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勇者  作者: 海目 愚丸
なんやかんや
3/68

第三話「勇気」

 王が来た?

 どこの王?

 きっとこの国の王じゃないよな……戦に出た話なんて話は聞いた事ないし。


 ならば、来たのはウルスの王ってことで間違いないだろう。

 かの王は自ら戦場に赴くのか。

 討ち取られれば国が滅ぶというのに。


「兄ちゃーん!」


 振り返ると妹のハルが駆け寄ってきていた。

 顔を見ると、今にも泣きそうだ。

 

「兄ちゃーん! 浜辺で知らない人達に、アミちゃんとシゲルくんが斬られちゃった!」

「なに!」


 耳を疑った。

 もうウルスの兵がここまで来ているのか?

 いくらなんでも来るのが早すぎる。

 

 ハルの叫びを聞いて、周りは慌てふためく。

 家族を探しに行く人、逃げ惑う人。

 

 僕も急いでハルをおんぶする。

 肩がハルの涙と鼻水でベチャベチャになるが、気にしている余裕がない。


「逃げよう」


 咄嗟に敵が来た浜辺の反対へ、東に走り出す。

 村の人達も異変に気がついたのだろう。

 走っていると、槍や剣を手にした男共と多くすれ違った。

 しかし、後ろから聞こえて来るのは悲鳴ばかりだ。

 僕は振り返らず、顔を引きつりながらも真っ直ぐ走った。


---


 村の外に出ると。

 女子供を多く乗せた馬車が何台も停まっていた。その中に見知った顔が何人もいる。

 しかしながら、何故だか1台もこの場から去ろうとしない。


 見ると行手を阻むように、既に囲まれていたのだ。

 馬車を守ろうと立ち向かったであろう者は、

滅多刺しにされ、倒れているのがちらほらみえる。

 どうしよう……

 戻って助けを呼ぶか、間に合わないだろう。

 もう無理だ……。

 僕の心の底が分かったのか、僕の背中を掴んでいるハルの手にギュッと力が入るのを感じた。


 痛いのは嫌だ。


 でも! でも!!


 他のみんなが、ハルが痛い思いをするのを見るのは、もっと嫌だ!


 心に闘志が宿る。

 足の震えは収まらないが、きっと動く。


 背中からハルを降ろす。


「兄ちゃん?」


 僕は片膝をついて、ハルに対し面と向かう。

 とても不安そうな顔だ。

 待ってろ、兄ちゃんが今から安心させてやるからな。


「ハル、兄ちゃんは諦めたわけじゃない。

全員倒して見せるさ」

「うん……グズッ」


 ハルは涙を拭い、鼻をズズッと啜った。

 まるで今が正念場である事を理解しているのか、引き締めた顔をしている。

 肝が座った妹だ。


 覚悟を決め、敵兵へと向き直る。

 視線を右へ、左へとやり、確認する。

 およそ10数人はいる。

 

 1番手前にある馬車の中を覗き込み、下卑な笑みを浮かべる男。

 その足元に横たわってる、首のない人が握りしめている剣。

 せめてあの剣を取らなくちゃならない。


 その1歩を踏み出し、向かっていく。

 相変わらず、足の震えは止まらない。


 彼らは向かってくる僕を見て、

『サエモン、来てるぞ』、『大丈夫、大丈夫』と余裕なやり取りを見せている。


 油断している、行ける!

 そう思うと同時に前のめりに跳ぶ。

 地面スレスレを行き、両手を伸ばした。

 しかし、取れそうだと思った瞬間、強い衝撃が脇腹に起こる。

 

「ぐあっ!」


 右足で蹴飛ばされたのだとすぐに分かった。

 

「剣が目的なのは見え見えだっつーの」


 ケラケラと笑い声が聞こえる。

 それでも直ぐに立ち直り、

もう一度飛び込むタイミングを測る。

 そんな僕に敵は猶予をくれない。


「死んじまいな!」


 言葉と同時に袈裟斬りが放たれた。


 僕はそれを体勢を崩しながらも躱し、転がりながら剣に手を届かせた。

 たが、体勢を直すが遅かった。

 立ち上がって、相手を目で捉えた時には、

既に奴の剣は僕の首を目掛けて空を切っていた。


 あとは僕の首が落ちるだけだった。

 でも、そうはならなかった。


「ヴゥ!」


 灰色や黒色が混じったような塊が、奴の顔に飛んでいき、打ち付けられた。

 奴は目を瞑り、怯んだ。

 明らかな隙、僕はそれを見逃さない。


「イイィィィ」


 歯を食いしばり、両手で持った剣を力いっぱい、左肩辺りから右へ振り抜く。


 瞬間、剣が喉を切り裂いた、首は落ちなかったが、

行き良いよく血飛沫が上がった。


「ハァ……ハァ……」


 息をする事を今まで忘れていたのか、

口で大きく吸い込み、吐き出す。

 そして倒せたのだと実感する。

 

 なるほど、チラリとハルを見て分かったが、

さっき敵兵の顔に当たった塊はハルが投げた石だったのか。

 やってやったぞっと、誇らしげな顔をしている。

 まったく、最高の妹だよ!


 でもここからが窮地。

 さっきはコイツらが油断してたから、楽しんでいたから、1対1の勝負が出来た。

 もうそうはならないだろう、複数人で来るだろう。

 そんなことされたら一溜りもないよ。

 どうにか打開しなきゃ。


「まじかよ」


 相手集団からそんな言葉が聞こえてきた。

 僕にビビったのだろうか。

 ならこのまま引いて欲しいな。


 だがどうも、僕を見てるようでは無かった。

 僕の後ろを見てるような気がする。

 それを確かめるべく僕も後ろを見た。


 するとそこには、10数人の馬に乗っている集団がいた。

 よく見ると、馬が無い者もいる、

鎧を着けてる者、着けてない者、様々だった。

 ひとつだけ、全員に当てはまるとすれば、

歴戦を思わせる雰囲気を漂わせている。

 ハルも今気がついたようで、ギョッとしながら僕の方に逃げてきた。


 集団の先頭にいる、左手に手甲を着けてる男が口を開いた。


「その鎧、ウルスの兵だな。何故こんな所にいる?」


 馬車を取り囲んでいた連中の内、1人が答えた。


「そ、それはですね陛下! スクデ砦から飛脚が

出て行くのを見てんで、追いかけ無ければと思った次第で」


 陛下? こいつがウルスの王なのか!

 村を通って来たのか?

 前も後ろも、完全に塞がれた。

 絶望的だ。


 王は訝しげな顔で言い訳を聞いていた。


「貴様、さては盗賊の類だな?

戦の最中にどさくさに紛れて抜け出し、潜んでいた仲間と村を襲う、そうだろう?」


 王に盗賊と言われた連中は、あわあわと口開きながら青い顔していた。

 弱い生き物が、強い生き物から身を守るかのように、互いに身を寄せ合う。


「他国の村が賊に襲われているなど、どうでもいいが、俺達の策の邪魔をした事は捨ておけん」


 そう言いながら王は馬の上に立ち上がった。

 

 右手に持っていた槍を構えながら、少し屈む。

 

 次の瞬間。

 馬を蹴り、真っ直ぐと飛んだ。

 蹴られた馬は耐えきれず転ぶ。

 あまりの速さに目で追えなかった。

 視界に収めた時には、すでに王に言い訳をしていた男の喉元から、槍を引き抜いていた。

 そして流れるように次から次へと、命を刈り取る。

 

 さっきまで僕がやっていた命のやり取りは、まるでおままごとにさえ思える。

 足の震えは止まっていた。

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