から聞こえてきた。

 どうやら、隠れ村にいた賊2人は倒したらしい。

 

 これで2対1、いや、振り返って見てないから分からないけど、たぶんアンネもいるだろうから3対1だ。

 3人で追い詰めて、その兜剥いでやる!

 

 しかし、そうはいかないみたいだ。

 兜兵は両手の剣を鞘に戻し始めた。

 そしてまたぴょーんっと跳び上がって、木の上に上がった。

 先程やっていたみたいに木々を跳び回って、この場を去るつもりのようだ。

 

 僕はそれを眺めていることしかできなかった。

 あれは、僕じゃ追えない……。


「あれは、追えませんね」


 僕の隣にキヨマルはやってきてそう呟いた。


「先程聞こえましたけれども、あれはトラジロウだったのですか?」

「……わからない、そんな気がしたんだ」

「そうですか、なら聞き出しましょうか」

「え?」

「坂下の隠れ村にいた賊を1人捕らえました、今頃アンネが縄で縛っているでしょう」


 そういえば、アンネの姿が見えないと思ったら、そういうことだったのか。

 でも隠れ村にいた賊は2人いたはず。


「もう1人は?」

「殺しました」

「……そう」


 遠のいて、どんどんと小さくなっていく兜兵の後ろ姿は、とうとう見えなくなってしまった。

 彼の正体が本当にトラジロウなのか。

 これから捕らえた賊から聞き出そう。

 ……それとヒワシにも聞かなくちゃ、トラジロウはヒワシを狙っていた。もしかしたらヒワシはトラジロウのことを知ってるのかもしれない。


 でもとりあえず、みんな無事で良かった。

 いや、よくよく見たらヒワシが怪我してる。

 兜兵の剣を避けたように見えたけど、避けられてなかったらしい。

 背中に横一文字の傷跡ができていた。

 まぁ大丈夫だろう、見た感じ傷は浅い。

 それに、ちょうど今、センカに止血剤を塗られている。

 塗られているヒワシは「染みるゾー!」って叫んでるけど、大丈夫だ。

 

「じゃあ、早く隠れ村に行こう。あの兜兵のことを聞き出したい」

「ええ、そうしましょう」


 もしあの兜兵がトラジロウなら、

 トラジロウ、君はいったい何者なんだ。


 

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