第二十五話「友達になりそう」
団子は全部食べ終わった。
10本って思ったより一瞬だったな。
また食べたい美味しさだった。
「そうだ、ケンセイは鍛冶屋で何してたの?」
ケンセイは嫌な事を思い出したのか、不貞腐れた顔をした。
「いやな、鍛冶屋が人手不足やったさかい、兵団のお偉いさんに言われて働かされとったんやが、もう4日も寝ずに金槌振ってて、もう嫌や」
そう言ってケンセイは目を瞑り、いーってやりながら空に顔を向けた。
「ケンセイって鍛冶できるんだ、すごいね」
「凄ない、生まれが鍛冶屋やっただけ、それをいいことにあいつら……俺は鍛冶屋ちゃうんに!
俺は戦士やねんから戦に出さんかい」
確かにそれは嫌になるな。
兵士なのに、兵士として見られてないなんて。
「でもなんでそんな事に?」
「単純にバレナは俺たちの事を信用して無いんやろ、そやさかい陣形を変えるときの時間稼ぎぐらいにしか出る幕がないか、そもそも戦に呼ばれる事もない」
「ふーん」
バレナはウルスに負けた僕達を信頼してない、
……戦力になるとも思って無いかもな。
カラカティッツァから何人の兵士がバレナまで来たのか分からないけど、仕方ないことだ。
時間をかけて信頼を得るか、戦果を挙げて信頼を勝ち取るか、どちらにせよ、どっちもすぐには出来ない。
なんせ今の所、バレナはウルスを返り討ちにしている。街1つ落とされてない、逆にウルスの領土を奪い取ってるらしいし。
それに、この街がまだ無事ということは、この前のウルスの侵攻、スサノオを撃退したのだろう。
あの者をどうやって退けたのか気になるな。
「そういや、イサミは鍛冶屋の前におったな。
俺と同じで、あそこで働かされるんか?」
「僕は違うよ、自分じゃできないから剣を手入れしてもらおうと思って」
僕は背中の剣をケンセイに手渡した。
「うわっ、ひっどいな」
ケンセイは呆れた顔で僕を見た。
多分僕がぞんざいに使ってたと思ったのだろう。
違うからな!
「おーい! ケン!」
ケンセイに剣が錆びてる理由を言おうとしたら、頭にタオルを巻いた、汗だくのおじさんが走って来た。
「戻って来てくれよ、ケンがいないと作業が遅くなって大変なんだ」
「んだよ、俺はもう働かねーぞ?」
どうやらケンセイが働かされてる鍛冶屋の人らしい。
「はぁ、たかだか4日で逃げ出すガキなんてほっとけって親方が言ってたけど、その通りだったか……」
「んだと! 俺は逃げへん、あのハゲ! 悪いイサミ、俺は戻る、ついでにイサミの剣は俺が鍛えなおしたる!」
「え、あ、ちょっと!」
ケンセイは僕の返事も待たずにドタドタと走っていった。
「ちょろいぜ」
ケンセイを焚き付けたおじさんは一言ボヤいた。そして、僕に会釈をしてケンセイを追うように小走りで去って行った。
次に鍛冶屋に行ってケンセイにあった時、彼の顔には真っ青で、目の下にはありえないほど黒い隈ができていた。
ケンセイはすごい負けず嫌いなのが分かった。
そして、バレナの兵士は分からないが、少なくとも鍛冶屋の人達はケンセイを信頼しているように僕には見えた。鍛冶の腕をだけど。
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数日後、僕は鍛冶屋にまた赴いた。
そろそろ剣が出来上がったのでは無いかと見に来たのだ。
工房には入れないので、お店の人にケンセイを呼んできて貰った。
しばらくすると。
「出来上がってるで」
そう言いながら扉からケンセイが出てきた。
「おお!」
「こっちで見てみぃ」
ケンセイについて行く、鍛冶屋の裏に出る。
束ねられた藁がが並んでいた。
ケンセイはそのうちの1つを持ってきて置いて、言った。
「試し斬りしてみぃ」
僕は剣を受け取り、鞘から剣を引き抜く。
滑らかに、スっーと出てくる。
剣は太陽に照らされ、眩しい光を放っていた。
「ありがとう、ケンセイ、僕の要望通りにしてくれて」
「いいってことよ、武具は人それぞれに合うた形がある、自分に合った形にするのは普通や」
僕はケンセイに頼んで剣を少し変えた。
見た目は同じで、どこからどう見ても両刃の剣だ。
でも実は片方を丸みを帯びた刃にして貰った。
片方を斬れなくしたのだ。
戦ではこっちを使うつもりだ。
刃が無い方で敵の首を折る、首を折ったぐらいでは死にはしない、動けなくなるぐらいだ。
もう片方は獣用だ、獣に襲われたら殺さないで無力化なんて出来ないからな、逃げるのが1番いいが、もしものために刃は残しておく。
僕は剣を両手で構えて、刃がある方を束ねた藁に向けて振る。
試し斬りだ。
「フン!」
束ねた藁は両断されて上と下で綺麗に半分になる。
そこにすかさずケンセイが駆け寄り、藁の断面をじっと見てから僕の方見た。
「どや?」
「うーん、手にしっくりくる感じだ」
よく分からないけど、いい。
今までと何が違うのか聞かれても、答えられないけど、何となくいい。
新しくなった剣にウキウキしてるからそう感じるのかもしれない。
錆びないように、これからはちゃんと手入れしてやるからな天叢雲剣!
……名前が長いな、略してアメちゃんでいいか。
ついでに盾の方も八咫鏡を略して、ヤタくんって呼ぼう。
名付けてから1度も呼んだこと無いけど。
馬のシラホシはちゃんと名前で呼べるんだけどな。
シラホシは兵団が持ってるうま屋に入れて貰えた、今頃は昼寝でもしてるかな。
「ケンセイ」
「ん?」
「ケンセイは自分の剣にどんな名前つけた?」
「…………あ?」
「僕の剣はアメちゃんって言うんだ」
「…………は?」
ケンセイは口を開け、左眉を下げ、右眉を上げて僕を見ている。
うん、何言ってんだこいつって顔だ。
僕もそう思う。
でも何となく聞きたかった。
「そうやな……魔坊って名前だ……」
ケンセイは少し悩んでからドヤ顔で言った。
今考えたっぽいな。
少し恥ずかしそうにもしている。
「おお、強そう」
「俺の剣やからな、強ないとあかん」
ふふっと少し笑みがこぼれた。
ケンセイは最初合った時は、全然話してくれ無くて、仲良くなれないと思ってたけど。
気のいい人だった。
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僕は用事を済ませたので宿舎に戻った。
カラカティッツァから来た兵士達に与えられた宿舎だ。
隣にあるバレナ兵に比べて明らかにボロい。
壁に穴が空いていたりする。
文句があるわけじゃないけど、これから秋が来る。
寒くなるからな、さすがに穴ぐらいは塞ぐべきだろう。
今度、第3小団のみんなに言ってみるか。
だがその日の晩。
急にバレナの兵士から言い渡された。
ここにいるカラカティッツァから来た兵士は皆、明日に出陣すると。
宿舎を直すなんて悠長な事は言ってられなくなった。
明日から戦に出ると分かった瞬間から気を引き締めて、備える。




