第四十九話「現る日輪」後編
城の天井に開いた風穴から見える太陽。
あれは、いつも見る太陽とは違った。
直視できないような眩しさはなく、
ウミガメが日向ぼっこしたがる暖かみも感じない。
それでも、僕は直感的に太陽だと思った。
きっとそう思ったのは僕だけじゃない。
一緒に来たウルス兵達もだろう。
彼らは口々に「お天道様?」と言っていた
だがそこで気が付く、ウルス兵達の視線はすでに太陽から下に向いていた。
風穴が開いた天井の真下あたりだ。
つられるように僕も視線を向けると、そこには人が立っていた。
横を向いている女の人だろうか。
どうやら彼女も僕たちに気がついたのか、正面を向けてきた。
するとウルス兵の誰かが言った。
「アマテラスノミコト様」
……え、彼女が?
正面を向いた彼女の顔には見覚えがあった。
ていうか今朝知り合ったばっかりだ。
黒髪の三つ編み。
センカ。
しかし、雰囲気が妙に違う。
僕の盾と剣を一緒に探してくれた時は、ずっと物憂げな表情を浮かべていたけど。
今はキリッと自信に満ち溢れたような顔だ。
他人の空似か?
それか双子だったり?
「うぬらは何用だ?」
歩み寄る僕らに、
そう問いかけてきた彼女の声を聞き、僕はセンカだと確信した。
そんな喋り方だったけと思うが、間違いない。
ただ、そうなるとセンカが『アマテラス』ということになる。
「これはこれは、あれほど戦を嫌っていたあなたが、本当に出てきてくれるとは。
賊を通した甲斐があった」
「……わざと賊を通したのか? なぜ姫様を危険にさらすような真似をする」
「姫様が危険など承知の上、しかし、それ以上に私らが仕えるべき人があなた様なのか、確かめたかった。
しかし、どうやら既に賊を倒してしまったようだ」
な、なんだ?
話を聞いていたら、急にウルス兵の1人に背中を押され、僕は前に出された。
一瞬センカと目が合ったけど、直ぐに外された。
「そこで、この最後の賊で改めて腕前を魅せてほしい!
なんならその後、私らと手合わせも願いたい!」
なるほど、ここで僕は試し斬りみたいに使われるのか。
まぁ、それはいいとしてだ。
本当に第3小団の皆はやられたのか?
周りを見ても倒れてる姿は見えない、もう姫様を攫って退いた訳でもなさそうだし。
……もしかしたら、勝てないと悟り、下の階に退いたのかな。
だとしたら、僕も今ここで退くべきだ。
そんな隙、あるか分からないけどね。
「……言い分は分かった、が、姫様を危険に晒したのは事実、罰を与える」
「無論、受け入れよう」
ウルス兵が言葉を終えるや否や
センカは右手を自分の顔の位置まで挙げ、握り拳から人差し指と中指をくっ付けながらを立てる。
そして、滑らかにその手を薙ぎ払った。
「不知火」
うっすらとそう聞こえた時、僕は咄嗟に前斜めへと飛びながら倒れ込む。
その言葉がなんなのか、何を意味するかなんて分からない。
でも殺されかけたのは分かる。
どこからともなく現れた炎。
まるで怪談話に出てくる狐火か、鬼火。
それがセンカが振った手の通りに、僕の右から現れて、左へ広がりながら抜けていった。
たぶん狙いは僕じゃない。
僕の後ろにいたウルス兵達だ。
さっき罰を与えると言っていたから、今のが罰ということなのか。
しかし、なんで今?
いきなりすぎないか。
伏せながら振り返ると、そこにいるはずのウルス兵達がいなく、壁に風穴が開いていた。
天井にあるのと似たようなのが。
どうやら今ので吹っ飛ばされ、壁を穿いて放り出されてしまったらしい。
炎がゴーーーだか、ボーーーだかと唸りを上げるものんだから、壁を壊して穴が開ける音すら聞こえなかった。
なんて威力だ。
それなのに、床の畳が燃えたり、黒焦げになったりしてない。
僕は掠めただけで、肌がヒリヒリとする熱を感じたのに。
どうなっているんだ。
いや、それよりも、
奥に絵柄がついている襖が見える。
きっと王妃がいるに違いない。
でも1人でセンカを突破するのは無理だ、さっさと逃げよう。
そんな事を考えていると、這いつくばってる僕を見下ろすセンカと、再度目が合った。
「……うぬは」
まずい、やられる。
そう思ったその時だった。
「させん!」
「ッ!」
声と共に、僕とセンカの間に人影が降り落ちてきた。
人影は5つ。
1人は着地際に、2人は着地後に、センカへ向け剣を振るった。
しかし、流石と言うべきか、センカはそれらを難なく躱した。
残ったあとの2人は攻撃に行かず、センカが後方に飛び退くまで、僕を守るように剣を構えていた。
そして、センカと十分距離が空いたところで、片方が僕に向けて手を差し伸べてきた。
「立てっか?」
「ありがとう、ケンセイ」
やはり皆はやられてなかった!
良かった。
ここから反撃だ。
よし! やるぞ!
やるんだ!
そうやって自分を鼓舞させても、
今からセンカと戦うと思うと、少し気が引ける。
まさかこうなるとは思わなかったけど、なったからには覚悟は出来ている。
……はずなんだ、でも、どうも剣先がずっと下を向いている。
第3小団の中で僕だけが剣を構えていない。
そんな中、僕たちを見てセンカは言った。
「賊め……このアマテラスの名において葬る」
その言葉に、剣を握る右腕が急に上に上がった。
何かに引っ張られるように、僕の意思とは裏腹に。
日輪の巫女との戦いが、否応にも始まってしまった。




