第二十八話「侍」の続きの続き
侍の登場により、明らかにまだら男の雰囲気が変わった。
目の前の男が何者か分かっているようだ。
彼は真剣な顔付きになり、とうに笑みは消えていた。
対して、ゲドウマル様はズカズカと早歩きでまだら男へと向かって行く。
「殿下! 彼らは差しの最中ですぞ!」
周りのバレナ兵から、侍の歩みに待ったを掛ける声が上がった。
「一騎討ちの作法など知らん」
ゲドウマル様は一蹴してしまった。
誰もが口を噤む。
侍どころか、戦に身を置く者の言葉とは思えない。
少し意外に思うも、
僕としては助かったし、有難い。
大人しく、動かない右肩を左手で抱き締めながら、彼らの戦いを見る。
ある程度ゲドウマル様は相手に近づくと、腰を落として駆け出した。
左腰にさしている刀に手を添えて、抜き放つ寸前の構えで突っ込んでく。
僕が目を細めて少々仰け反る程に、後方に離れていた僕にまで煽り風が届く。
まだら男は迎え撃とうと、腰を落とし、僕にしていた構えをとった。
あれは飛ぶ斬撃を繰り出す気だ!
剣を振るう腕がうねった。
だが僕に放った斬撃とは違う。
それは速さも、鋭さも、圧倒的に質が違った。
しかも、空を歪めながら飛ぶ斬撃が3つ見える。
もし僕に放たれていたら、為す術なくやられていただろう。
やはり、まだら男は僕相手にちゃんと戦っていなかったのか。
悔しくも思ったが、それ以上に胸がほっとした。
そんな僕には勝ち目のない斬撃を放たれても、ゲドウマル様はまっすぐ突っ込んでいく。
1つ目を身体を傾けて躱し、
2つ目を抜刀時の柄の先端で弾き、
3つ目を刀を振り下ろし断ち切る、
その頃には、ゲドウマル様は既にまだら男を間合い内に捉えていた。
透かさず剣を振ること3度目、僕の少し前に剣を握りしめたままの右腕が落ちてきた。
まだら男の右腕であった。
「これだから化け物を相手にするのは、あぁもう嫌だやだ」
腕を切り落とされたというのに、まだら男は痛がる素振りも見せない。
「ほれ撤収よ!」
すぐにそう言うと、
僕の目の前を全身黒ずくめの男が横切る。
なんだと思ったら、敵兵の1人が切り落とされた腕を拾って行ったらしい。
そしてそのまま、ぞろぞろと撤退していくバレナ兵に紛れ込んだ。
いつの間にか、まだら男の姿も見えなくなっていた。
ゲドウマル様から追撃の指示は無い。
とりあえず終わったでいいのか。
「イサミ! 何その傷!」
振り向くとチカセが走って来ていた。
その後方に小団の面々もいる。
「ボコボコにされちゃった」
「そんな優しいもんじゃ無いでしょ!」
チカセは自分の腰についてるポーチから包帯を取り出して、僕の右肩を胴体にくっつけるようにグルグル巻にしてくれた。
「ありがとう、チカセは怪我は無い?」
「私は大丈夫」
「他の皆は?」
「皆大丈夫だから、自分の心配しなよ」
「チカセが手当してくれたんだ、治ったも同然だよ」
「そんな訳無いでしょ、はぁ」
ため息をつかれてしまった。
「立てる?」
「儂がやろう」
いつの間にかタロウ小団長がそばまで来ていた、すぐに僕を担ぎあげてから、ケンセイが連れていた馬に……シラホシじゃないか!
良かった、無事で。
僕は物干し竿に掛けられたタオル見たく、シラホシの背に掛けられた。
意外と辛いぞこの体勢。
そのまま城塞まで荷物見たく運ばれた。
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僕は傷が癒えるまで休めと言われて部屋に放り込まれ、早10日、今も布団の上である。
右肩がちゃんとくっ付くまで、固定する必要があり、僕は常に左肩を下にして横たわっている状態だ。
動けないと言うのは、あまりにも苦痛だ。
左足を前へ、後ろへ、何となく振っていた。
日によって生みだされた影の位置が変わるほど長く。
すると、布団と足が擦れる音が耳障りだと、アンネに『馬で轢き飛ばしますわよ!』と怒鳴られた。
無意識に足を動かしたものだから、自分では気が付かなかった。
ごめん!!
だから、そんな怖い顔で睨まないでと、
下半身を横向きのまま、上半身だけを捻って、うつ伏せにして謝った。
その最中、雑巾が絞られる時の気持はこうなのだろうかとも思ったが、決して口には出さなかった。
何とか許された。
ともあれ、この部屋は僕だけの部屋では無い事を思い出す。
第3小団の部屋である。
でも、僕以外の者はほとんどいない事の方が多い。
だから忘れていた。
先日ウルス兵を退けたが、未だここは敵地なのだから、呑気に身体を休める者はいない。
部屋で寝るのは数日に1度ぐらいだ。
彼らがちゃんと休めるよう気を付けようと思った。
数日どころか常に起きている者が、この城塞にはいる。
ゲドウマル様だ。
あのお侍様は太陽が登ろうが、沈もうが、常に何かしらしているらしい。
第3小団の皆と飛び出して、都市外で待機している部隊の加勢をしたあの日もそうだ。
後から聞いたのだが、
僕達が城塞を飛び出した直後、ウルス軍団が
城塞を囲うように来たそうだ。
そいつらは、僕達が都市外で待機してる味方の加勢を妨害するために、城塞に仕掛けたそうだ。
でもゲドウマル様が、城塞を囲うウルス兵を蹴散らし、その後で、都市外にいた僕達の加勢にも来たのだ。
凄い人だ。
そんな凄い人に、僕達第3小団の面々は讃えられた。
僕は怪我で部屋にずっといたから聞いてないけど、判断の速さや、対応力を褒められたとか。
そして、そんな僕達にゲドウマル様は任務を命じた。
内容は単純。
このブラウニス城塞からバレナの街までを
行ったり来たりする補給部隊の、護衛だ。
あと2日後に出発する、それまでに傷が癒えるだろうか。




