第五十二話「2人目」4
僕たち第3小団の今後どうしていくのか、それを食後にキヨマルから聞いた。
簡単な話、僕たちが今いるルナの街を拠点に、周辺の治安維持をする、それだけ。
なぜこの街を拠点にするのか、それはタロウ小団長が意識不明の重体だからだ、安静にしないといけない人を連れ回す訳にもいかない。
だから当分はルナの街に滞在する。
しかし、それだといつ他のウルスの都市を占領するのかというと、今はそれどころじゃないらしい。
どうやら、バレナ首都に攻め入ったウルス王率いる軍勢が、動きを変えただとか。
当初、彼らの動きは一点突破だった。
普通は国の端っこから占領し、王都を包囲する形にするのが戦の定石らしいのだが、ウルス王たちは占領せず、短期間で内へ内へと切り込んでいった。
さっさとバレナの皇帝を討ち取ろうって魂胆だ。
でも、それは失敗に終わった。
ウルス王が病床に伏せたことが原因らしい。
まぁでも、すぐ復活したらしいけどな。
そんで、勢いを止められたウルス軍らは、今度はバレナの都市を占領し始めた。
当然と言えば当然、一点突破が失敗に終わったなら、そのままでは物資の補給はおろか、退路も無いし、増援もない。
よって、やつらは来た道を戻りつつ都市制圧へと路線変更している。
もちろんバレナはそれを阻止すべく、多くの兵を集めている。
だから、ウルスの他の都市を攻め入る策は、今の所行われる予定はないらしい。
なんなら僕たちもバレナへと戻り、ウルス王が率いる軍勢を相手にする。
そんな話も上がったと、キヨマルは言っていた。
僕もそれが1番いいのではと思った。
だって、ウルス王倒したら戦は終わる。
けど、会議で策を考える人達はそうは思わなかったらしい。
王がウルスまで撤退したり、逃げて来るかもしれない、その時のために、制圧したウルスの都市に駐在する兵士は減らせない、とかなんとか考えてるらしい。
僕にはよく分からないけど、
まぁ、なんだろうとキヨマルが決めたことに従う。
なんたって、タロウ小団長がいない今、彼が代理小団長だ。
そのキヨマルは治安維持と言った。
だから僕は1番に治安を崩壊させかねない者の元へ行く。
そうヒワシの所だ。
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なでしこ荘の101号室の扉をノックしたら、ヒワシはすんなりと出てきた。
いつも通り、お医者さんみたいな白衣を身にまとい、ニコニコした笑顔を僕に見せた。
「イサミ殿でしたか、さぁさ、お入りください」
ずいぶん上機嫌だな、そう思いながら部屋に入ると、僕の知ってる部屋じゃなかった。
1日前は地震でボロボロになった部屋みたいだったのに、すごい綺麗だ。
変な草も、花も、キノコもあるけど、ちゃんと棚に整理されている。
「もう片付けたの?」
「アマテラス殿が手伝ってくれたゾネ」
「へー、センカが」
一応、部屋をめちゃくちゃにしたの僕だから、片付けを手伝おうと思い来たんだけど、もう必要なさそうだ。壁にあった大きな穴もなくなってるし。
「そのセンカは?」
「隣りの部屋にいるゾ」
「そう」
ついでに、センカに僕の盾を見てもらおうとも思っている。
センカなら何か教えてくれるかもしれない。
この盾にはきっと魂が宿ってるはずだ。
「僕ちゃんが呼びましょうゾ」
「大丈夫、僕が呼んでくるよ」
「いえいえ、ここからでも呼べますゾ」
「え?」
ヒワシは妙に小気味よく壁を叩いた。
すると、直ぐに隣の部屋から叩き返された。
彼らはそれを2度ほど交互に繰り返した。
すごいな、2人はら壁を叩くだけで会話ができるみたいだ。
いったいどこでそんなの学ぶんだろう。
僕もやってみたい。
そう思っていると、誰かが101号室の扉を開ける音がした。
「お、お邪魔します」
見るとセンカだった。
彼女は中腰で部屋の中までやってきて、ポテっと正座した。
「おはようセンカ、昨日はよく眠れ……るわけないか、布団ないもんね。
後で兵団に余ってるやつないか探してくるよ」
「あ、だ、大丈夫、ヒワシさんが作ってくれたから」
「ヒワシが布団を作った?」
もしかして、雑草を詰めた敷布団とかかな。
だとしたら、やっぱり兵団からちゃんとしたやつ持ってこよう。
「そうゾ、敷布団には綿を、掛け布団には羽毛を使いましたゾ」
えっ違った、すっごいちゃんとしたやつだ。
「よく綿や羽毛なんて持ってるね、用意してたの?」
「そんなわけ無いだろ」
「えっ」
「この街の綿農家の蓄えから綿を拝借したゾ」
「う、羽毛は?」
「この街の養鴨場でむしり取って来たゾネ」
なんてことを、泥棒してきたのか。
「昨夜はアマテラス殿が街を燃やしたおかげで、監視の目も無く、実に容易だったゾ」
そう嬉々として語ったヒワシの横で、センカは顔を歪ませながら『ご、ごめんなさい』って言った。
しっかし、ヒワシがアマテラスのために、こんな手の込んだことをしてあげるなんて意外だな。
布団の作り方なんて知らないけど、簡単じゃないってことぐらいはわかる。
と、そこでふと視界にあるものが映りこんだ。
布団だ。
ヒワシの部屋にも布団があった、ふっかふかの羽毛掛け布団付きのがだ。
それを見て確信した。ヒワシは自分のを作るついでにアマテラスにも作ってあげたのか。
「……はぁ、やってしまったことは仕方ないか」
「ギョ、僕ちゃんはてっきり返して来いと言われると思っていたゾ」
んー、育ててた鴨の羽毛をむしり取って布団にしてしまった、なんて言って返しても、タコ殴りにされてしまうんじゃないか。
僕はどうにか耐えられると思うけど、ヒワシは2度と喋れない顔になってしまうと思うし、センカに至っては、彼女が殴られるなんて見てらんないよ。
また、顔があまり割れてないとは言え、この2人が外をウロウロするのは良くないと思う。
いつ2人の顔を知ってる兵士にバレるか分からない。
それにーー。
「僕が昨日の内に布団を用意できたら君はこんなことしなかった、だから今回だけだ。
でも次からは言って欲しい、そしたら僕もどうにか手伝うからさ」
そう言うと、ヒワシは少し目を見開いた。
「イサミ殿も一緒に羽毛をむしり取ってくれるゾか!」
「違う! そうじゃない!」
今の流れでどうしてそうなるんだよ。
まったく、ヒワシには困らされるよ。




