第四話「嵐」
あれは形容しがたい。
単身で突っ込んで行った。
当然ながら囲まれていた、だかそんな事いとのしない。
あの王は槍を引き抜いてから、回転しながら槍の柄で、斬りかかって来た者の顔を吹っ飛ばし、流れるように次の相手の喉を裂く。
そこからは、よく分からなかった。
ありえない体勢から攻撃に転じたり、
見えるはずも無い攻撃を躱したり。
僕はただ、見ていた。
いや、見惚れていた。
そして、命の終わりを感じた。
次は僕たちの番だろう。
王は賊を一掃した後、振り返る。
その際、初めて僕の存在を認識したのか、
一瞬目が合ったが、最初から興味など無いようで、
すぐに目線を臣下達に向けた。
そして臣下達に指示を飛ばす。
「乗り換え用の馬は見つかったか!?」
「いえ、まだ使いの者が戻って参りませぬ」
全身甲冑を身に着けて、顔は分からないが、多分女の人であろろう者が、
王に踏み台のように蹴飛ばされた馬の手網を手渡しながらそう言った。
「見つからないならいい、呼び戻せ! このまま王都に行く」
「待ったぁ!!」
待ったをかけた声は、僕達が逃げようとしていた方、東側から聞こえた。
20数人の灰色の革鎧を身に着けて、馬に乗っている者達。
その内の1人が旗を掲げた。
旗には珊瑚の紋章が描かれている。
枝の先端だけが金色で、枝の先から根元になるにつれ、薄い赤色から赤黒い色になってる珊瑚。
国の長い繁栄と輝きを願われて描かれた紋章。
その紋章は僕達、カラカティッツァの民に安心をもたらしてくれる。
旗を見たのか、鎧を見たのか、
村の住人を乗せた数台の馬車から、次々に安堵の声が聞こえ始めた。
対して、ウルスの王の色は無だが、
臣下達の何人かは難色を示している。
先頭にいる、鎧に赤色の珊瑚の紋章が描かれている者が、兜を脱ぎ始めた。
兜の下から出てきたのは、
薄い紺色の髪をした女性の不敵な笑みだ。
「ウルスの王とお見受けする! 手合わせ願いたい!」
「…………」
すぐさま戦闘が始まるかと思われたが、始まらない。
両者動かない。
なんなら王は、眉ひとつ動いてない
そんな王に1人の臣下が近寄って行った。
「陛下、後詰めがいるでしょうが。陛下の一声があれば、後詰め諸共やれましょう」
どうやら臣下たちは戦いたいらしい。
ひと時が流れ、臣下達は王の声を待つ。
だか、王は臣下達が期待する言葉は言わなかった。
「引き時だな……赤色がここに現れたという事は、策略が読まれていると考えるべきだ。
後詰を突破したとて、そのあと対応されるだろう」
「御意」
王達は来た道を引き返そうとする。
だが1人、それを止めようとする者がいた。
紺色の髪を持つ女だ。
「おや? 手合わせしてくれないのか、逃げるのかい?」
僕はギョッとした。
とんでもない怖いもの知らずだと。
嵐が去ったと思ったら、戻ってきた感じだ。
「……俺は王だからな」
?
王だから、騎士や侍みたく、一騎討ちの決闘を挑まれたら受ける、みたいな事はしないという意味か?
その言葉の意味を僕は分からなかったが、挑発には乗らないようだ。
そして都合良く、馬を探しに行ってた者も合流したらしい。
『遅かったな』、『ちょっと邪魔が入った』と、言葉が微かに聞こえたから分かった。
そうして王達は踵を返し、去っていった。
どっと力が抜けて、尻もちをつく。
まだ日が沈んでいないのに、今にも倒れて、寝てしまいそうだ。
「ごわがっだ」
ハルが僕の腹に倒れ込んできた。
そんでまた泣いてしまった。
僕はハルの頭を撫でながら思う。
兄ちゃんも怖くて泣きそうだよ、と。
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しばらくして
母ちゃん、父ちゃん、じいちゃんは無事だろうかと心配になり、僕は探しに行こうと立ち上がろうとした。
でも、まだ命がある事を思い出したのか、また足が震えて、うまく立てなかった。