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勇者  作者: 海目 愚丸
なんやかんや
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第三十二話「無常」

 季節は巡り。

 秋、冬が過ぎ去って、春を迎えた。


 僕達第3小団は相変わらず、護衛の任でバレナとブラウニス城塞を行ったり来たりとしている。

 もう護衛部隊は名ばかりで、僕達が補給部隊そのものだ。


 たまに、ウルスの別の領土だったりもする。

 そこでも、コトノとトラジロウは見つからなかった。


 道中戦闘になる事は多々あった。

 ほとんどがウルス兵との戦闘で、数回は賊だった。

 その中で僕は1度たりとも敵の命を奪わなかった。

 奪わなかったが……、僕が敵を気絶させても、最後には誰かが殺すのだ。


 キヨマルとアンネは言うまでもなく。

 ケンセイは『俺が殺す』って宣言してから止めを刺す。

 何故宣言してるかは分からない。

 チカセは……、チカセは止めを刺さないな。

 もちろん、チカセ自身が相対した敵は容赦なく首を刎ねてるけど、僕が倒した敵は見向きもしないな。


 


 なんだろう、悲しーーくは無いけど、やるせないって気持ちになる。

 別に皆にも同じようにして欲しい訳じゃない。

 皆が僕と同じ考えで戦って命を落とすような事になったら、悲しいを通り越して耐えられない。

 でも、せっかく命を奪わず敵を倒しても、殺されてしまう。

 それがずっと続いているからか、僕は何をやっているのだろうと思うようになって来た。

 『それには意味があるのですか?』ってキヨマルの言葉が、敵を倒す度に頭をよぎる。

 さっさと首を刎ねてれば無駄な労力も使わないし、いちいち悩む必要もない。

 その方が楽じゃないか………。


「イサミ、そんなに俯いて、どこか具合悪いの?」


 隣を歩いていたチカセが僕を覗き込む。

 

 話しかけられて、考えていた事がどこかに行く。

 ちょうど良かったかな、あれ以上考えてたら頭がおかしくなってた。


「ううん、ちょっと考え事してただけ」

「ならいいけど、気を抜かないでね、ここはウルス領内なんだから」

「うん!」


 そういえばそうだ、今は任務の最中だ。

 初めて行くアヌルス領にある拠点。

 なんでもそこにある都市ルナ。

 そこを落とそうと、バレナは大規模な攻撃を仕掛けるらしい。


 ブラウニス城塞と違って、拠点周りの状況も、道も良く分からない。

 呑気に考え事してる場合じゃ無かったな。

 気を引き締めよう。

 

---


 数日後、夜間の移動中。

 またもや襲撃を受けた。


 月明かりだけが頼りの暗闇の中、

 周囲から無数の矢が飛んできた。

 だが、矢に射抜かれた者は1人だけだ。

 

 矢で死んだ者は警戒を怠ったのか、それとも寝ぼけてたのか、数日前の僕ならば、ああなってたかも知れないな。


 ともあれ、ぞろぞろと姿を現した敵に剣を向ける。

 革鎧にウルスの紋章が見える。

 都市ルナにだいぶ近づいてるからな、明かりは付けてないが、あっさり見つかってしまったな。

 人数も多く、僕達を囲んでいる。

 偵察部隊じゃ無さそうだ。

 

 今にも飛びかかって来そうな敵達の威圧感、そしてこの不利な状況に場の空気が呑まれてしまった。

 完全に皆の士気が下がってる。


 そんな中、一際大きい怒号を上げながら真っ先に敵陣に突っ込んで行く男がいた。

 あれはタロウ小団長だ!

 そうだ、いつもそうだ。

 タロウ小団長はどんな時も、最初に切り込むんだ。

 その背中を見て勇気が湧く。

 味方全員もそうなのだろう。

 誰もが怒号を上げてタロウ小団長に続く。

 僕もだ。


「はぁああああああ!」


 敵陣に駆け込み、剣を振り下ろした。




 剣と剣がぶつかり合い、

 カキーンっと甲高い音が響く。

 

 僕の剣を受け止めたのは顔を覆う兜をつけた兵士だ。

 直後、彼は僕の剣を力で押し返してから、

反撃の一撃を入れようとして来た。


 僕は押し返されて、踏み込んだ脚を引っ込めるほか無かった。

 だが体勢を崩れるほどでも無く、反撃を盾で防ぐのに支障は無い。


 またも甲高い音が響く。


 良し。

 上手く防げた。

 次は僕の番だ。


「!」


 僕は剣を振る最中、視界右端に剣が映り込む。

 別の敵兵だ!

 

 盾は兜兵の剣を受け止めている。

 2人目の剣を防ぐのには使えない。

 避けるしかない。

 直ぐに剣を振ることを止める。


 剣の軌道は水平に僕の首に向かっている。

 それに合わせて、僕は左に上半身を傾ける。

 そのまま手を使わず側転し、横に飛び退いた。

 

 危なかった!

 でも、剣は躱すことが出来たし、追撃が来ないって事は2人の間合い外まで退く事もできた。

 防戦ならやれる!

 問題は攻めだ。

 2人を相手にどこまでできるか。

 

 兜を着けてる兵士、兜だけじゃ無い、身体に金属の鎧を身に着けている……珍しいな……先程の手応え的にも強そうだ。

 兜を着けて無い方、普通のヤツた。1対1なら負けない気がする。


 倒すのは普通の方からにしよう。

 まず兜ありの方に仕掛ける、そしたらカバーするため普通のヤツが出てくるはず。

 そこを仕留める。

 良し! 決まりだ。

 

 戦いの組み立てを済ませ、いざ行くぞって時だった。


 既に右手に剣を持っていたのに、兜を着けた兵士が左手で腰の剣を引き抜いた。

 両手に1本ずつ剣を握りしめている。


 初めて見る構えだ。

 ヤダなー。

 初見の武器や戦い方をする奴は苦手だ。

 嫌な記憶が蘇ってしまう。

 少しばかり足がすくむ。

 それでも、僕は飛び出した。

 

 兜の兵士に向かって真っ直ぐに駆ける。

 そしてある瞬間、右脚に一気に力を込めて地面を一蹴りする。

 一瞬にして兜の兵士の目の前まで跳び、剣を振り下ろす。


ギャキン!


 剣1本で受け止められたが、そのまま剣を振り切る。

 兜兵はズザーっと滑り、後ろに退けた。


 ダメージにもならないが、これでいい。

 僕の攻撃の直後に、普通の兵士が斬り掛かって来ている。

 兜兵はかなり距離がある。

 今この瞬間は普通の兵士と1対1だ。

 

「フン!」


 盾で普通の兵士の剣を弾く。

 ガゴン! っと鈍い音が鳴る。


 この音は好きだ。

 この音がなった時、相手は体勢が崩れ、勝ったも同然だからだ。

 なのに僕は今、おかしな状況を目にしている。


 体勢が崩れた普通の兵士の背後から、剣がぬるりと突き出されて来る。

 なんでだと思い、見ると、普通の兵士の背後に兜兵がいた。


嘘だろ!? 戻ってくるの速すぎだろ!


 普通の兵士の首すれすれに突き出された剣に、僕の剣を当てて軌道をズラす。

 

「いっ!」


 左頬と耳に痛みが走る。

 思わず左瞼を閉じてしまうが、ちゃんと右目で相手を捉えている。

 兜兵の攻撃は終わってい!


 兜兵は普通の兵士を横に押しどかし、前に出て来る、そして今度は右手の剣を振り下ろそうとしていた。


 僕の左側からの攻撃で良かった。

 右側だったら盾を届かせるのに少し遅れるから。


 バコンっと音を立てながら、僕は吹っ飛ばされた。


 木の根が地面にまで盛り上がってる、凸凹な地面をゴロゴロと転がる。

 

 転がり終えてすぐさま立ち上がる。


 剣を掲げるようにして転がったから、剣を落とさなかったし、刃が自分に向くのを防いだけど。

 凸凹の地面を転がるのはとてつもなく痛かった、木の根固すぎ。

 あちこち打撲したかも知れない。

 ジンジンする。


「ふぅー、ふぅー」


 木の影にでも隠れようかと思ったが、

 目の前には既に兜兵がいた。

 普通の兵士も彼の後ろに見える。

 まだ離れているがこちらに走って来ている。

 

 味方を待たず、兜兵は僕に向かって真っ直ぐ跳んで来た。

 歯を食いしばり、盾と剣を使い3度攻撃を受け流すも、4度目は盾で後ろに大きく吹っ飛ばされる。


 1度地面を転がり、身体を捻って跳ね起きる。

 だが着地した先に普通の兵士がいた。


 狙ってここに吹っ飛ばしたのか!?


 既に普通の兵士は剣を振り下ろす動作に入っていた。

 僕は盾で防ごうと思い、構えに入る。

 でもここで見えてしまう、普通の兵士の直ぐ後ろまで兜兵が跳んで来ているのが。


 それを機に首元の傷の痛みが激しく主張する。

 盾で普通の兵士の剣を防いで、剣で兜兵の剣を防ぐ。

 先程は何とか出来た。

 でも今度は……。

 頭の中でやり遂げてる自分の姿が浮かばない。

 

 瞬間、僕の身体は僕の意に反する動きをする。

 盾が引っ込められ、剣が前に出る。

 その剣は、普通の兵士の首に右から入り込み、左へ抜けて行く。


 普通の兵士は喉から血を撒き散らしながら、力が抜けてく感じで前に倒れる。

 それによって、僕の前に出来たスペースに踏み込み、盾をぐっと前に出し。

 瞬きほど遅れてきた兜兵の突きを、完璧に弾き返した。

 

 兜兵は弾き返された反動で後ろへと飛び退く。

 

「イサミ! 無事?」


 振り返るとチカセがいた。


「う、うん」

「あとアイツだけね?」


 そう言いながら、チカセは僕の横まで来て兜兵には剣を向けた。


 対して兜兵は剣を2本とも鞘に戻し、僕達を見たまま後ろに下がり、茂みの中に身を隠した。


 あの感じは……撤退か?

 追って森の中から探し出すのは難しいだろう。


「1人逃したか」


 またもや後ろから声がした。

 今度はタロウ小団長だった。

 

「儂があともう少し、若かったら間に合ってたのう」


 タロウ小団長は惜しそうに、渋い顔をした。

 そして、続けて言った。


「しかしイサミ、1人仕留めたのか、良くやった!」


 僕は返事をしなかった。


 僕は左後方に倒れている人を見る。

 僕が殺した人だ。


 僕は自分の剣を見る。

 鮮やかな赤が彩っている。


 いつの間にか鋭い刃の方を使っていた。

 多分、吹っ飛ばされて転がった時だ。

 固く握りしめていたつもりだったが、くるっと回っちゃって、刃の向きが変わってしまったのだろう。

 

 いや、そんな事はどうでもいい。

 

 僕は命惜しさに自分で決めた事を破り、人の命を奪う酷いヤツだった。




 赤く彩られた僕の剣には、クソ野郎の顔が映っていた。


 

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