第二十六話「ウルスに出征」
次の日。
街を出発して南下、ウルス方向へと進む。
元カラカティッツァの兵士が200人以上、バレナの兵士が100人ぐらい。
僕達は軍勢で移動している。
だからか進みは速くはない。
バレナの兵士からは特に説明も無かった、どこで、どのようにして戦うのか分からない。
しかも隊に分けたり、誰が指示を出すのかも決められてない。
だからか、必然的にカラカティッツァにいた時と同じ団で固まった。
僕も第3小団の団員と集まる。
タロウ小団長に、キヨマル、ケンセイ、チカセ、そしてアンネだ。……あとシラホシもだ!
馬だからって、仲間はずれにしたりしないさ!
手網をにぎっ握って、シラホシを先導する。
チラッと右後ろのシラホシを見る。
ここ最近の食っちゃ寝の生活が恋しいのか、帰りたそうな目をしている。
心做しか、ひひーんっと鳴いた時は、悲しそうに聞こえた。
まぁ、シラホシの事は置いといて。
1番前にタロウ小団長、2列目にキヨマルとアンネ、最後尾に僕とケンセイの並び順だ。
移動の最中、僕達はずっと無言である。
皆で集まるのは久しぶりだからかな。
チカセとケンセイ、タロウ小団長はここ最近は話す機会が多かった。
でもキヨマルとアンネとは、僕が意識を取り戻した日に会ったのが最後で、久しぶりに会う。
会話が必要とは思わないけど、なんかぎこちない感じだ。
ピリピリしてる。
これじゃ連携に支障が出るかも知れない。
ここは1つ、僕が雰囲気を変えよう。
うーん、以前はどんな話をしてたっけか。
確か、まずトラジロウが何か話題を出してた気がする。
例えば、食堂で鮭を丸々焼いて出すマヌケがいるんだが知ってるかってトラジロウが話出したりしてた。あの時は何故かチカセが顔に汗をダラダラ垂らしていたな。
とりあえず、似たように話題を出す。
「ねー皆、僕とケンセイは食べたけど、皆は街で団子食べた?」
笑顔でニコッとしながら。
だが、誰1人答える者はいなかった。
隣のケンセイは首を傾げて引いた感じでいる。
1番前にいるタロウ小団長は振り返らないからどんな感じか分からないが、2列目のアンネとキヨマルは振り返って真顔で僕を見る。
なんかまずい事言ったかな。
するとアンネが口を開いた。
「貴方、これから戦なのに何呑気な事言っているんです? そんな事よりも接敵時の陣形や連携を話したりしたらどうです?」
「お、おぉ、ぐうの音も出ない」
アンネにもっともな事を言われた。
初手からミスってしまった。
こんな時、トラジロウなら笑ってこの場を収めてくれるのに。
「ぐうぅ」
僕が落ち込んでいると、僕のお腹が大きく鳴った。
「貴方ーー」
「ふざけてる訳じゃ無いんだ! 本当に」
アンネが僕に殺気を放つのを感じた。
隣にいるケンセイは口元を隠しているが、失笑している。
あぁ、トラジロウがこの場にいたら、腹を抱えて笑っただろうな。
「ガハハハ」
代わりに大笑いしたのはタロウ小団長だった。
「イサミは貴様たちとの連携に不安は無いのだろう、許してやれ、ちなみに儂は団子よりここの和酒が気に入った!」
「……フン! 私は抹茶団子が好きですわ」
そう言われたアンネは僕を睨みなが答えてくれた。
「俺はみたらし団子!」
「私は醤油団子!」
「私は甘味は苦手で食べた事ないです」
それに続いてケンセイとチカセ、キヨマルも答えてくれた。
キヨマルは甘いものが好きじゃないなんて珍しいな。
しばらく、バレナ帝国ならではの物や食べたモノの話しで花が咲いた。
店の前にあった大きなタヌキが水色で変な顔だとか、ここの箸には花の模様が入ってるだとか、ケンセイがあまりにも臭い干し魚を食べただとか、そんな話をした。
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日が落ちた。
1日目の野営の準備に取り掛かる。
野営の準備と言っても、ほとんどの者はやる事はなかった。
適当な場所に陣取り腰を下ろすだけだ。
何個かのグループは焚き火を作ってるぐらいだ。
バレナ帝国の兵士は違うらしく、馬に積んでいた荷物から天幕を取り出して張っている。
大きな鍋も用意して、これから雑炊でも作るようだ。
暖かい食事をとれるなんて羨ましい限りだ。
対して僕達のご飯は出発前に渡された保存食だ。
僕は第3小団の皆でご飯を食べる。
各々袋から干し魚を取り出してたべる。
僕も袋を開けて、数ある中から1つ取り出した。
だが出てきたのは干し魚では無く、スルメだった。
なんで僕だけ魚じゃないんだ。
イカは硬くて食べずらいだよな、せめてタコが良かった。
僕がスルメの足を奥歯で噛んで引っ張って、引きちぎろうとしていると。
タロウ小団長が僕達に向けて言った。
「貴様らも気がついているかも知れないが、
此度の戦、どうも劣勢のようだ」
「ええ、バレナ軍がウルスの領土を奪い取ってるにもかかわらず、先日ウルス軍が攻めて来ました、おかしいですわ」
必死になってスルメをかじっていたが、ちゃんと話を聞いていた方が良さそうだ。
スルメの耳の部分を口に含み、ふにゃらしておき、タロウ小団長とアンネの話に集中する。
「私も思いました、『雷の申し子』スサノオ、あんな大物まで出てくるなんて」
キヨマルも同意を示した。
僕が一騎打ちしたあの戦の事だ、多分。
スサノオがいたのを知ってるって事は、もしかして第3小団の皆もあの戦にいたのかな。
そういえば、なんで一騎討ちで負けたのに、僕は生きているのだろうか。
雷を浴びて死んだと思ったのだろうか、
それとも、息があるかを確かめる暇もなく、またバレナ軍と乱戦になったのかな。
僕は運が良いのかも知れない。
「ハヤタケか……確かに大物だな。
儂が思うに、ウルスに攻め入ったバレナ軍は窮地に立たされているのやも知れんな」
ようやく理解し始めた。
行きの最初、皆がピリピリしていたのは、
死地の可能性が高いと思っていたからか。
ウルスの防衛に使うはずの兵力が攻めに転じられた。
ならば、ウルスは奪われた領土を取り返したから、守る必要が無くなったと見るべきだ。
もしくは守りを捨てて、さっさと敵の王を討ち取る策かも知れないが、僕よりも戦に長けた皆がそう判断しないなら、きっと違うのだろうな。
「ま、考えたって仕方ないで、もう寝ようや」
そう言いながらケンセイは大きなあくびをした。
「そうですね明日も早いですし、では私は寝る前に小さい方をしてきます」
キヨマルがぬっと立ち上がり、草原に立つ数少ない木に向かって行った。
ケンセイはすぐにゴロンと草むらに寝転がった。
チカセとアンネは、わざわざ歯ブラシなんて持ってきたのか、歯を磨き始めた。
タロウ小団長はいつの間にかいない。
皆は何かしら寝る前の準備をし始めた。
僕はと言うと、未だにスルメをかじっていた。
硬すぎだろ、こいつ!
もういい、続きは明日だ。
そう思ってスルメを袋に戻す。
食事した気分にならなかったな。
僕もゴロンと草原に横たわる。
随分と大地のベットにも慣れたものだ。
最初は地面を這ってる虫が僕の身体をよじ登って、耳の中に入ったらどうしようとか考えて、なかなか眠れなかった。
今では気にもならなくなった。
目をつぶって少し経つと、べしぺしと頬を叩かれた。
瞼を開けると、立って僕を見下ろすチカセと目が合った。
「イサミ、口……臭い」
「ほめん」
すぐに口を閉ざして、そのままごめんと言う。
「こっちまで臭い匂いがくる」
そう言いながらチカセは左手で自分の鼻をつまみ、右手ではいっと歯ブラシを僕に渡してきた。
「これで早く磨いて」
「はい」
僕はすぐに立ち上がり、寝ているシラホシの横に置いてある荷物から、水の入った皮袋を取り出す。
寝ている皆から少し離れて、水で口をゆすいでから、シャコシャコと歯を磨いた。
戻ってチカセに歯ブラシを返す。
「ありがとう」
「うん! 良くなった」
チカセはニコッと笑顔で言った。
でもたかだか歯磨きぐらいで臭いが取れるかなとも思う。
チカセが他の人より匂いに敏感なのか分からないが、気おつけようと思った。
今度こそ深い眠りにつく。




