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勇者  作者: 海目 愚丸
燃える天蓋編
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第四十七話「行方不明」前編

 おわー。

 人混みが! 人混みがすごい!

 潰されるーー!


 僕はとんでもない行列に飲み込まれていた。

 それでもどうにか腕をねじこみ、何もかもを掻きだす。

 そうして抜け出した矢先、あることに気がついた。


「……皆は、どこ?」


 何回周りを見回しても、知ってる人は誰もいない。

 僕は……迷子なのか?

 

---


 それから彷徨うように、

 裏路地みたいな所を歩いていたら、いつの間にか子供の遊び場に出ていた。

 とりあえず一息つこうと思い、ベンチに腰掛ける。


 疲れたというわけではないが、どうも僕は人混みが苦手のようだ。

 なんか気分が優れない。

 

 身体を休めながら思い出す、何がどうしてこうなったかと言うと。


 

 今朝、各々の団が担当する城の侵入に向け、各自で準備しろと告げられたのだ。

 そこで、タロウ小団長に僕たちはどうするのか聞いたら「塀をよじ登って城に侵入し、戦闘は最小限に駆け抜けて王妃を攫う、で撤退する」と言われた。

 何も用意するモノがなく、実に単純な策である。もはや策と呼べるのかすら怪しい。

 しかし、この策に文句を言う者は誰もおらず、決まった。


 てな訳で僕たち第3小団は策が決行される夜まで暇なのだ。

 そこで、暇つぶしに王都の城下町に行こうという話になり、やってきた次第だ。

 

 ただ……僕は迷子になってしまった。

 多分、今日は何かお祭りだったんだと思う。

 大通りでエイサ! ホイサ! って叫んでる集団に運悪く巻き込まれてしまった。


 はぁ、

 まぁそこまで困ることになってないからいいけど。

 迷子って言っても、夜になる前にあの緑青の城の周りに行けば、皆と合流できると思う。

 なんなら、夜になると策の開始の合図として、僕たちが昨夜に寝た場所あたりから狼煙が上がる、それを機に城に侵入して皆と合流でもいい。

 

 じゃあ僕はこれからどうしようか。

 んー、やはり、せっかくのお祭りは見ておかないとな。

 うん。

 

 どうするか決まり、さっそく立ち上がる。

 もう気分は良くなっていた。

 むしろお祭りを見て回るぞと思うと、元気がモリモリ出てくる。


 僕は来た道を戻ろと、また裏路地に入った瞬間。


「ウッ!」

「いで」


 しかし、そこで何かとぶつかってしまい、

 危うく転びそうになった。


 見ると、女の人であった。

 黒い髪を三つ編みにした人。

 彼女は痛そうに尻もちをついていた。


 直ぐに僕は手を差し伸べながら謝る。


「ごめん! 大丈夫?」

「だ、だ、大丈夫です、ウチこそ、ごめんなさい」


 彼女は僕の手を取らず、自力で立ち上がりそう言った。

 そして、直ぐにしゃがみ込んだ。

 どうやら僕とぶつかった際に、持っていた大量の書物を落としてしまったらしい。

 それを急いで拾おうとしていた。


 僕も手伝おうとしゃがみ、右手で拾い、左手に集める。

 しかし、僕が1冊の本に手を伸ばした時、女の人は小さく「あっ」っと呟いた。

 どうやら、見てはいけなかったのか。

 でも本は既に開かれており、中身が見えていたのだ。

 もちろん、字が読めない僕にとっては何が書かれてるか分からないけど、見開きの左ページには挿絵があった。

 

 巨大なタコが、全裸の男と女の人をタコ足で絡めとっている、そんな絵だ。

 それを見た僕はピピン! っときた。

 これはきっとおとぎ話だ。


 男と女の人は村人で、巨大なタコは……そう! クラーケンだ!

 じいちゃんが言ってた、海にはそんな化け物がいると。

 全裸の男と女の人は食われてしまうだろうな。

 でも次ページでは、巨大タコと相対する英雄の登場って所か?

 始まる英雄とクラーケンの一騎討ち!

 ギリギリの戦いの末、勝利を手にする英雄!

 そして、クラーケンの腹をかっさばいて、食われた村人達を救い出す!

 そんな物語の内容が易々と思い浮かぶ。


 フン、おとぎ話好きの僕にとっては見え見えの展開だね。

 

「ご、ご、ごめんなさい! き、汚いモノ見せてしまって」

「え? 僕はこういうの好きだよ?」

「へっぁっ!?」


 何をそんなに驚いてるんだろう。

 おとぎ話なんて大体の人が好きたろうに。

 いや、待てよ?

 ここは王都だ、貴族も多いだろう。なら家が厳しくておとぎ話すら読ませてくれない所があるかもしれない。

 確か、アンネの家がそうだったと聞いた。

 目の前の女の人もそうかもしれない。

 周りに、互いのおとぎ話を共有できる友人がいないのかもしれない。

 ならばだ。


「もし良かったら、君の取って置きの物語を教えてよ。僕も取って置きの物語を君に教えるからさ!」


 僕は取って置きのおとぎ話『ゴリラ』を語ろう。

 ちょうど夜まで暇だし、この国のおとぎ話はどんなのがあるのか気になる。

 今が絶好の機会だ。

 

 そう思って言ったのだが、女の人は俯いて、わなわなと震えていた。

 そして次の瞬間。


「そ、そんな! そんな高難易度な行為、ウチにはまだ無理ーーー!」


 そう言って彼女は仰け反りながら倒れてしまった。


「え、ちょ、どうしたの!」


 僕は慌てて彼女の肩を揺さぶって起こそうとしたが、全く起きなかった。

 呼吸が止まってはいないから、多分大丈夫だろうけど。

 この人、どうしちゃったんだろう。


 とりあえず、僕はさっきまで座っていたベンチに、倒れた女の人を両腕で抱きかかえて連れてき、寝かせた。


---


 相変わらず王都はお祭りでどんちゃん騒ぎ。

 奏でられる太鼓の音を聴きながら、彼女が起きるのを待っていると。


「ウッ、ううう」


 彼女は小さな唸り声を上げながら、上体を起こした。

 そして、寝ぼけ眼をこする彼女に僕は手を振りながら言う。


「おはよ! 急に倒れたもんだからびっくりしちゃったよ」

「……あっ! えっと、おはようです……」

 

 何故か、すんごい縮こまってる。


「はい、これ」

「……これは……?」

「君の持ってた書物、そのまま持つのは不便でしょ?」


 僕は散らばった書物を風呂敷で包み、それを渡した。

 

「え、あ、ありがとうございます」


 なんかこの人。

 喋る言葉が後半になるにつれて、すごく声が小さくなるな。

 ちゃんと耳を澄ませないと聞き漏らしてしまいそうだ。

 

「…..そ、その、中身見ました?」

「中身? あぁ書物こと? 見てないよ、勝手に見たら悪いし」


 そう言うと、彼女は胸を撫で下ろす仕草し、落ち着いた様子になった。


「と、所で、貴方のお名前は?」

「僕はイサミ、君は?」

「い、イサミ君。

 う、ウチは……え、あ、センカ。

 こ、この風呂敷、必ず洗って返します」

「あぁ、いいよ、僕は使わないから君にあげる」


 そもそも、この風呂敷は僕のじゃないからね。

 今身に着けてる革鎧も元々僕のじゃない。

 これはウルスに初めて連れてこられた時、兵士として支給されたのだ。

 風呂敷はそのポケットに入ってた。

 だから、別にどうだっていい。

 

 重要なのはこのウルスの紋章が入った革鎧だ。

 これのおかげで、僕はどっからどう見てもウルスの兵士に見えるだろう。

 でも他の皆は何かと工夫してた。


 例えば、アンネなんかは紋章の所に花を飾って隠してる、おしゃれなことだ。

 チカセは革鎧を裏返しに着て誤魔化す、頭が良いやり方。

 タロウ小団長とケンセイは、革鎧を右肩の部分にしか着けないから、紋章が目立たない所にあり、隠す必要がない。

 キヨマルに至っては、どこの部分にも革鎧を身に着けてない。1番勇敢な男だ。


「で、では、後日お礼を言いに参ります。

 その、イサミ君は、どこの家に仕えてる家政なのか、教えて頂いても?」

「か、家政?

 見ての通り僕は兵士だけど、ほら、背中に盾と剣があるでしょ?」


 訳が分からない。

 家政って、貴族の家に仕えてるメイドや執事のことだったかな。

 全然僕はそんなじゃないけど。


 そんな僕に彼女は恐る恐る指を指し言った。


「そ、その背にある立派な(ほうき)を持っていながら、兵士?」


 僕は思わず首を回転させ、横目に自分の背中に掛けてあるはずの相棒を見る。

 しかし、そこには(ヤタくん)(アメちゃん)の姿は無かった。

 代わりにあったのは、センカの言うとおり立派な箒であった。


「なに、これ?」


 僕は背中の箒を手に取り、端から端をゆっくりと視線で舐める。

 ずっしりとした重み、先端の穂は輝くような小麦色をしており、さぞかし高級品なことだと僕でも分かる。

 これで掃除するの気が引けそうだな。

 

 ……だから?

 え、本当になに!

 なんでこんなのが僕の背に?

 盾と剣、どこ行った!?

 相棒ーーー!


---


 しばらく僕は放心状態でいた。

 そこから戻って来れたのは、センカが盾と剣を探せるかもと言ったからだ。


「どうやって探すの?」

「えっと、その……うう、話を聞きます」

「僕は自分がどこで落としたかすら分からないよ」

「い、イサミ君じゃなくて、その箒にです」


 箒から話を聞く?

 んーよく分からないけど。


「分かった!」


 僕は直ぐに箒をセンカに渡した。

 

「……ウチの言うこと、変だとか、おかしいとか、思わないの?」

「うーん思わない」

「そ、そうなんだ……。

 じゃ、じゃあ、さっそく箒に聞いてみるね」


 そう言って、センカは箒を見つめた。

 そして、彼女は誰かと話してるとしか思えない感じで、「うん、うん、そうなんだ」と相槌を打つ。


 僕は全然箒の声なんて聞こえないけど、

 その姿を見た僕は、この子、道具に宿った魂とお話ししてる! と確信した。

 もしヒワシが見たら大興奮だったろうな。

 もっとも、会ったら解剖したいとか言いそうだから、絶対会わせられない。


「うう、分かった。

 こ、この箒が言うには、イサミ君が大通りで行商人とぶつかった時に、盾と剣が商人の荷物に引っかかてしまったんだって」

「じゃあ戻って探しに行くよ、ありがと!」

「あ、ああ、待って、ウチが案内できるかも、この近くで即売会があるの、そこだと思う」

「そうなのか!」


 一時はどうなるかと思ったけど、センカに会えて良かった。


---


 即売会に向かう道中、今日はなんお祭りなのかセンカに聞いてみた。


 なんでも、ここ最近の王都は曇りの日や雨の日が多く、晴れの日が滅多にないのだと言う。

 で、このお祭りは晴れの日を願うモノだ。

 

 僕が見た限り、昨日も今日も晴れだ。

 今なんて、雲1つない青空。

 お祭りのおかげかは分からないけどね。


 ちなみに、センカはお祭りを楽しんでたわけじゃないらしい。

 たまたま今日、欲しい書物が売られる日だったから外出しただけで、ここ最近は家から一切出て無かったんだとさ。

 僕とぶつかったのは、買い物が終わり、帰宅の最中での出来事だった。

 

 家に帰って、直ぐに買ったモノを読みたいだろうに、わざわざ僕の落し物を一緒に探してくれてる。

 申し訳ない。

 でも、センカは気にしないでと僕に言う。

 どうせ家にいても、壁と話し続けてる頭のおかしい奴と思われてるから、家にいる時間を減らせて良かったと。


 モノの魂と話せるなんて、すごいことができるのに、蔑ろにされるのはおかしいと言うと。

 家にいる者は誰も信じてないんだって。

 変なの。

 

「つ、着いたよ」


 そんなこんなで、即売会を催されている広場までやってきた。

 1つ1つ売店を見ていくと、明らかに商品の毛色がガラッと変わってる店を見つけた。

 左から雑巾、雑巾、箒、箒、剣! ときた。


 これ、僕の剣だ。


 店主に持ってた箒を渡し、事情を説明すると、快く剣を返してくれた。

 ただ、盾は無かった。

 

 もしかしたら、盾は別の誰かが拾ったのかもしれない。

 そんなことを考えていると、センカが僕に怯えたような視線を向けていることに気がついた。


「どうしたの?」

「そ、そ、その剣、とんでもなく怒ってる」


 え、もしかして、僕が落としちゃったからだろうか。

 ごめんよ。

 アメちゃん。

 今度、白い綿でポンポンしてあげるからね。


「……怒り、妬み、特に殺意が1番大きい」

「え、そんなに、僕、もしかして呪われちゃう?」

「い、いや、ウチに向けてる……」

「えっ」

 

 尚更なんで?


 しかし、僕にはいつもと何ら変わらない剣にしか見えない。

 輝きもしないし、声も聞こえない。

 それでもセンカが怯えてるから言わなくちゃ。


「センカを怖がらしちゃダメだぞ!」

 

 指を指し、剣を咎めると、

 慌ててセンカが、やめてー! と泣きついてきた。


 一体、センカとアメちゃんの間で何がどうなってるんだ。

 謎は深まるばかりだ。


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