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勇者  作者: 海目 愚丸
燃える天蓋編
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第五十二話「2人目」


 僕の目の前で涙を流し、うずくまる女の人。

 彼女は僕の呼びかけに気が付いて、おずおずとした物おびえ顔で僕の名を発した。


 似てる似てると思っていたけど、僕の名を知ってるのなら疑う余地がない。

 アマテラスは、センカだ。

 僕の敵だ。


 でも……今の彼女には戦う意思が無いように見える、さっきまで向けられてた殺気は感じない。

 それに、いまいち倒した覚えがないけど、僕がここまで吹っ飛ばして、戦意を失わせてるのなら、僕の勝ちだよな。

 もう戦う必要もないだろう。

 そう思い、僕はセンカに手を差し出した。


「立てる?」


 しかし、彼女は僕の手を取らず、

 足を震わせながらどうにか自力で立ち上がった。

 

「こ、ここは、どこ」

「ウルスの、ルナの街だよ」


  自分から来たのに、どうしてそんなことを聞くのか分からないけど、僕は答えた。

 でも返事は無い。

 代わりにふらふらしながら僕の方に歩んでくる。

 いや、通り過ぎてった。


 僕の背後にある102号室の玄関、もう扉はなく、瓦礫が散らばっている。

 そこを彼女は跨いで1歩外に出た。

 そして立ち止まって、当たりを見回した。


「ウチが……やったの?」


 ほとんどの火は消えたとはいえ、まだ燃えてる家はあるし、救助活動も終わってないようだ。

 だから、夜だと言うのに街の人々は忙しく走り回っていた。


 自分で炎を撒き散らしていたけど、さすがにあれらを見て、やり過ぎたと思ったのかな。

 背中しか見えなくてどんな顔をしてるかは分からないけど、声から驚いていることだけは分かる。


 と思ったら……それだけじゃなさそうだ。

 彼女は振り返って言った、どこか諦めたような、辛そうな顔をして。


「なんで……剣を抜かないの?

 う、ウチら、敵なんでしょ?」


 『なんでしょ?』 誰かに教えてもらったみたいな言い方だな。

 ……気にするところでもないか。


「うん、僕たちは敵同士だ。

 でも君はもう戦うつもりがないんだろ? だからもう終わり!」

「……そう、そ、それでいいなら……」


 良かった納得してくれて、まだ戦うって言い出してきたら、僕はボコボコにされてただろうな。


 でも、これからどうしよう。

 このまま『はい、もうお家に帰っていいよー』ってセンカを帰すわけにはいかないよな。

 また敵として出てこられたらたまったもんじゃない。

 かといって、センカをバレナ軍に引き渡すのは嫌だ。多分処刑されちゃう。

 んー、じゃあカラカティッツァ兵に紛れさせるのはどうだろう。いや、ダメだ、第3小団のみんなには素顔が知られてる、すぐバレてしまう。

 

 僕があれこれ悩んでいるそんな時だった。

 なにやら聞き覚えがあるような叫び声が聞こえてきた。


「ギョギョョーーー!」


 見ると、白衣を身にまとった不健康そうな男の人が走って来た。

 ……濁さないで言うとヒワシだ。

 彼は僕達に分け目も振らずに102号室の隣り、101号の扉前まで来ると、顔を歪ませながら膝から崩れ落ちてしまった。


「誰ゾ! 僕ちゃんの温床をぐちゃぐちゃにしたのは! ギョー!」


 当然と言えば当然、

 吹き飛んだセンカを受け止めたのは、なでしこ荘の102号室だけど、被害は他の部屋にも出てる。

 特に隣の部屋は甚大で、

 101号室と102号室を隔てる壁に風穴が空いているのだ、でっかいのが。

 そこから101号室の中を見ると、まぁ大変。

 そこらかしこに、ヒワシが集めて来たであろう花、草、キノコ、朽木、あれは虫の死骸か? そんなのが散らかっている有様だ。

 1日、2日では片付けられまい。

 

 さて、誰がそんな有様にしたのかと言うと……僕だな。

 センカをここまで吹っ飛ばしたからああなった。

 ヒワシには悪いことをした、だから謝ろう。

 そう思って、僕は101号室の玄関から出たのだが、何故か僕よりも先にセンカが頭を下げていた。


「う、ご、ごめんなさい」

 

 彼女はそう言って両手を地面につけた。

 

 でも、さすがにいつもニコニコしているヒワシでも、今回は許せなかったのか、笑みが消えていた。

 平然と彼女に危害を加えそう雰囲気だ。

 間に割った方が良さそう。

 

「待ってヒワシ、彼女じゃなくて僕がーー」

「何故ここにいるゾ、アマテラス」


 だが僕の言葉は、ヒワシの真剣の物言いによってかき消された。


 そういえば、2人は知り合いなのかな。

 確か廻衆(まわりしゅう)だっけか、ウルス王の特別な臣下だった気がする。

 あれ、ならちょっとまずくない?

 2人が結託したら誰が止められるんだ。

 一応、ゲドウマル様もこの街にいるらしいけど、先のアマテラスとの戦いで負傷したと聞いた。対してアマテラスは僕の前でピンピンしている。

 なら2人をどうにか引き離すべきだろうか。


「あ、貴方は……う、陛下の寝込みを襲ったけど返り討ちに両腕を斬り落とされたヒワシさん!」


 どうやら知り合いではあるらしい、けどセンカはよほど関わりたくないのか。

 すぐに立ち上がって後ずさりし、僕の背後に隠れるように移動した。

 

 それを見たヒワシは、何故かまたにこやかな表情に戻った。

 そしてセンカが後ずさりした分、ヒワシは前に歩み寄る。


「花の御所(ごしょ)では二言だけしか交わしたことがないのに、覚えていてくれたとは、とても喜ばしいゾネ」


 花の御所ってのはたぶん、ウルス王都のお城のことだと思う。

 そこで2人は出会ったらしいな、でも会話は二言しかしてないとか、それは知り合いじゃないだろ。

 ただ道を聞かれたから教えた、的な関係だな、つまり赤の他人だ。

 この様子なら2人が今すぐ力を合わせることは無さそう。

 まぁ、そもそもヒワシは今、カビを持ってないから戦いようがないか。


「して、この有様、イサミ殿はアマテラス殿と戦っていたのだろう? 何故生きているゾ」

「そりゃあもちろん僕が勝ったこらだ!」


 ヒワシは僕とセンカを舐めまわすように、交互に見た。


「……ほー、にわかには信じがたい、が、どうやらそうらしいネ」


 何を見て納得したのか分からないけど、イナリはうんうんと、頷いている。


「しかし、アマテラス殿、君1人で攻め入る策をイナリ殿が考えるとは思えないゾ……独断かネ?」


 お、僕もちょっと気になっていたんだ。

 アマテラスが攻めてきたのに、他のウルス兵は一切見えなかったから。


「う、わ……分からない」

「分からないって、どういう……こと?」


 僕がそう聞くと、センカは困った顔で俯いて、両手をモジモジさせた。


「き、気がついたら、こ、ここにいたの」

「ほう、では最後の記憶はいつゾ?」


 すかさずそう聞いたのはヒワシだった。

 彼は懐から鉛筆と黄ばんだ紙を取り出した。

 その立ち振る舞いはウルスで見たお医者さんのようだ、すごく様になっている。

 

「お、お城の中で、本を読んでいたら……敵襲の鐘の音が鳴って……頭が痛くなって……そ、そこからは、分からない」

「10日程前ゾネ」

「え、と、10日?」

「ふむ、僕ちゃんとしてはまだ経過観察の必要があると思うが、夢遊病、かもしれないゾネ」


 それはなんだ、と僕が聞くと、

 ヒワシが説明してくれた。

 なんでも、無意識の状態で歩いたり、奇妙な行動をしたりすることらしい。

 そんで夢の中の出来事みたいに、起きたらそのことを覚えてない、珍しい病だそうだ。


 そんな説明をぱっと聞いて、それは病なのかと思った、寝言と大して変わらないじゃないか。

 僕にとって病は苦しいとか、命に関わるようなものだと思ってたから、大したことないなとも思った。

 

 だが、センカはそういう風には受け取らなかったらしい。

 ヒワシの説明を聞いた彼女は、目に涙をためていた。

 少しでも俯いたらこぼれてしまうほどに。


 それを見て、僕は心が苦しくなった。

 考えを間違えた。

 僕にとっては大したことではなくても、センカにとっては大したことなんだ。

 確かにセンカの命はあまり危なくないかもしれない。でも、今日みたいに無意識のうちに周りを傷つけてしまうんだよな。

 それは他の人の命に関わる大問題だ。

 それに思い返せば、センカは周りと違うことをすごく気にしていた。

 にもかかわらず、さらに君は普通じゃない病に患っていると言われている。

 きっと、すごく心苦しいだろう。


 一瞬でも僕はなんて酷いことを思ってしまったんだ。


「センカ、ここじゃなんだし、とりあえず落ち着けるとこに行こう、って言ってもあそこしかないんだけど」


 そう言って僕はなでしこ荘の102号室を指さした。

 本当は被害が少ない他の部屋がいいけど、鍵もってないから入れない。

 入れるのは扉が壊れた102号室と、ヒワシの101号室だけだ。

 ヒワシの部屋は片付けないと座る場所もない。

 だから102号室しかない。

 ボロボロだけど、休めはするだろう。


「……う、うん、ありがとう」


 そうして僕たちは102号室に再び入った。

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