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勇者  作者: 海目 愚丸
燃える天蓋編
71/76

間話「雨」

---センカ視点---


 どうしてこうなっちゃったんだろう。


 ……きっと、ウチがいけないんだ。

 いつも楽な方、楽な方へと進んじゃうから。


---


 ウチは物心ついた頃のことを覚えていない。

 自分がどこの生まれで、どう暮らしていたのかも覚えていない。

 

 覚えているのは、

 何かを求められてたこと、

 痛かったこと、

 苦しかったこと、

 逃げたかったこと。


 何があったのかは思い出せない。

 ただ、炎が広がってた気がする。

 そんな光景だった。


---


 それからのことはよく思い出せる。


 どこかの村でウチは、暮らしていた。

 村長夫妻の子として、暮らしていた。


 なぜ、両親がいなかったのかは気にならなかった。

 村長夫妻に、ウチには両親がいないと言われた時も、『そうなんだ』としか思わなかった。

 傍から見たら、おばあちゃん、おじいちゃん、そして孫娘に見えただろうけど、

 ウチにとっては、村長夫妻がお母さんとお父さんだった。

 本当の両親なんて気にもしなかった。


 そんなことよりも、ウチはこの村で気味悪がられる方が、よっぽど嫌だった。

 お母さんとお父さん以外、ウチを見かけると良い顔をしなかった。

 ウチのことを見ながら、聞こえるか聞こえないかぐらいの距離で、ひそひそされるのが嫌だった。


 加えて、

 よく村の子供に、モノを投げつけられたり、蹴り飛ばされたりもした。

 大人はそれを見て見ぬふりをしていた。

 

 理由は、きっとウチの体質のせいだろう。

 ウチは怪我をしても、すぐに治った。

 身体から炎が湧き出て、傷口を包んで、痛みごと消えていく。


 他の人はこうはならないらしい。

 お母さんとお父さんに相談したら、ウチは特別だからと言う。

 ウチは、今まで考えもしなかった普通ってのを考えるようになった。


 

 そんなことがあってから、ウチは外に出なくなった。

 外で、お花とおしゃべりできないのは悲しかったけれども、家の中でお母さんと織物を作るのは楽しかった。

 特に模様を考えたり、染めたりするのが好きだった。


 でも、これもすぐにやらなくなった。


 お母さんがいなくなってしまったからだ。


 元気だったのに、急に寝込んで、返事がなくなるまであっという間だった。

 何日間泣いてたのか、あまり覚えてないけど、涙が出なくなった頃、ウチはゲロを吐いていたのは覚えてる。

 この時、ウチから出る炎は、どうして胸の中の痛みだけは消してくれないのかと、恨んだ。


 悲しみが落ち着いた後も、

 もう、お母さんが織る時に聞こえる『コトン、コトン、カラリ』という音は、2度と聞こえない。

 そう思うと、とても織り機に触ることはできなかった。

 なんなら、視界に入れただけで、涙が止まらなくなっていた。


 そんなウチを見て、お父さんはウチに植木鉢をくれた。

 中にはとても綺麗な黄色い花が咲いていた。

 お母さんが1番好きだった花だ。

 

 ウチは、悲しさを紛らわそうと、その花に毎日話しかけるようになった。

 そしていつしか、お花の方も、ウチに話しかけてくるようになった。

 まるで、お母さんみたいな話し方で、とても落ち着いた。

 

 


 でも、ある夜。

 お母さんみたいなお花と話すことも、無くなった。


 急に、家に押し入ってきた村の大人たちに、

 ウチとお父さんは縄で縛られ、

 家の外に連れだされて、跪かされた。

 

 もともと嫌われていたウチと、

 そのウチを庇っていたお父さんを、村の人達は排除しようとしたみたいだ。

 なんでお父さんまでと思ったが、度々玄関先でお父さんと、村の人達が言い争っていたから、他にも理由があったのかもしれない。


 お家は燃やされ、また会えたと思ったお母さんとは、お別れも言えなかった。

 その時も、ウチは泣いていた。


 泣きながら、隣で首を刎ねられたお父さんを見て、より泣いた。

 自分の首に剣を当てられて、これでまたお母さんとお父さんに会えると、そう思っても涙は溢れるばかり。


 でも、待てども待てども、お母さんとお父さんが現れることはなかった。

 だから、開けたくもなかった瞼が、いつの間にか上がっていた。


 すると、

 目の前には男の人が立っていた。

 ウチに背を向け、槍を掲げて。


 燃えるお家と、目に溜まった涙の加減も相まって、槍がすごく眩しく見えた。

 まるで太陽のように、ウチを照らしていた。


 この後、ウチは訳も分からないまま、

 槍を持った男の人が率いていた集団に、

 無理やり馬に乗せられて、連れてかれた。


 だから村の人達がどうなったのかは分からない。

 最後に見えたのは、槍を持った男の人の前で、

 へたり込んでいたり、頭を下げていたりしてる所だった。

 


 ……願わくば、ーーで欲しい。



---


 

 槍を持った男の人。

 彼はこの国、ウルスの王だった。


 彼らは征伐の帰りに、

 たまたま燃え上がるお家を見つけて、ウチの村に寄ったらしい。


 ウルス王らに連れてかれてから、ウチの暮らしは大きく変わった。

 王都にある花の御所。

 ここがウチの新しい居場所になった。


 今までとは全く違う、雅なところ。

 誰しもが華麗で、厳かで、ウチはまったく馴染めなかった。

 立ち振る舞いはもちろん、食事の仕草から、寝る時の布団の出し方まで、ありとあらゆる作法を教えられた。

 でも全然うまくできなかった。


 そんな中、ウチはウルス王から、

 役割と、名を与えられた。

 

 『アマテラス』ーーそう名乗れと言われたのだ。


 最初は、花の御所ではみんな、ウルス王から名を授かるのかと思ったけど、どうやら違うらしい。

 ウルス王が特別に思う臣下にのみ与えられるモノだという。

 その者たちを廻衆(まわりしゅう)と呼ぶみたいだ。


 ウチがその十五人目だと知った時、すごく目眩がした。

 どうして、ウチなんかが選ばれたのか分からない。

 選ばれたくなかった。

 きっとみんな、ウチが廻衆に相応しくないと思っているのだ。

 ウチもそう思う。


 それからというもの、御所内でウチへの接し方が変わった。

 道端の小石を見るよう目から、嫌いな虫を見るような目に変わった。

 習い事も、なにかを間違える度に怒鳴られるようになった。


 ウチは、どうにか失敗しないようにしたかったけれど、

 身体はうまく動かなくて、

 返事もうまくできなくて、

 自分が自分じゃないようだった。

 

 そして、特に重圧だったのは、

 ウルス王から頂いた役割の方だった。

 それは、ウルス王妃の護衛だ。


 ウチは剣なんて握ったことがないし、戦いなんてできるわけない。

 そうウルス王に言おうと思ってたけど、陛下に意見するのが怖くて、気がついたらそのまま護衛の立場にいた。


 幸い、花の御所が戦場になったことは1度もないから、自分が戦う日なんて来ないだろうと、甘んじて受け入れることはできた。



 姫様はとても綺麗な人で、透き通るような眼をしていた。

 

 彼女は、生け花が好きで、

 いつも一緒にやろう、と言われた。

 最初はどうしていいのか分からず、たじろいでいたけど、

 そんなウチに姫様は気さくに話しかけてくれた。

 さらには、怒られてばかりのウチを、よく励ましてくれた。

 

 いつしか、ウチは姫様の護衛として、恥じないうように、習い事に一層取り組んだ。

 理想のウチ。

 ウルス王が求めているウチ。

 

 そんなのを意識し始めた頃、

 頭の中にしかいない理想のウチが、ウチの頭の中から出てくるようになった。

 しかも話しかけてくる。

 

 もう1人のウチは、やけに自信に満ちていて、高圧的で有無を言わさない感じだった。

 あれがウチの理想だなんて思いたくなかった。

 だって、ウチの嫌いな人達にそっくりだったから。

 最悪な気持ちになった。


 でも、しばらくすると、言うほど悪くないと思えた。

 自分相手だと、なんでも言えたから、

 楽しいことも、嫌なことも、愚痴も、なんでもだ。

 会って間もないのに、姫様よりも話した人かもしれない。

 ……もう1人の自分を、人として数えていいのかは疑問だけど。

 ともかく、悪くはなかった。


 

 後に、意識を乗っ取られることを除けば、だけど。



 そう意識を乗っ取られたのだ。

 まさか、話し相手だったもう1人の自分が、身体を操れるとは思わなかった。


 あの夜、

 花の御所に敵襲来の知らせを受けた時、

 ウチは頭がいっぱいいっぱいで、

 どうすればいいのか、決められなかった。

 

 ウチは姫様の護衛だから、姫様のところに行かなくちゃいけないのか、

 敵兵を倒しに、迎え撃ちに行かなくちゃいけないのか、

 分からなかった。


 そうして、何もしないまま、しゃがみ込んでいたら、

 もう1人のウチが言ったのだ。

 『我に任せて、この手をとれ』、と。


 その甘言にウチは耳を傾けてしまった。

 嫌なことを考えたくないから、耳を塞いで、手を差し出してしまった。


 途端に頭が痛くなり、意識を保てなくなった。

 もう1人のウチが何をするのか、見届けることはできなかった。


 再び意識が戻った時、ウチはどこか暗い部屋で横たわっていた。


 何があったのかは、意識が戻る時に、

 もう1人のウチがあらかた教えてくれた。


 うぬの代わりに外敵を燃やしてやった、感謝してよい。

 多くの者に逃げられたが、追いかけてやった。

 うぬと仲良くなった、イサミとか言う男には負けたが、次は必ず消し炭にしてやる。

 だが、あの盾は油断ならん。


 そんな事をいっぺんに言われて、もう1人のウチはどこかへ消えていった。


 だが、それもつかの間。

 イサミくんが、再びなでしこ荘に訪れた時。

 もう1人のウチはどこからともなく現れて、ずっとウチの背後から囁くのだ。

 『イサミを消し炭にしてやるから、この手をとれ』、と。

 

 もちろん、そんな言葉に耳を傾けるつもりは無い。


 イサミ君は、敵国の兵士だけど、

 とても優しいのだ。


 初めて会った時も、

 転んだウチに手を差し伸べ、すごく眩しい笑顔を向けてくれた。


 それに、

 ウチと読書の好みが一緒だし、ウチのつまらない話も嫌な顔1つせず、最後まで聞いてくれるし。

 まるで太陽のように眩しかった。

 こんなことを思うのは2人目だ。


 でも、差し伸べられた手を取るのは、抵抗があった。

 理由は分からない。

 恥ずかしかったのか、ウチなんかが触れるのは畏れ多いと感じたのかもしれない。

 だけど、今はこう思う。


 イサミ君はすごく優しいけれど、

 それはウチに対してだけじゃない。

 みんなに対して優しい。


 例えば、ヒワシさんに対してもすごく優しい。

 花の御所での噂でしかないけど、ヒワシさんは、ろくでもない奴、と聞いたことがある。

 そんな人に対しても優しいイサミ君は、きっと、

 ウチの手と、ウチの嫌いな人の手をとって、握手させる人なんだと思う。


 それは……嫌だ。


 しかし、だからといってイサミ君が嫌いになった訳じゃない。

 このなでしこ荘から抜け出そうとも思っていない。

 なんなら、このまま、花の御所も、姫様も、ウルス王様も、

 すべてを忘れて、ここで慎ましく生きていくのもいいんじゃないかと、そう思い始めていた。


 でも自分で歩む道を選択したことがないウチが、今さらできるわけがない。


 ほら、今だって隣にいるヒワシさんの言うことに、目眩がする。


「手を貸せゾ、アマテラス殿」


 また、ウチは首を横に振れなかった。

 

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