第二十八話「侍」の続き
僕は戦に身を置くようになってからある事が分かった
戦場では時として一騎討ちが行われる。
それは死にゆく者に華を持たせるためだったり、
名のある兵士に正々堂々と挑むためだったり、
一騎討ちを制し味方の士気を上げるためだったり、と、様々である。
そして今、明らかに周りの味方は、目の前にいる髪がまだら模様の男に恐れをなしている。
僕もヤバイ、逃げろと感じている。
だがしかし、この一騎討ちで倒す事ができれば、味方の士気を一気に上げられる。
ならば、チャンスかも知れない。
先程に放たれた、まだら男の太刀筋は見えなかった。
だが、人が獣より速く動けるわけが無い。
絶対に僕が海で見たカジキマグロの方が速い。
ならば手元を凝視すれば見える、はずだ。
あとは奴が首を狙うか、腹を狙うか、どちらに剣を放たれても対処できるように、僕は腰を落とし、左を脚を前に出して半身になり、
盾を胸の前に構えた。
「本当に盾は立派だ、でも盾は人をダメにする、お前みたいなどうしようもない小心者になってしまう」
まだら男は近づいて来ながら言った。
酷い言われようだ。
本心で言ってるのか、僕が気を乱すのを誘うために言ったのか分からんが、その手には乗らないぞ。
僕は目を離さず、ずっと奴の手元を凝視する。
決して見逃す訳にはいかない。
まだら男の歩みは止まった。
僕と彼の間合いは畳を縦で見て、4畳って所か。
僕の剣は踏み込んで詰めなきゃ届かない。
だが奴の剣は何故か、先程はこれ以上に距離があったにもかかわらず、届いていた。
ならばこの間合いも奴の範囲内だろう。
瞬間、まだら男は動いた。
少し腰を落とし、左手は鞘を掴み、右手は腰にさしてる剣の柄の方にうねるのが、僕の目にハッキリと映る。
来る!
直感的に僕の胸から下が狙われていると思った。
盾を下に滑らせて腹部の守りを固める。
だが聞こえてくるはずの金属がぶつかり合う音は無かった。
僕の目に映るは鞘に剣を収めて、ほくそ笑むまだら男の顔だった。
手応えがあった顔だなと思った、そして、
その答えが、痛烈な痛みとともに僕を襲う。
両太ももからだ。
段々と切り口が広がり、血が溢れ出る。
「い゛い゛い゛」
僕は歯を食いしばり、痛みに耐えようとするも、まだら男はお構い無しに近づいてくる。
右斜め前から、まるで渦潮のように中心にいる僕に向かって、円を描きながら向かってくる。
僕らの周りからも、ああーなどと悲痛な声が聞こえてくる。
一騎討ちだから誰も助けてくれない、なぜなら名誉に関わる事だからだ。
自分の力で打開しなきゃならない。
「ふぅぅぅ、すー、ふぅぅぅ」
息を落ち着かせて、グラグラな脚に力を入れて踏ん張るも、余計に血が流れ出る。
耐えるんだ!
奴は止めを刺しにもう一度と攻撃してくる。
奴の剣、いや、あれは斬撃が飛んできた。
ぬるりと空が歪むのが見えた。
飛ぶ斬撃なんて、おとぎ話の中だけかと思ったが、実在した。
いつもだったら感動してたかも知れないが、それが自分を襲うとならば、話は別だ、最悪な気分だ。
「ごっつい辛そうだなー」
まだら男はクスクスと笑みを浮かべた。
最初はなんとも思わなかったが、今は邪悪な笑顔に見えてきた。
勝つために、まずは脚を斬ったんじゃない。
弄ぶために僕の脚を斬ったんだ。
僕はそう確信する。
そして彼はまだ意地悪そうな笑みを浮かべてる。
まだ楽しむって感じだ。
ならきっと、また脚を狙ってくる気がする。
僕とまだら男の間合いは2畳半って所まで狭まる。
かなり近い。
この距離ならば、この脚でも踏み出した1歩で剣が届く。
行ける!
奴は動きを止めた。
僕はさっきの様に、胸の前に盾を構える。
まだら男もさっきと同じ様に右手は剣の柄を握り、うねる。
だが、ここからは同じとはならなかった。
飛ぶ斬撃は空を歪めながら、僕の下半身に向かってくる。
そんな事は予見していた。
僕は奴が剣を引き抜く前から、左足で地面を強く蹴って、前傾姿勢で斬撃を飛び越す。
「はぁっ!」
そのまま右手の剣を右上から左下へと向けて振る。
ギャキンーー!
っと音が鳴り、剣は左下へと振り抜かれ無かった。
止められたのだ。
まだら男は自分の剣で、すんでのところで僕の剣を防いだのだ。
そのまま剣を逸らされ、宙に浮いていた僕の身体は、前のめりに倒れ込む。
まじかよ、あとちょっとで首を叩き折れたのに。
でもまだ僕は諦めない!
右脚で着地し、
左回転をして、
盾の縁でまだら男の顔に向けて振り抜く。
「ふんぬ!」
僕の攻撃を顔面にもろに受けて、彼は吹っ飛ぶ。
遅れて、僕の右肩後ろに痛みが走る。
どうやら僕に殴られる寸前に、斬ったようだ。
さらに遅れてどんどんと肩の痛みが膨れ上がる。
太ももよりも痛い。
ちゃんと顔を向けて見ると、
僕の肩が縦に裂けていた。
咄嗟に左手で裂けて崩れ落ちそうな肩を、抱いてくっつける。
「あ゛あ゛」
上手くバランスが取れずに片膝をつく。
「痛いなー」
そう言ったのはまだら男だ。
彼は鼻から血を少し出してるだけで、平然と僕の方に戻ってくる。
さすがにもうダメかと諦めかけてる時、僕の後ろから前に、着物を着た男が通り過ぎていく。
「コイツを斬り伏せれば、この戦場は勝ちと見た」
腰に刀をさしている男。
侍だ。
バレナ帝国の5人の侍の内の1人。
ゲドウマル様だ。
僕は痛みに耐えながら、侍の背中を見つめた。




