第三十六話「汽水」
仲間達との再会。
本来なら心が安らぐものだが、緊張する。
「あ? イサミやないか!」
「無事だったか!」
ケンセイとタロウ小団長は笑顔に変わった。
チカセは一瞬瞼を閉じて胸に手を当ててホットしているように見えた。
「拠点がバレた際にウルスに捕らえられたんか?
混乱に乗じて逃げ出したってとこか?」
「全然違うけど、大体そう!」
「よう拷問に耐えたな、俺ら作戦中や、お前もーー」
「待て!」
ケンセイの言葉に割って入ったのはキヨマルだった。
「その前に、イサミの後ろにいる人達は誰です?」
そう言われて一瞬僕は後ろを振り返る。
エビ爺さんは慌てる様子もなく、鋭い目つきをしていた。
僕の事情はもう察してるかも知れないな。
グリリはハマの後ろに隠れているから分からないが、ハマは怯えていた。それでもその目には、いざとなったら自分がグリリを守るんだという力強さも垣間見えた。
「彼らは僕を助けてくれた人達だ、だからここから逃がしてやりたい!」
「……それは出来ません、私達は1人たりとも逃すなと命を受けています」
「彼らは戦えない民なんだ!」
「ここにいるのは兵士か罪人だけと聞いています、その者達が兵でないなら、罪人なのでしょう?」
だめだ、キヨマルの考えを改されるなんてできそうにない。
「タロウ小団長!」
ならばと、僕はタロウ小団長の言葉を求めた。
優しいタロウ小団長ならば、許してくれると期待する。
許しが出れば、キヨマルもそれ以上口を出す事は無いはずだ。
「……儂も心苦しい。イサミが助けたいと思う彼らだ、きっと気心が知れた者たちであろう。
だが! ならぬ」
「そんな……」
カラカティッツァで小団長を務めた人だ、規律を守らないわけも無いか。
ふと右腕を誰かに掴まれた。
振り返るとエビ爺さんだった。
「小僧はバレナの者だったのだな」
「隠しててごめん」
「謝る事は無い、だが……1つだけ頼みがある。
ワシはどうなってもよい、ハマとグリリだけは逃がしてやってくれないか、頼む!」
無いな、1番無い。
「いーや! エビ爺さんも逃がす! 僕が彼らの相手をする、その隙にハマとグリリを連れて逃げてくれ」
「……仲間なのだろう?」
「あぁ、でも君たちを見捨てるなんて事はしない」
「恩に着る」
「恩を返すだけさ」
直ぐにエビ爺さんはハマとグリリに言葉をかけ始める、これから何をするか話してるのだろう。
僕も自分の事に集中しよう。
今まで地面に向けていた剣先を上げる。
「よせ、イサミ! お、おい! キヨマルも剣を向けんなや!」
「団長ー! どうするの?!」
ケンセイとチカセが慌てる横で、アンネは全く関心が無いようで、他を見ている。
タロウ小団長は唸りながら首を捻るが、直ぐに決断を出した。
「イサミは取り押さえる! ……後ろの者どもは切り捨てろ」
「はい」
「……くそっ」
「……」
僕1人で5人抑えなくちゃならない。
そんじゃそこらの兵士じゃないぞ。
歴戦のタロウ小団長は言わずもがな、で、
アンネとキヨマルの剣には追いつけるかどうかだし、ケンセイの力技で盾を崩されそうだ。
唯一チカセには勝てるかもしれないな、この広く平地で1対1だったらな。
彼らと最後に手合わせしたのはいつだったか。
たしか、ケンセイとチカセとはいい勝負をしていたが、キヨマルにはボロ負けだったな。
そんな僕に出来るのか?
……やるんだ。
エビ爺さんも、ハマも、グリリも、逃してみせる!
行くぞ!!
「すぅー」
構えながら小さく息を吸う。
1番前にるキヨマルも構えを取った。
腰の剣を抜かずにこちらを伺っている。
あれは居合の構えって奴だ。
剣の速さに秀でた者達が好んで使う、なんせ、左の腰から剣を抜くのが分かってるんだから軌道が分かる、遅かったら簡単に避けられるか、受け流されてしまう。
キヨマルの剣はタロウ小団長が自分よりも速いと言う程だ。
しかも、居合は相手が間合いに入ったら剣を放つのが定石だが、キヨマルは構えを取りながら飛び込んで来る。
無理やり間合いに入れるんだ。
なんと恐ろしいことか。
「フッ!」
僕は細く息を吐き、前に跳びだす。
今まで、手合わせでキヨマルから仕掛けた時は全部一太刀目で負けている。
多分、キヨマルは必殺の一撃が決まる確信があるから飛び込んでる気がする。
何をもって飛びこむって決めてるのか分からないけど、キヨマルが先に仕掛けたら僕は負ける。
そう思い身体動いた。
盾で身を隠し、右手の剣の腹を肩までもって行きながら距離を詰める。
だけれども、剣は振らない。
僕から攻撃する振りを見せるが、先にキヨマルに剣を振らせる。
それを盾で防ぎ、がら空きになった所に剣を叩き込む。
これで居合は封じたと思えたが、キヨマルは1歩飛び退いた。
読まれた?
着地は同じ瞬間か、でもキヨマルはまだ居合の構えを崩していない!
そして着地と同時に僕に向かって飛び込んで来る。
僕のやや左前、盾を薙ぎ払えば届く距離。
キヨマルはまだ剣を放っていない。
行ける!
「ッ!!」
すぐに盾を振り払うように右から左へ叩きつける。
おかしい。
剣で受け流される感触も、人にぶち当たる感触も、音もしない。
聞こえてきたのはブゥンーー、っと盾が鈍い音を立てながら空を切った音だった。
なら、キヨマルは? と思ったが、キヨマルはまだ僕視界に写っていた。
左斜め前から、真正面に位置が変わっている。
あそこから、さらに右にステップしたのか。
僕の盾のなぎ払いを誘ったのか!?
僕がちゃんと顔を向けてキヨマルを捉えた時には、キヨマルの腰からギラついた刃が鞘から抜かれる。
僕は咄嗟に右脚を突き出す。
膝蹴りを入れる感じで。
もちろんキヨマルには届かない。
でも、剣の軌道上に割り込めた。
「い゛っ!」
「……!」
キヨマルの剣の根元当たりが僕の脛にくい込む。
が、斬り飛ばせない。
まだ最高速度に乗る前だからだ。
いや、最高速度にならずとも、もう少し速度か、間か、剣先だったのなら僕は右足とお別れだっただろう。
「はぁっ!」
右脚を着地させながら、僕は右肩から剣を振り放つ。
剣はキヨマルの首元に直撃する。
キヨマルは剣を手放し、左手で首元を押さえるがつかの間。
膝から崩れ落ちるように倒れていった。
息を整えながら脛にくい込んだキヨマルの剣を抜く。
痛え!
思ってたより斬られてる、あと半分ぐらいでふくらはぎも斬られていた。
あんな剣を振り抜くことも満足にできなかったのに、なんて速い剣なんだ。
「……はぁはぁ」
とはいえ、キヨマルに勝った!
まずは1人だ。




