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勇者  作者: 海目 愚丸
狂気の回天編
45/76

第四十話「魂の証明」

 予定通りチカセは洞窟の外に待機してもらい。

 (シラホシ)もチカセと一緒で外にいてもらう。

 もし何かあった時、シラホシは置いてかれるけど……まぁ大丈夫だろう。

 ドンちゃんの武器はどうしようと思ってたけど。

 蟹男が元々持ってた剣を使うことになった。

 これで準備万端だ。


「気を付けてね!」

「うん!」

「チカセちゃんこそ気をつけなさいよ?」


 チカセは僕達を心配し、ドンちゃんはチカセを心配している。

 僕もどちらかと言うと、チカセが心配だ。

 僕達が洞窟に入った後で、蟹男の仲間にチカセが襲われるんじゃないかと。

 でも信じよう。

 何故ならチカセが『任せて!』っと自信満々だから。

 眉間も寄せてキリッとキメ顔を作ってる。

 ……んーいくらなんでも自信ありすぎたろ、逆に不安だよ。


「あの嬢ちゃんは一緒にこねーのか?」


 蟹男が何やら気にしてる。


「何かダメなの?」

「そんな事ねぇよー」

「ふーん、じゃあ行こう」

 

 僕は剣を後方から蟹男に突き立てて、先頭を歩かせる。

 いざとなったら人質にしよう。

 

---


 洞窟内をカンテラで照らしながろ進む。

 所々に獣の痕跡が見られた。

 糞は落ちてなかったが、草で作られた寝床がいくつもあった。

 僕が両腕で作った輪っかぐらいの大きさだ。

 思いのほか小さいな、洞窟の入口が大きかったからデカイ獣でもいるのかと思った。

 

 おや、ある所まで進んだら獣の痕跡がパタリと消えてる。

 そして洞窟内が急に狭くなった。

 横幅が2人分もない。

 嫌だな……狭いところ嫌いなんだ。

 昔、(ハル)がイタズラで僕を布団に巻いたんだ。

 朝、目が覚めるとミノムシ見たいな感じで布団に包まってた僕は身動き1つ取れず、泣きながら助けを呼ぶことしか出来なかった。

 冷静に考えて横に転がれば抜け出せたと思うけれど、あの時は出来なかった。

 結局最後は母ちゃんに助けてもらった、あの時の不安と怖い思いは今でも忘れられない。


「ここだ」

 

 洞窟はまだ続いているが、蟹男は立ち止まり、ある一点を顎で指した。

 見ると、そこには下に続く階段があった。

 なんかヌメヌメしてて滑りやすいため、僕達はゆっくりと降りた。

 降りた先をまた少し進むと、だだっ広い空洞に出た。


「おお」

「あらま」


 驚いた。

 洞窟内だと言うのに、なんとも綺麗な……。

 これ絵本で見た事ある!

 鍾乳洞ってやつだ。

 天井には氷柱見たく垂れ下がった石がびっしりとある。

 不思議なことに幾多の垂れ下がった石の先端が光っている。

 僕の持ってるカンテラより明るい。

 なんでこんな光ってるんだ?

 

 上ばっかり見てたけど、下もすごい。

 今まで通ってきた道とえらく違った。

 ほぼ平らだ、それに綺麗な床だ。

 洞窟に相応しくないこの人の手が加わった感じ。

 危ない、ここが敵地かもしれないことを思い出した。

 

 すると、コツコツと空洞の奥から歩いてくる音が聞こえてくる。

 僕は少し腰を落とし、気を引き締めた。

 いつでも戦えるように。

 

「誰かと思いましたら、お客さんゾネ、ようこそ」


 そいつは兵士では無いだろう、武器も鎧も着けてない。

 着てるのは膝丈ぐらいまである白い服。

 前にウルスの病院で見た医者みたいだ。

 でも患者に思えるほどすごく不健康そうで、病に冒されている感じがする。

 目の下にある隈なんてもう黒じゃなく、青紫色をしている。

 だと言うのに、男は両方の口角を上げてニコニコと笑顔を浮かべていた。

 

 なんというか、気味が悪いな。

 笑顔って嬉しいや、楽しいと思った時に出る表情のはずなのに。

 白衣の男からはそういうのが感じ取れない。

 作り笑顔なのは間違いない。


「君は何者だ!」

「……訪れたのは君達なのに、僕ちゃんから名乗らないといけないゾか?」

「確かにそうだ! 僕はイサミ!」

「キョキョッ、僕ちゃんの名はヨリユキ……おっと、今は頂いた真名があるのでした。

 では改めて、名をアメノヒワシカケルヤと申しますゾネ」

「覚えられなかった! もう1回言ってくれ!」

「アメノヒワシカケルヤと申しますゾネ」

「…………」


 言葉の最後につけているゾネってのが凄く独特で気になる。

 気を取られすぎてほとんど覚えられなかった。

 なんだっけ、アメノヒ……てるてる坊主作る、じゃなくて。

 どうしよう、2回も名乗ってもらったのに覚えられなかった、て言ったら失礼だよな。

 ドンちゃんはどうだろうか。

 チラッと横を見る。

 

「あなた! 攫った人達がここにいるでしょ!

 つべこべ言わずに解放しなさい!」


 ドンちゃんは白衣の男の名前など気にしてない。

 あ、白衣の男が凄く悲しそうな顔してる。

 そりゃそうだ、名前覚えられないのは悲しいよね。


「ごめん! 名前長いから他のにしてくれ!」

「……では、ヒワシとお呼びください」

「分かった! ヒワシ!」


 すると、ヒワシは再びニコニコと笑みを浮かべた。

 この笑顔は今までと違ってほんとうに笑った気がする。

 でも一瞬だった。

 また作り笑顔に戻っている。

 

「さて、君。

 まず僕ちゃんが人攫いしたと言いましたネ?

 ええ、しましたよ。

 正確には攫わせたですが。

 しかし、それを知っているという事は、やはりそこの縄で縛られた者がペラペラと喋ったのですネ」


 ヒワシに見つめられた蟹男は顔を俯かせて、目を逸らした。

 

「いけないゾ、契約では研究所の事は他言無用のはず」


 蟹男は慌てて顔を上げた。


「違ぇんだ旦那! 

 おいボウズ! 道案内は済んだろ! 縄を解いてくれ!」

「ダメに決まっ」


 てるだろう。

 

 僕が言い切る前に、目の前にいた蟹男が……消えた?

 ちゃんと視界にいたのに、見失ったというのか。

 僕は蟹男を縛ったロープをがっしりと握ってたんだぞ。

 おかしい!

 手のひらを上に向け、確かめる。

 そこにはもうロープは無いと知っているが、あまりの信じられなさに、思わず手のひらを見る。

 

 えっ!

 僕の手が!

 手のひらの皮がごっそりと削り取られている。

 親指の腹だけ剥がれてなかったが、それ以外は無い。

 

 痛ッーー!

 手のひらの皮が無いと認識した途端、痛みが訴えかけてくる。

 なんて痛さだ!

 くぅー! 子供の頃に鬼ごっこで転んだ時、手を擦りむいた事があったけど!

 これに比べたら、あんなものは屁だ!


「イサミくん、その手!」 

 

 ドンちゃんが僕の苦虫を噛み潰したような顔で異常に気づいた。

 

「ヤダ! ヤダ! お助け下さい!

 アメノヒワシカケルヤノミコト様アアアァァァ」


 これは蟹男の声だ。

 どこからともなく空洞内に響く。

 でも次第に小さくなり、やがて聞こえなくなった。

 次に聞こえたのは『ギュルルルルルル』という音。

 鳴き声みたいだ。

 でもあまりにも人からかけ離れている。

 まるで獣だ。

 この空洞内に人でない何かがいる。

 蟹男はそれにやられたのか?


「さてと、次は攫った者共を解放しろでしたネ?

 私としては構いませんが、彼らはここを離れないでしょうネ」


 何事も無かったかのように、ヒワシは軽やかに喋り始めた。

 人が1人消えたって言うのに気にも留めない。

 

「どういう事だ!」

「見た方が早いでしょう、付いて来るのだゾ」


 ヒワシは白衣を翻し、コツコツと僕らに背を向けて歩いていく。


「イサミくん、あなたは戻りなさい、ヒワシは危険だわ」


 思ってたよりもここは危ない場所かもしれない。

 てっきり、蟹男の仲間達が10数人程度がいるだけだろうと思ってた。

 でも実際はそんなんじゃなかった。

 ヒワシとかいう男、僕より強いとは思えない、が、何となく身の毛がよだつ恐ろしさを感じる。

 しかも得体の知れない獣まで従えてるっぽい。

 戻るなら今しかない。

 ならドンちゃんも一緒に戻るべきだ。

 いや、落ち着け……ヒワシは僕達にここの事を喋った蟹男を殺したんだ。

 僕達をこのまま逃がすとは思えない。

 きっと僕達が引き返した瞬間、蟹男が消されたように僕達はやられる。

 それにだ、この先には攫われた村人達がいる。

 それを知りながら戻ることはできない。

 進むしか無い……。

 

「ドンちゃん、危険と分かっていて君を残して戻れるわけないだろ?」

「……そうだったわね、あなたは危険と知りながら私のようなウルス兵を殺さなかった、そういう人だったわね」


 僕達は空洞のさらに奥へと進んだ。


 馬が1頭分ぐらいの間を空けて、ヒワシの少し後ろを歩く。


「質問いいかしら」


 ドンちゃんの問いかけにヒワシはこちらを振り向かず、歩いたまま答えた。


「ええ、なんでしょうか」

「あたしは村を襲ったのはバレナ軍だと思ってたけど、さっきあなたが殺した男は最後にあなたの名前にミコト様と付けていたわね」

「はい」

「そう呼ぶのはウルスの民だけ、そう呼ばれるのはウルス王から名を賜った15人だけ」


 ウルス王から名を賜る。

 その言葉に真っ先に思い浮かんだのがスサノオだった。

 ヒワシもスサノオと同じぐらい強いってことなのかな。

 だったら手も足も出ない、ボコボコにされる。


「君もそう呼んでくれていいのだゾ」

「いやよ……テメェを敬うなんて事は死んでも出来ねぇ」


 ドンちゃんが急に野太い男の声になった。

 これはブチ切れしてる合図だ。

 ここで戦うことになるのか?

 どうせ遅かれ、早かれ戦うことになる。


 右手を剣の柄を握る。

 僕の中で緊張が走り、

 剣を抜く寸前だったが、今はまだその時では無かった。

 何故ならドンちゃんはまだ剣を抜いてない、ヒワシもこちらを振り返らないからだ。

 そして今、ヒワシが突き当たりまで来て止まった。

 目の前には扉がある。

 ここに来るまで3回分かれ道があり、3回とも右に進んでここまで来た。

 こんな奥に一体何があるのだろう。

 そのような疑念があるからまだ殺し合いに至らないのかも知れない。

 

「残念、けど君も僕ちゃんの傑作の数々を見れば、自ずと僕ちゃんを敬いたくなるゾ」


 そう言ってヒワシは扉を開けた。


---


 相も変わらず、扉の先でも天井は氷柱のような垂れ下がった石でびっしりで、所々光っているのだが。

 注目すべきは地面に置いてある箱みたないなモノ。

 台座の上に乗っけられた箱はほとんど透明で、中身が丸見えだった。


「もしかして……攫った人達なのか?」

「いかにも、こっち側に置いてあるのが今日捉えた者達、こちら側にあるのは二月前、あっちにあるのがーー」

 

 箱の中身は水で満たされているらしく、ピクリとも動かない人達の髪がユラユラしている。

 中には上半身しかない者、

 肉が付いておらず骨しか残ってない者、

 武器が刺さったままで、言葉で言い表せない程の者までいた。

 何が解放してもいいが、彼らはここを離れないでしょうだ!

 もう亡くなってるから離れられないだけじゃないか!

 

 そんな中、ドンちゃんがある水槽にゆっくりと近づき、声を震わせながら言った。


「お義父様、お義母様……」


 その言葉に驚いたのは僕だけじゃなかった。

 ヒワシが食いついて来た。


「彼らは君の両親なのかい?

 僕ちゃんは運がいいネ、その2人の娘、君の姉か妹に当たるのかな? 本当はそちらを被検体に欲しかったのですがネ、使いに出した愚かな賊共が抵抗されたからと言って殺めてしまったのだゾ

 実に嘆かわしい。

 ああ、でも! 安心して欲しい。

 娘が身篭っていた幼体は確保したのでネ。

 これで君も含めて娘の血縁が4人! 使える被検体は多ければ多いほどいいからネ!」


 あまりにも酷い。

 こんな事があっていいのか……。

 ここに来る前、村を焼いて、何人かの命を奪ったであろう蟹男。

 僕は酷い男だと腹を立てた。

 でも、今、目の前にはもっと惨いことをしている者がいる。

 蟹男とヒワシ、どちらも兵士でもない民の命を奪った。

 どちらも同じなのに、

 ヒワシに対しては腹の底からどす黒い何かが込み上げてくる。


「この2人は俺の両親じゃねぇ」

「はて、君は先程、2人に対して父さん、お母さんと言ったじゃないか」

「テメェの言う娘も俺の姉でも妹でもねぇ」


 ドンちゃんは剣を抜き、ヒワシの方に向いて歩いて行く。

 だが次第に歩くのが速くなり、次の瞬間。

 ドンちゃんの身体がうねった。

 ヒワシに向かって凄い速さで跳んでいく。


「俺が愛した! ただ1人の女だあぁぁぁ!」


 ドンちゃんの剣がヒワシの首筋に当たるのを見た。

 斬り飛ばした! そう思った。

 なのに、ヒワシ首はまだ胴体についている。

 代わりに飛んだのはドンちゃんだった。

 

「ゲホッ!」


 ドンちゃんは上へと吹き飛び。

 天井にぶち当たってから地面に落ちる。

 その直後に僕も剣を抜き放ち、斬り掛かるが、

ヒワシの眼前で急に衝撃を受けて後方に吹き飛んだ。


「お父さん、お母さんって義理の意味でしたか。

 はぁ、期待させといて、ガッカリしたゾ。

 酷い人だ」


 ヒワシはそう言い終わると、今度は驚いてる顔に瞬時に切り替わった。


「あぁ! 僕ちゃんの傑作が傷ついたらどうするのだ!」


 何に怒ってるのかと思ったら、天井にドンちゃんがぶち当たったことによって1箇所、氷柱のように垂れ下がった石が粉々に砕けている。

 ボロボロになって落ちている石をヒワシは目で追った。


「イサミ……見えたか?」

「何も見えなかった」

「俺もだ、アイツの技を見切れないと厳しいな」


 ドンちゃんがなんで吹っ飛ばされたか分からなかったし、僕もなんの攻撃されたか分からなかった。

 ここでまた攻めたら先程の二の舞になりかねない。

 少し探りを入れよう。


「傑作ってなんの事だ」

「気になるかネ? アレを見ろ!」


 指を指された方向を向くと。

 地面に矛を上にした槍が立っていた。

 ただ、その槍の先端には妙なモノが刺さっていた。

 なんだあれは。

 …………生首だ。

 おばあちゃんの生首が刺さっている。

 いや、それだけじゃない。

 生首の下には心臓もある、生首と心臓を重ねて貫いたのか。

 本当になんなんだあれは。

 

「分かったかネ?」

 

 あれを見て何がわかるって言うんだ!

 いや、あるか。


「君が外道って事はよく分かった」


 僕の言葉を聞いたヒワシはやれやれ、といった感じで首を振った。

 

「変だと思わないのかネ、洞窟内がこんなに明るいのだゾ」


 そんなの、天井にある何故か光ってる石があるからだろう。

 そう思い、目を凝らしてもう一度天井を見る。

 んー? 何やら、光ってる石には細い糸のようなものが出ている。

 その糸はまた別の石へ繋がっている。

 全部の光っている石は繋がっているということか?

 糸がどこへ繋がっているのか目でなぞる。

 糸はやがて1箇所に集まっていく。

 先程見た、槍で貫かれたおばあちゃんの生首へ、その頭蓋の天辺に。

 だからなんだと言うのだ。


「ふむ、分からん!」

「アレはネ、魂の御業なのだゾ」


 よりにもよってこんな外道から魂なんて言葉出るなんてびっくりだ。

 幽霊も信じてなさそうなのに。

 

「あの老婆は生前占い師でしてネ、ただの占い師じゃありませんよ?

 占をすると、彼女が持つ水晶が輝くのです。

 それでたいそう有名だったようで。

 まぁ占いの是非は定かではありませんがネ。」


 ヒワシは楽しげに語る。

 まるで(ハル)が手に入れた新しい玩具を僕に見せてくる時のようだ。


「僕ちゃんが水晶に触れても輝かなかった。

 そこには老婆でしか扱えない特別な力があるのは明らか。

 北の神職によると、こういった異能は魂の御業と考えているだとか。

 魂が存在するならば、どのような形、どのような色をしているのか。

 人のどこに宿るのか。

 僕ちゃんは魂というモノを解き明かしたい! 

そして異能をどうにか再現したい!

 その1歩として、老婆の脳を、心臓を、全ての臓物を隈なく調べたゾ。

 そしてついに再現できたのがアレなのだ!

 バラバラに砕いた水晶を天井に散りばめ、老婆の頭蓋(とうがい)から伸ばした血管で全ての水晶の破片を繋げた。

 残念な事に魂は顕にならなかったが、その存在は! 脳、心臓、血管のどこかにある事は確かだゾ!

 不思議なことに、この3つと繋げた水晶は輝いたのだからネ」


 天井で光っている石は水晶だったのか。

 そしておばあちゃんが生前に使っていた力で輝かせていたという訳か。

 んー、僕がお坊さんから聞いた話とは少し違うな。

 お坊さんは魂は大切にされた道具に宿ると言っていた。

 そして超常なる力は道具に宿った魂が使い手に力を貸す時に起こると。

 でもなー、目の前には亡くなってる人にも関わらず、ヒワシは超常の力を引き出してる見たいだし。

 あの水晶に魂が宿っているとして、バラバラに砕かれた挙句、もう亡くなってる持ち主のために輝くものなのかな。

 ヒワシが言っているように、亡くなってる人の魂の力を無理やり引き出してる方が納得がいく。

 ……亡骸なのにまだ魂が身体にあるのは変だけど。

 

「君が凄いのはよくわかった!」

 

 そう褒めると、ヒワシはムフっとドヤ顔になった。

 気分が良さそうに見える。

 今ならなんでも教えてくれそうだ。


「ちなみになんだけど……君のする見えない攻撃もなんかの傑作だったりする?」

「キョキョキョッ、ええ、ええ! 僕ちゃんの傑作の1つだゾ」

 

 さらにご機嫌な様子になったようで。

 まるで蝶々なんじゃないかと見間違うほど軽やかなステップを踏みつつ、天井の石を光らせてるおばあちゃんの生首へと向かった。


「あの子は明るい所が苦手でネ、少し暗くしましょうか」


 ヒワシはつま先を立たせ、手を伸ばして生首の眼に手を届かせる。

 そしておばあちゃんの右の目玉をクルッと右に回転させた。

 すると少し遅れて、天井に張り巡らされた水晶の破片の輝きが減った。

 輝きが減る前の光は白く眩しかったのに。

 今は夕日みたいな、みかん色だ。

 見てると眠くなる気がする。


「ほらおいで」


 ヒワシの声に反応して、奥から何やら出てきた。

「ギュルルルル」

「そこで止まれ、それ以上はダメだゾ」


 色々な機械が置いてある手前でそれは静止した。

 馬よりも大きな眼、クジラ程ある体躯、その身体を覆う灰色の鱗、長い尻尾、そして背中に生えている羽。

 紛れもなく僕が知っているおとぎ話に出てくる龍そのものだった。

 おとぎ話は本当だったんだ。


「どうですか、凄いでしょう。

 僕ちゃんの可愛い、可愛いドラコニス。

 君達を攻撃したのはこの子の舌なのだゾ」

「舌?」


 僕達はこの龍がべローンって出した舌に攻撃されただと。

 見えない程の速さでの舌の出し入れ、

 あれほどの衝撃になるのも頷ける。

 これが龍。


 今からコレと戦うのか。

 僕の剣、刃が付いてる方で斬っても通じるとは思えないな。

 でもせめてヒワシは倒さなきゃダメだ。

 このままではあの外道を野放しにする事になる。

 

 見えない攻撃の正体が知れた。

 もう戸惑う必要も無い。

 残るは戦うのみ。


「ヒワシ! 君を今ここで! 叩きのめす!」


 ヒワシは口を開けた笑みを浮かべた。

 

「かかって来なさい」


---


 ドンちゃんに目配せをし、仕掛ける合図を送る。

 そしてドンちゃんが頷いた瞬時、僕は前に飛び出た。

 盾を前に構えながら前傾姿勢で走る。

 ヒワシに目掛けて一直線に。

 

 あと数歩って所で、龍が口を開いた。

 狙いを定めてる!

 攻撃が! 舌が飛んでくる!


 ピンク色の肉の塊が気が付いたら目の前まで飛んできていた。

 予め盾を構えていた事もあり、龍が飛ばして来た舌は僕の盾にぶち当たった。

 ただその勢いは止める切る事が出来ず、後ろに押し出される。

 地面から土煙が舞い上がり、足が浮きそうになるを堪え、なんとか受け止めきった。


 龍がヒワシに近づいた僕を先に攻撃してくることは予想できていた。

 そしてこの隙をドンちゃんは見逃さなかった。

 今度はドンちゃんがヒワシへ飛び出る。

 初めての連携にも関わらず、上手くいった。

 きっと僕よりも戦に長くいたドンちゃんだからこそ、僕に合わせる事ができるのだろう。


 まずはヒワシを殺ればいい。

 龍なんてバケモノは味方を大勢呼んでからじっくり挑める。

 これで目標が1つ達成かなと思いきや。

 またしてもドンちゃんの剣はヒワシの首を斬り飛ばせなかった。

 龍はドンちゃんに向けて何もしてない。

 なにかしたのはヒワシの方だった。


 ドンちゃんの剣を受け止めたヒワシの首は腐ったみかん色になっていた。

 カビみたいな何か。

 それが首から顔の方へ登り上がっていく。


「僕ちゃんのこと甘く見てないかネ?

 僕ちゃんは強いゾ〜」


 くっ!

 あそこで殺れ無かった時の事なんて考えてない。

 せめて僕もドンちゃんと一緒に戦えれば2対1なのに!

 この龍が邪魔だ!

 どうする。

 この龍は機械があちこちに置いてあるこちら側には来られない見たいだし。

 無視してドンちゃんの加勢に向かうか?

 舌での攻撃にさえ注意すれば、出来ないことも無い! 気がする。

 あの龍、舌で攻撃する時に口開けて狙うから分かりやすいし。

 よし、そうしよう。


 そう思った次の瞬間。

 龍は伸ばした舌を引っ込めた。

 何故か、盾は舌にくっ付いて剥がれなくて、

 僕は舌と一緒に龍の口へ一直線に引き込まれる。


「うわぁぁぁ」


 一瞬にして当たりが真っ暗になった。

 まさか……僕は食べられたのか!?


---


 何も見えない。

 腰に掛けていたカンテラが無くなってる、いつ落としたか分からない。

 暗闇だ。

 間違いなく食われた。

 でも僕はまだごっくんされていないと思う。

 だって今僕が手を付いてる場所が柔らかいからだ。

 多分ここは舌の上だ。

 とりあえず舌に剣を突き刺し、痛みで吐き出さられるかもと思ったが、そんなことは起こらなかった。


 さて、どうしたものか。

 何も見えないのに歩き回ったら、胃袋の方に落っこちそうで怖い。

 灯りが欲しいな。

 灯りさえあれば、まだどうにか突破口を見つけられそうなのに……。


「おお!」


 僕の願いに応えるかのように、僕の盾が輝き始めた。

 前もこんな事あった気がする。

 確かその時も僕は灯りが欲しかったんだっけか。

 偶然とは思えない。

 もしや僕の盾に魂が宿ったのか?

 手入れとか凄く丁寧にしてたけど。

 でもお坊さんは凄く長い月日を共にする必要があるって言ってたような……。

 そんなに長く使ってたかな。

 指を折り曲げながら数える。

 確か春の頃に手に入れて、春、夏、秋、冬、えーとまた冬経って、今春だよな。

 (ヤタくん)は1歳って事か。

 まだまだ赤ちゃんじゃん。

 いやまぁ、作られたのは僕が手に入れる前だから1歳じゃないんだろうけど。


 ふーん。

 盾を何度も裏表と返してまじまじと見る。

 表側眩し過ぎだろ!

 瞼閉じたら瞼の血管が見えるぞ。

 目瞑って太陽見た時と一緒じゃんか。

 まぁ、よく分かんないけど、ラッキーだ。

 灯りが手に入った。

 

 やはりここは口の中だった。

 盾を向けて照らし、辺りを見回す。

 都合よく龍の口に穴など空いて無かった。

 

 今思いつく脱出方法は喉の方に行って、鼻の穴からの脱出だ。

 僕は食べた米が鼻から出た事があるから知ってるが、人は口と鼻が繋がっている。

 問題は龍の口と鼻が繋がってるのか分からんって1点だけだ。

 鼻に向かう途中、ミスったら胃袋に落ちそうだな。

 この案は少し厳しいか。

 やはり口から出ることを考えよう。

 もう一度口の中を調べる。

 すると1箇所、歯と歯の間に噛みちぎられた人の足が挟まっていた。

 おえ、凄く生臭い。

 

 そこで僕はある事に気が付いた。

 人の足を挟んでいる両方の歯の根元が黒い。

 剣でつついてみると柔らかい。

 こいつ、まさか虫歯なのか!

 へー、龍って虫歯になるんだ。


 舌を斬っても刺しても痛がらなかったから、効くか分からないけど。

 剣で虫歯のところを刺す。


 何も起こらない。

 やはりダメかと諦めかけた瞬間。

 身体のバランスが崩れそうになるほど揺れた。

 コケないように剣を歯により深く刺し、強く握りしめる。


「うわぁぁぁ!」

 

 今度は身体が宙に浮いたり、逆さまになったり、揺れが激しくなった。

 もしかして龍が痛みに耐えかねて、のたうち回ってるのかもしれない。

 ドゴン! ドゴン! とぶつかる音が聞こえる。

 

「ギュルルルル!」

 

 とうとう龍が鳴いて、口が開かれる。

 今だ!

 剣を抜いて、龍の口から飛び出る。


 あら?

 僕は地面に転がり出ると思ったが、その地面は遥か下にあった。

 あれ? 曇ってこんな近かったっけ。


 なるほど、理解した。

 龍はのたうち回って洞窟を突き破り地上に出たんだ、そしてさらに羽ばたいてこんな空高くまで来たという事か。

 状況を理解したのはいいが、

 僕は空中で龍の口から身投げしたってことだよな!

 ま、まずい!

 

 空中でバランスを取り、地面に背を向ける。

 蔓延る木の枝を折りながら、地面に落ちる前に森を通過する。

 そして地面へ。

 歯を食いしばる。


「ええええ!」


 ドンっと身体に衝撃が走った。

 地面にぶち当たったのに思いのほか痛くなかった。

 ていうか地面にぶつかる瞬間、なんか声が聞こえた気がする。

 それになんか地面が柔らかいぞ。


「なんなの」


 起き上がり、先程まで寝転がってた場所見る。

 チカセが下敷きになっていた。


「チカセ!? 大丈夫?」

「ううう、大丈夫じゃないよ。

 なんか地面割れて変なの出てきたと思ったら、イサミが空から降ってくるんだよ?

 受け止めるしかないじゃん」

「チカセ僕を受け止めたの!? すご、ありがとう、助かった!」


 チカセに肩を貸す。


 そんな僕達の前に土煙を撒き散らしながら、勢いよく飛び降りてくるバケモノがいた。

 龍だ。

 唸りながら、僕とチカセを見つめる。

 虫歯が相当痛かったのか、お怒りだ。


 龍に見つめられて、チカセが僕の肩から離れた。


「もう大丈夫?」

「もっと肩貸してほしいけど、そんな場合じゃないでしょ、なにアレ」

「龍だ! 倒す! チカセの力が必要だ!」

「まってまって、ええええ」

 

 チカセは慌ててるように言うけれど、既に剣を構えている。

 戦いは避けられないと、兵士の勘か、それとも山育ちで培った狩人の勘がチカセにそう告げていた。


 コイツを倒して、ドンちゃんの加勢に速く行かなくては。

 でも適当にやって勝てる相手じゃない。

 焦らず、丁寧にやる必要がある。

 チカセもいる。

 ここからだ! 2回戦と行こうか!

 

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