第三十四話「牢」
牢屋生活1日目。
僕が入れられた部屋には既に囚人が1人いた。
老齢でガリガリな男だ。
目を瞑って、脚を組んでいた彼だが。
僕が入って来ると、片目を開けて見てくる。
そして言った。
「若造が何をしでかしたのだ?」
「人のチンチンを揉んだ」
「ほう……お主があの有名な玉狩りか」
「? 違う違う、爺さん僕はわざと捕まるためやったんだ」
「なにゆえ?」
「僕の恩人がここに捕まってるかも知れない、助け出したいんだ」
「……ワシは長いことココにおる、名が分かればいるかどうかぐらい知れる」
「名はコトノ、僕とそう変わらない齢の女の子だ」
「ふむ、知っておる」
「ほんとか!?」
「あぁ、だが……」
「なんだ」
「先日、脱獄した」
「え! そうなのか、そりゃ良かった」
「無駄骨だったな」
「いや、それが分かっただけで来た甲斐があったよ!」
「若造、名はなんだ?」
「イサミ……爺さんは?」
「ワシはエビ、さっそくここでの過ごし方を教えよう」
最初は怖そうに見えたけど、気の良さそうな爺さんだ。
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牢屋生活2日目。
エビ爺さんから色々教わった。
ここの監獄では、ご飯は朝晩の2回。
基本的に白米と漬物、たまに果物がつく時もあるらしい。
今日は白米とたくあんだけだった。
朝食後は労働を強いられる。
今までは鉱山を掘ってたらしいが。
この都市は今、街から都市へと発展してる最中らしく、どんどんと新しい建物が建てられている。
僕達はこき使っていい労働力になる。
そんな訳で、手枷を付けられて外に出る、
まだ完成してない大きな建物まで連れてこられた。
「お前はここの班だ、アイツらのとこに行け」
「はい」
看守が指さしたのは、木の柱を運んでいる2人組だ。
彼らの歩は遅く、とても苦しそうだ。
なんせ、2人で運べるような大きさじゃない木材を担いでいる。
僕はすぐさま駆け寄り、両端を担いでいた彼らの間に入った。
運び終わると、1人が額の汗を拭いながら言った。
「あ、どうも、ボク達だけじゃ倒れる所だっだよ」
「少しは力になれたかな」
「少す所でねよ、君凄い力持ちだね!」
僕が力持ち? 初めて言われた。
嬉しくて笑顔になってしまう。
「えへへ、ありがとう。
僕はイサミ、君たちは?」
「ボクはハマ、こっちはグリリ」
「よ、よろしくです」
「よろしく!」
ハマは僕よりも身体が大きい、でもまんまるとしていて、貴族にいそうな感じだ。
グリリは小さい女の子だ。幼く見える、高さも僕の腰あたりしかない。
先程、よく2人だけで木材を運んでいたな。
「次は何を運べばいいんだ?」
「次はーー」
数刻経った頃。
運搬が終わり、次はノコギリで木を切れと、大工の人に言われた。
大工の人はおっかなく、言われた通りに切れなかった人を片っ端から殴っていた。
僕は器用じゃないから心配だ。
ノコギリをギコギコとさせている最中、
ハマとグリリに気になった事を聞いた。
「この班って2人だけなの? 大変じゃない?」
「ついこの間まではもう1人いだんだ、だどもある日、突然いなくなってしまっただ」
ふーん、と、思っていたら、急に雲行きが怪しくなったかのように、グリリが涙ぐんでしまった。
そして、ポツりと言った。
「コトノお姉ちゃん……」
「コトノお姉ちゃん?」
僕はグリリの言葉を小さく繰り返して、聞き間違えでない事を確信する。
その後、僕はハマとグリリと色々話した。
ハマとグリリの事は分かったけど、コトノの事は結局、ある日突然消えたのと、仲良くしてた以外、分からなかった。
エビ爺さんはコトノは脱獄したと言っていて、ハマはある日突然消えたと言う。
ハマはコトノが脱獄した事を知らないって事かな。
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牢屋生活3日目。
この日は雨で、監獄の部屋で手作業を強いられた。
手のひらより少し大きい木箱に、何枚もの紙を折り重ねて入れていく作業だ。
入れ終わったら、木の槌を用意し、槌の両端にくっつけるのだ。
それで出来上がり。
これをバトリオットと言うらしいのだが、何に使うのか、どうやって使うのか分からない。
気になって、一緒に作っていたエビ爺さんにも聞いたが、分からんって言われた。
バトリオットって一体何なんだ。
だから、エビ爺さんは何で捕まったのかを聞いた。
すると、教えてくれた。
エビ爺さんは孫がいると、そしてその孫は大変可愛い、よちよち歩くのが可愛い、
じぃじと喋った時は気絶するかと思ったぐらい可愛いなど、永遠と孫の話をしだした。
だが急に悲しとも、怒りに満ちているとも思える表情をして言った。
ある日、可愛い孫が殺されたと、
もちろん、孫を殺した犯人は殺してやった。
さらには、犯人の腹を両手でかっ捌いて放り投げたと。
この話を聞いて僕は、身内が殺されたから犯人を殺し返した、それは普通の事でどこに牢に入れられる理由があるのか聞くと。
犯人の臓物が貴族の庭に入ってしまったと言われて納得した。
あぁ、それは確かにダメだ。
よく牢に入れられるだけで終わったな。
何されるか分かったもんじゃない。
あ、そう言えば、牢に入れられるで思い出した、
ハマとグリリがどうして捕まったか。
彼らはこの都市で、食べ物を盗んだらしい、それがバレて牢に入れられたんだと。
僕の村ではモノを盗んだら、皆から手を叩かれて終わりだから、いまいちよく分からなかった。
盗みは都市だと捕まるのか。
こんな簡単に牢に入れるなら、僕は人のチンチンなんて揉みたく無かったよ。
まったく!
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牢屋生活4日目
今朝、看守から僕は1季刑と言われた。
春が終わると牢から解放される。
長いなー。
もうここにいる意味も無いし。
僕もコトノ見たく脱獄しようかな。
没収された剣と盾のありかは目星がついている。
囚人から没収した物を置く部屋があると、その部屋がどこにあるかも、エビ爺さんから教えて貰った。
労働時間に抜け出して、取りに行く。
……できる気がする。
あとはいつ決行するかだなと、思っていたら。
監獄内に鐘の音が響く。
ん? 鐘の音は外から聞こえて来てる。
都市のあちこちで鳴り響いてるような。
こういう鐘の音は一大事の時に鳴る警鐘だ。
大規模な火災か、地震か。
もしくは戦だ。
僕はバレナがこの都市の近くに拠点を構えたのを知っている。
攻めに来たとしか思えない。
これは脱獄のチャンスかもしれない。




