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勇者  作者: 海目 愚丸
狂気の回天編
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第四十一話「架空の生物」

 最初に龍の事を知ったおとぎ話はなんだったかなー。

 確か琵琶を持った放浪者が龍と出会う話しだ。

 放浪者は琵琶で奏でた曲で龍を楽しませ、

 そのお礼に龍は特別に放浪者だけにある秘密を言うんだ。

 そしてその秘密は他人に決して言ってはならないと。

 でも、放浪者は秘密を他の人に言いふらしてまい、龍の怒りを買ってしまう。

 最終的に放浪者は無惨に殺されてしまったという話し。

 この話を聞いた僕は、幼いながらも龍は恐ろしいモノだと理解した。

 龍に会ったことないのに。


 でも、今、目の前には龍がいる。

 おとぎ話みたいに喋りそうには無い。

 知性なんてのも感じない。

 それでも、生き物としてこれより上は無いだろうと思える力強さがある。

 恐ろしさがある。

 あとカッコイイ。

 

 そんな大好きな龍を目の前にして、1つだけ許せないことがある。

 それは、攻撃方法が舌をべローンって素早く出すだけなんだ。

 確かに速く、破壊力もある。

 が、龍なら火を吐くとか、尻尾でバーンとか、あるだろう!

 さっきから僕は狙いを定めてから放ってくる舌を、盾でガードか、避けるぐらいしかしてない。

 別に相手に強くなって欲しいとかじゃないけど、せっかくなら他の技を見たい。

 

 今、また来る。

 龍は口を半開きにしながら静止する。

 そして次の瞬間、僕の盾が衝撃を受け止めた。


「今だ!」

 

 僕の掛け声と共に、森の中を俊敏に駆け回るチカセが姿を表し、斬撃を龍に見舞う。

 何度か斬りつけたら、また直ぐに森へ身を隠す。

 これを何度も繰り返しているが、今のところ効き目は薄い。

 剣が鱗で阻まれて通らないようだ。


 いつまで耐えられるか。

 龍の舌は粘着性があるらしく、盾で防いだあと、そのままにしておくと、舌を仕舞う時に口の中に引き込まれてしまう。

 そうならない為に、防いだあと、盾とくっ付いた舌の間に剣の刃を入れ、下から上へ斬り上げて剥がす。

 おかげで僕の盾は龍のよだれでベチョベチョだ。

 それで(ヤタくん)は不機嫌になったのか、一切輝かなくなった。

 まぁ、龍の口から出た時から輝きは失われてたから、関係ないと思うけど。

 

 もうすぐ太陽が完全に沈む。

 このままじゃ、また暗闇で戦いづらくなる。

 もう一度(ヤタくん)に輝いて欲しいものだ。


 そうこう考えてる内に、龍は何やら今までと違う動きを見せた。

 静止したと思ったら、

 瞼の下にある透明な膜、それが徐々に上がっていく。

 そしてキョロキョロと目玉を動かす。

 まるで焦点を合わせるようにし、ピタッと止まった。

 分かる。

 この龍は僕を見ている、今、初めて僕を視認したんだ。

 今までどうやって僕を捉えていたか分からないけど、眼で見ていなかった。

 ヒワシの言葉が脳裏に思い浮かぶ。

 明かりが苦手と言っていた。

 ならば日が沈んだ今が!


「本領発揮という訳か!」

 

 僕の予見は的中した。

 ドドドドと、物凄い速度で龍が突進して来る。

 四足歩行で森を駆け、木々を薙ぎ倒しながら僕に向かって一直線。

 先程とは別の生物なんじゃないかと思えるほど俊敏だ。

 さすがに盾で防げない、轢き殺される。

 避けなきゃ。

 

 そう思い、横に向かって走り、ギリギリの所で前のめりに跳ぶ。


 ふー、危ない、危ない。

 緊急回避が間に合っーー!


 バゴンーー!


「ぐっ!」


 立ち上がって、

 龍が通り過ぎたと思ったら、すれ違う瞬間に一回転し、尻尾で薙ぎ払う攻撃をして来た。

 咄嗟に盾でガードしたものの、吹っ飛ばされる。

 幸い空高くではなく、地面スレスレに飛ばさたので、身体をひねり、剣を地面に突き刺しながら着地する。

 ズザーっと滑り、静止するのに一瞬じゃ済まなかった。

 かなりブーツの底がすり減っただろうな。


「イサミー!」


 まだ荒らされてない森の方からだ。

 チカセが木影からひょこっと身体を出し、手を振っている。

 それを見て急いでチカセの元に転がり込む。

 龍がこちらを振り向く前だからバレずに行けた。


「どうした、怪我した?」


 隣合って木を背にしながら聞く。

 

「大丈夫、怪我はしてない。けど、攻め方を変えよ、アイツもさっきと動きが変わってる。

 速くなってる。」

「うん分かった! 多分あの龍は夜行性なんだ。魚にも夜にならないと活動しないヤツがいる、それと同じだと思う。」

「ねぇ、イサミは龍と言うけど、あれ龍じゃなくない?」


 チカセは何を見ているんだ!


「あんなにカッコイイんだ! 龍だよ!」

「カッコ良さ関係ないから」

「……羽もあるし、尻尾もある、舌だって伸ばせるんだよ?」

「そこが1番おかしいって! 舌を伸ばす龍ってなに? 聞いた事ないよ」

「そもそも龍は架空の生き物だと思ってたんだ。

 実際はアレなんだよ」

「あんなトカゲみたいなマヌケ顔だから、もっとガッカリしてるかと思った」

「そんな訳ないだろ? ……おかしいよチカセ」

「イサミだよ、おかしいのは」


 お互い譲らない。

 少しばかり睨めっこが続いた。

 そしてどちらも小さな笑いが漏れて、勝負がおわる。

 今回は引き分けだった。


「なんの話をしてたんだっけ?」

「倒し方でしょ?」


 呆れたようにチカセに言われた。

 でもチカセが睨めっこして来るからだよって思ったが、心の中にしまう。

 代わりに先程戦った手応えを聞く。


「で、どうだった?」

「うんと、背中側は鱗が硬くてあまり刃は通らなかった。

 お腹とか、首下は柔らかくていい感じ。でも、切断するには大きすぎる。2人で斬れば首ちょんぱできるかも」

「じゃあ2人で首を斬ろうか」


 うん、とチカセが頷いた。


「後はどうやってその隙を作るかよね」

「そこは僕に考えある。

 さっきも言ったけど、アイツは夜行性だ。

 光に弱い。

 夜行性じゃなくても急に光を当てられると怯むけど、きっとアイツはそれ以上に怯むはず」

「それはいいけど、あんなデカイのが怯むほどの光なんてどこから出すの?」


 左腕を胸の前まで上げる。


「この盾を光らせる!」


 チカセは盾を見た。

 きっとそこには薄く自分の顔が写っているだろう。

 

「まって、確か前に光ってるの見た事あるけど、あの時、イサミも何が何だか分からないって言ってなかった?」

「うん、今もよく分からない」

「えっ、今この場で光らせられるの?」

「できる……と思う。さっきも龍の口の中で光ったんだ」

「……じゃあ信じる」

「まかせて!」


 やる事が決まり、すぐさま散らばる。

 チカセは引き続き森の中で息を潜めて、僕が作り出す隙を待つ。

 僕は龍が通り過ぎた事により、森じゃなくなった場所に身を晒した。

 月明かりに照らされて、さぞかし分かりやすかっただろう。

 龍は直ぐに僕を見つけた。

 今度は見失わないように、僕をしっかりと見る。

 

 龍を盾の光で怯ませるにしても、まずは近づかなきゃならない。

 駆ける構えをし、タイミングを見計らう。

 龍も僕が何か仕掛けて来るのを感じ取ったのか、動かない。

 

 月明かりが雲に遮られた瞬間。

 何となく、今がその時だと感じた。脚に力を入れて飛び出す。

 しかし、たとえ月明かりが一瞬消えようと、龍は僕を完璧に捉えていた。

 走り込んでくる僕に対して、舌を伸ばし応戦する。

 先程とは違う。

 まっすぐ伸ばしてこない。

 鞭を振るように、しなやかに、僕の左側面から当てにくる。

 

 僕は身を屈み、より前傾姿勢にし、地面スレスレに走る。

 左腕の盾を頭の上に斜めに添える。

 

 ジャリン!


 龍の舌が盾を舐める。

 が、まだ来る。

 今度は振った舌を逆方向に返してきた。

 僕の右側からだ。

 より速くなってる。

 一瞬立ち止まって、盾で受け止めるか迷ったが、このまま走る。

 そして、返される舌が僕に当たる寸前、地面を強く蹴って上に跳躍する。

 足の指先を舌が掠めた。

 当たっては無い。

 よし!

 飛んだ先は龍の顔の左側、そこにある大きな目玉。

 あとは盾を光らせて怯ませるのみ。

 そう思い、盾を龍の眼に向けて願う。

 頼む! 光ってくれ!

 

 ……盾は光らない。

 願いは届かない。

 

 もう龍の眼とキスする寸前まできた、ならばせめて一撃食らわしてやろう。

 盾を退けて剣を振ろうとするも、既に遅かったことに気がついた。

 龍の左手が僕を叩き落とそうとしている。

 咄嗟に防ごうとするも間に合わず、

 歯を食いしばることしか出来なかった。


 はたかれた音は無かった、衝撃と共に身体が弾き飛ばされたのは覚えている。

 が、そこからは思い出せない。

 全身が痺れたような痛みで、動かない。

 ーー意識が遠のいていく。

 頑張って片目の瞼を少し開けるが、真っ暗だ。

 何も見えやしない。

 どうなってしまったんだ僕は。

 

 さっきまでの自信が嘘のように消えていく。

 なんであんなに盾を光らせられると思ったんだっけ。

 ……そうだ、盾が2回も輝いたから、3回目もできるんじゃないかと思ったんだ。

 灯りを欲した時、盾が輝く。そんなおとぎ話みたいなことが僕にも出来ると、思ってしまったんだ。

 あんな偶然に頼るべきじゃなかった。

 今更悔いても仕方ない、が、まだ倒れる訳にはいかないんだ。

 このまま僕が倒れたら、チカセが1人で戦うことになる。

 それに、チカセは僕を信じるって言ったんだ。

 だから、倒れる訳にはいかないんだ!


「ううう」


 鉛のように重い身体を奮い立たせる。

 すると、みるみる身体に力が入っていくのを感じる。

 上がらなかった瞼が上がり、くっきりと見えるようになっていく。


 まだ終われない。


---


 チカセは見ていた。

 イサミが走り、龍の舌を2度躱し、詰め寄って行くのを。

 そこで自分も走った。

 イサミが龍を怯ませるタイミングで飛び出し、剣を走らせるつもりだった。

 でも途中で脚が止めた。

 イサミが龍に、はたき落とされたからだ。

 物凄い速度飛んでいき、近くにあるそこまで高くない崖下に打ち付けられていくのを見ていた。

 そして、その衝撃で崖が少し崩れて、いわなだれがイサミ目掛けて落ちていくのも見てしまった。

 

 岩や土に埋もれてイサミの姿は見えないが、あれで無事でいられる人なんて……。

 最悪が頭をよぎり、チカセは泣きそうになった。

 涙を堪えられたのは龍がまだイサミの方に行こうとしてたからだ。

 死んだ事を確認するためか、食べるつもりなのか、はたまた龍はイサミがまだ生きてると思ってるのか、分からない。

でももし、まだイサミが生きているのならば、行かせない。

 チカセの脚がまた動き始める。

 脚も、剣も走らせる。

 チカセは四つん這いになってる龍の下に潜り込んだ。

 そして腕、腹、喉を狙う。

 どれも斬れはするが、血が吹き出るほど深くは無い。

 

 龍としては大して痛くも痒くもないだろう。

 だが、鬱陶しかったのは間違いない。

 1度イサミの方へ向かうのを止め、後ろ足で首下や、お腹を掻くような仕草をした。

 無論チカセは止まらず、攻撃は続けるもので。

 ついに龍は耐えかねて、その場で一回転した。

 ただの一回転。

 しかし、その回転はチカセを吹き飛ばすのに十分な威力。

 いや、十分過ぎると言ったところか。

 一瞬だけ竜巻が巻き上がったのだから。

 チカセは風に追い出されて吹き飛んだ。

 そして、奇しくも転がり落ちた場所はイサミが岩石に埋もれている、すぐ側だった。

 

 チカセは倒れながらに思う。

 自分が弱いばかりに、イサミに無理な策をさせてしまったと。

 もし、自分の代わりに第3小団の誰かがこの場にいたのなら、きっとイサミはあんな事になってないと。

 堪らず今度は涙が漏れてしまった。

 

 そこでチカセは異変に気がつく。

 あまりにも自分の涙がキラキラと輝いているのだ。

 違う、輝いているのは涙の向こうだ。

 その輝きに照らされて涙がキラキラしていたのだ。

 光を放っているのは、岩石の下敷きになっているイサミの所からだ。

 岩と岩の間から光が漏れている。


 ガラガラっと積もられた岩山が崩れていき。

 中から1人の男が出てくる。

 その者の左腕にある盾から光りが発せられていた。

 否、男の瞳もだ。

 鈍い黄金に輝いていた。

 

「イサミ……?」


 あれがイサミが言っていた光らせた盾なのかと、チカセは思った。

 そしてこうも思った。

 確かに輝いているけど、眩しいと思う程の光じゃない。

 今この瞬間は目立つ。逆効果だ。


 チカセの推察通り、龍は既にチカセから目を離し、イサミに釘付けだった。

 そして、龍はイサミ目掛けて手を振り下ろし、潰そうとするが。

 次の瞬間、チカセは信じれないことを目撃した。

 イサミが盾で龍の手を弾き返したのだ。

 あの巨大な手を、質量を。


---


 まだ身体は痺れてるし、痛い。

 なのに力が溢れてくるような、なんでも出来ちゃいそうな感じで、何故か動く。

 敵の攻撃もよく見える。

 夜だと言うのに、昼間よりも鮮明に敵の姿も、攻撃の軌跡も見える。


 今しがた手での攻撃を弾き返された龍は、ならばと舌を伸ばしてきた。

 すごく遅く見える。

 ほら、ジャンプして躱し、そのまま舌を伝って駆け上がることだって出来ちゃう。

 あという間に顔の前まで来た。

 そして、同じように龍の顔の左側に跳躍し、同じように盾を龍の眼に向ける。

 もう光るかどうか分からない盾を当てにしないと思ってたのに。

 でも分かるんだ、今は輝くと。

 

 刹那。

 炎のような赤では無い、夕日のような橙色でもない。

 ただ白く、真昼間に見る太陽の時のような白さで盾が輝いた。


「キュルルルル」


 その輝きに龍は瞼を閉じ。

 少し仰け反った。

 四つん這いから、後ろ足での二足で立ち上がった。

 龍の首が斬りやすいように顕になった。

 トドメだ。

 僕は1度着地し、再度力を入れて飛ぼうとした時。

 隣にチカセがいた。

 彼女もまた、膝を曲げて飛ぶ瞬間だった。

 良かった、怪我してるみたいだけど無事みたいだ。

 僕達は飛んで、同時に龍の首に水平に剣を振った。

 

「「はあぁぁぁ!」」


 両サイドから振った剣はうねり、龍の首に入り込む。

 そしてそのまま首の後ろから抜けていく。

 滑らかに、骨すらも両断した。

 首が無くなった胴体は再度四つん這いに戻り、1歩、2歩と進むが、力なく倒れた。


 着地した僕達は振り返り、動かなくなった龍を見て確信した。

 勝ったのだと。

 

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