第四十六話「王都ウルスへ」続き2
夜分遅く、僕は上手く寝付けないでいた。
明日の王都潜入のために、ちゃんと身体を休めないといけないのに。
でもそう考えれば考えるほど寝れない。
……ならいっそ、眠くなるまで起きよう。
そう切り替えて、ゆっくりと身体を起こし、立ち上がる。
天幕も布団もない中。
皆は地べたに寝そべってたり、木を背にもたれかかったり、はたまた大きな岩を抱きしめながら寝ていた。
僕ももう慣れたものだが、やはり硬い地面は嫌だ。
出来れば草が生い茂ってるとこで寝たいよな。
今回はいっぱい草をむしって来て下に敷いてみたけど、あんまり地面と変わらなかった。
眠れない理由の1つかも知れない。
さてと、皆を起こさないようにゆっくりと移動しよう。
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崖になっており、王都ウルスが見える場所。
今朝に作戦の説明受けた場所でもある。
そこになんとなしに来てみて、あぐらをかいて座った。
夜だと言うのに、王都の篝火は消えてない。
城下町にいる人々はまだそれなり活動してるようだ。
何をしてるのだろうか。
目を凝らしてじっと見てみる。
あれは……女の人? 子供の遊び場にあるブランコに立ち乗りして漕いでる。
お、今しがたブランコで1回転した、1人でなんでそんなことしてるのか分からないけど、楽しそうだ。
次は2人組の男の人達が左右にふらつきながら歩いているのが目につく。
間違いなく酔っ払いだろうな。
片方はもう倒れてしまい、それでもどうにか帰ろうとほふく前進している。
いつも通りの平穏って感じだ。
……でも明日には僕たちが壊してしまうんだよな。
いや、僕たちが攻め込むのは城だから城下町に住む人々には被害が出ないと思う、けど攻められたら平穏では無くなるだろうな。
それに王妃様も攫うんだし。
……やめておこう、こんな事考えたって仕方ない。
戦とはそういうものだ。
僕は城下町を見るのをやめて、城の方を見ることにした。
夜にも負けず、その存在を示す白い城。
確かヒワシが言うには王都の象徴らしい。
次に黒い城、これは本丸御殿と言って、よく政が行われる。
最後に緑青の城は、二の丸御殿と言って住まいとして使われるものらしい。僕たち第3小団が潜入するのはこの城だ。
待てよ? 住まいってことは、王妃様も暮らしてるのでは?
じゃあ僕たちがアタリか。
責任重大だー。
余計眠れなくなりそうだよ。
そんな時だった。
「何をしている」
急に後ろから声を掛けられた。
それにびっくりした僕は飛ぶように立ち上がり、声の方に向きながら剣を抜いた。
「……ゲドウマル様?」
そこにはバレナが誇るお侍様がいた。
何故ここに? なんて思う前に急いで剣と盾をしまう。
「お手前は確か、カラカティッツァの」
「イサミって言います!」
「そうか、してここで何を?」
「その、明日のことを考えると眠れなくって」
そう言うとゲドウマル様は僕の背にある盾をチラッと見た。
「己の技に不安なのか?」
「確かに僕は剣の腕をまだまだ磨かなければならない、でも心強い仲間たちがいるから心配は無い、です」
「では、何が心を曇らせる?」
それはもちろん…………?
僕は一体なにを不安に思っていたんだ?
自分の技量にでは無いことは確かだ。
じゃあ、策が成功するかどうかか? 違う。
なら人の命を奪ってしまうかもしれないから? これも違う、僕は決して殺さない。
他にはー、第3小団の仲間が負けるとか? 無いな、負ける所なんて想像もつかない。
んー仲間……? 仲間……。
そうか、仲間たちが敵兵を殺さない僕にどう思っているのかが不安なんだ。
いや、分かっている。どう考えたって僕のことを煩わしいと思っているはずだ。
それでも、僕は彼らと一緒にいたいんだ。
チカセはどんくさいけど、背中を預ける時、あれほど頼りになる者はいない。
ケンセイは口が悪いけど、あれで面倒見が良く、困ってたらなんやかんや手伝ってくる。
アンネはいつも興味なさげにしてるけど、皆の細かいところに1番に気が付く。
キヨマルはツンツンしてて怖いけど、態度とは裏腹に優しい。
タロウ小団長は皆のお父さんのようだ、いつも明るく鼓舞してくれる。
……ここにトラジロウも帰ってくれば完璧なんだけどな。
そんな彼らが好きだ。
でも1度、僕が敵兵を殺さなくなった時、皆酷く冷たい目で僕を見てきたんだ。
まるで僕はもう仲間じゃないように思えた。
それが怖い。また明日、僕が敵兵を殺さなかったらどうなってしまうのか。考えたくもない。
都市ルナでも僕は殺さなかったけど、あの時はもうほぼ勝ちが決まっていた。
だからとやかく言われなかったなのだろう。
でも明日は戦の勝敗に大きく関わっていて、さらに僕たちは少数だ。
僕が倒した兵士が再度立ち向かってきたら、また倒さなきゃならない。
そういう無駄をキヨマルは特に嫌う。
だからきっと何か言われるだろうな。
……タロウ小団長だけは何故か、今までの1度も僕が殺さないことに何も言ってこない、不思議ではある。
でもさすがにそろそろ何か言われそうだ、それが明日なのは間違いない。
そこでふと視線を地面から上にあげると、ゲドウマル様の顔が映った。
まずい、ゲドウマル様と喋ってたのすっかり忘れてた。
「思い当たる節があったか?」
彼はずっと僕の言葉を待っていた。
「お、おかげさまで」
この人に悩みを言っていいのだろうか。
敵兵を殺さないって知ったら、怒られそうだけど。
でも、何となく大丈夫な気がした。
「あの……どうかしてると感じると思うんですけど、僕は敵兵を殺したくないんです。
でも1度、それを仲間たちに言ったらボロクソ言われちゃって……」
「……なるほど、ならもう1度話せばいい、話し合い無しでは事が進まないだろう」
「そうですよね……うん! そうだ!
ありがとう、ゲドウマル様! もう1度話してみます!」
ちゃんと向き合わなきゃダメなんだ。
分かってはいたけど、どうも勇気が湧かなかった。でも、ゲドウマル様に言われて話す勇気が出た。
相談して本当に良かった!
「もう寝れそうです! 僕はもう戻りますけど、ゲドウマル様はどうされるんですか?」
「身共はまだ残る、少し遠くを見たい気分なんだ」
「そうですか……では、お先に失礼します」
「ああ」
あ、でも1つ聞きたいことがあった。
僕はすれ違いざまに足を止め、振り返る。
「1つ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「どうして僕たち小団をいつもご指名なんです?」
「……聞いてないのか?」
聞くって誰から? うーん間違いなくタロウ小団長だろう。
第3小団の者でゲドウマル様と話したことあるのタロウ小団しか見たことないし。
でもなんか言ってたかな、何も聞いてないような気がするけど。
「タロウ小団長からは何も聞いてないです」
「……そうか、ただ個人的にお手前らを気に入っただけだ」
「ならもっと気に入って貰えるよう頑張ります!」
「頼もしいな」
こうして、僕は一足先に寝床に戻った。
横になると、直ぐに眠気が来て、ぐっすり眠れそうだと確信する。
しかし、1つ気がかりなのはゲドウマル様こと。
なーんか話してる雰囲気が誰かと似てんるんだよな。
しかし、誰だろうと思い出すには至らず、次第に僕の意識は深く沈んでいった。
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ここに1人、王都ウルスを見下ろす侍がいた。
侍は自虐の笑みを浮かべていた。
「話し合い無しでは事が進まない……か、どの口が言えたものだか」
思い出すは先程話したイサミという男。
あの者が最近噂の『不殺の盾持ち』か、よくあれで兵士なれたものだ。
いや、仲間に話しずらい事をまた話そうとする挫けない様、その心、まさに勇気で満ちてると言えよう。
少なくともこの侍はそう思った。
もしも自分にもその勇気があったなら、あの時に後悔はしなかったかもしれない。
いや、まだ変えられる。
もう会うことがないと思われた肉親が、目の前に現れた。
失われた機会が舞い戻ってきた。
もう以前の名は使っていないが、向こうは自分に気がついてるはず、しかし話し掛ける来る素振りは無い。
ならば自分から話し掛けるまでだ、ただ、そう思っていても話しかけるのが億劫になってしまう。
あんなに慕っていたのに、
一体何年会話をしていなかったのか、
そもそも以前はどう話していたのかすら忘れた。
そこでふと思った。
あのイサミという者に話しかけ方を聞くのが良いかもしれない。
何せ自分の肉親と仲良さげである所を何度か見た。
彼ならば教えてくれるかもしれない。
「……兄上」
その晩。
侍は腕を組みながら夜が明けるまで、ずっと王都ウルスを見下ろしたり、空を見上げたりを繰り返した。
朝早くにその姿を見たバレナ兵達は、なんと精勤なことかと感服する。
そしてますます侍に対し、畏敬の念を抱くこととなった。




