第五十一話「敗走」2
僕がタロウ小団長のお見舞いに行く時には、もう夕暮れ時に差し掛かっていた。
まぁ、起きたのが昼過ぎだったから、1日が早く感じるんだろう。
いや、僕が気を失ってる間に10日が過ぎてるって言われた時の方が、早すぎると感じたな。
まだ実感がない。
ともあれ、
ご飯を食べ終わったあと、ヒワシとチカセから状況を少し教えて貰った。
なんでもヒワシが言うには、
僕たちが城から飛び降りて逃げたと同時ぐらいに、二の丸御殿に隣り合う本丸御殿から、ゲドウマル様が一足飛びにアマテラスに迫ったらしい。
ちなみに、隣り合っていると言っても、かなり距離が空いているから、普通はジャンプしても届かない。
もはや飛んでいると言っていい。
そんなゲドウマル様と、アマテラスとの激闘は痛み分けに終わった。
すなわち、王妃誘拐の策は失敗に終わり、
王都制圧に控えていたバレナの大軍も撤退を余儀なくされた。
対して、つい先日の知らせによると、
ウルス王が率いる軍は、ついにバレナの首都、花の御所を包囲してしまったと分かった。
僕たちは勝利に1歩遠のき、ウルスは1歩近づいた。いや、ウルスの勝利は目前だな。
僕たちは、これからどうするのだろう。
……それを知るべく、キヨマルとアンネがバレナの会議に参加してるんだった。
次こそは言い渡された策をちゃんと遂行しよう。
「ここか」
そんな事を考えてるうちに、僕は病院に着いた。
元々ルナの街にあった木造の病院じゃなくて、バレナが真似て街の外に張った大きな天幕。
一応、野戦病院って言うらしい。
中は布で仕切らて個室になっているが、いくつもの部屋の前から、うめき声が聞こえ、痛ましい状態にあるんだと分かる。
僕が今、入ろうとしているタロウ小団長の部屋からもだ。
いや違う、鼻水をすすった音だ。
受付の人からタロウ小団長の部屋はここだと聞いたから、間違えようがない。
他に誰かいるのか?
そう思いつつ、僕は垂れ幕を潜って中に入る。
布の上に寝かされているタロウ小団長がすぐ目に入った。
そこまで重症ではなさそうだ。
完治寸前の火傷跡が数箇所あるだけ。
なんなら、顔を包帯でぐるぐる巻きにしてるチカセの方が重症に見える。
まぁそれはいいとして、次に目に入ったのは寝てるタロウ小団長の隣り。
そこにはケンセイがいた。
あぐらをかいて座っており、横顔が見えて、
目元が少しばかり赤い。
そんな彼も、入って来た僕に気がついたようで、目が合った。
「ようイサミ、遅かったなー」
「ごめん、ちょっと食べ過ぎちゃった」
「そらしゃあない……って1人なん?」
「うん、チカセはヒワシと夕飯の買い出しに行った」
「夕飯の買い出し? 食いもんなんて兵団からの配給でええやんか」
「あれは、硬いし、冷たいし、美味しくないから嫌なんだって」
「あれと比べたら、確かにヒワシさんの作る飯は美味すぎるからなー、やったな、今日はご馳走や」
「作るのはチカセらしいよ? 美味しく作ってやるって意気込んでた」
「……そうかー」
ケンセイの気持ちが明らかに落ち込んでしまった。
チカセの作るご飯も美味しいのに。
「それより、ケンセイは毎日お見舞いに来てるんだって?」
「毎日ってゆうても、目覚ましたんは3日前やから、まだ3日連続ってだけや」
ならやっぱり毎日じゃないか。
他の皆んなは、1回だけにとどまってると聞いた。
僕だって頻繁に来ようとは思わない。
「随分、タロウ小団長のことを慕ってるね」
「ああ、恩人やからな」
前もそんなことを聞いた気がする。
その時は、今ほど仲が良くなかった。
だから詳しく聞けなかったけど、今ならどうだろう。
「そのこと、詳しく教えてよ」
ケンセイはゆっくりと僕を2度見してから言った。
「ええけど、オモロないで」
そこからケンセイは短く身の上話をしてくれた。
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彼はカラカティッツァ南部の村で生まれ、
鍛冶屋の三男として、兄弟と共に跡を継ぐべく腕を磨いていたそうだ。
しかし、彼の歳が8つの時。
彼らの村は大きな災害にあった。
津波である。
カラカティッツァは、国土の大半が海に面しているため、珍しい話ではない。
僕の村も、荒れ狂う海に何度か呑まれている。
でも、ケンセイの村は耐えきれなかった。
全てを海にさらわれ、彼は家族と散り散りになってしまった。
唯一、金床にしがみついていた彼だけが助かった。
カラカティッツァの兵団は災害救助のために
派遣され、タロウ小団長とはその時に出会い、拾われたそうだ。
そしてそこから10年、ケンセイはタロウ小団長のもとで剣を習い、兵士になった。
「俺は受けた大恩を少しでも返してやりたいんや……ってなんでオマエが泣いてんねん」
「泣いてない!」
僕が泣くものか!
必死に唇を噛んで堪えてるさ!
でも、どんどんと悲しい気持ちが湧き上がってしまう。
ケンセイのためにも、
タロウ小団長には早く目覚めて欲しい。
僕はそう願った。




