第二十四話「ご飯食べる」
目が覚める。
遅れて全身をジンジンと痛みが襲う、
足の指先から手の指先まで。
痛みに耐えながら、かけられた毛布をめくり、上体を起こす。
前もこんな感じの事があった気がすると、思いながら周りを見る。
畳に敷かれた布団の上に僕はいる。
ますます前と同じ状況に似ている。
また、ウルスに連れてかれたのかと思ったが、どうやら違うようだ。
僕の右隣にチカセが寝ていた。
僕と同じ、カラカティッツァ第3小団の。
少し寒かったのか、左手と左足だけ僕の布団に潜り込んでいる。
肩と太ももが毛布で隠れるくらいまで。
このまま僕から毛布を奪ってしまいそうだ。
ここがウルスならチカセはこんなスヤスヤして無いだろうから、僕はバレナにいるに違いない。
そうだとして、さて、なんでチカセがここに?
いや、考えるより聞いた方が早いな。
「チカセ?」
チカセの肩を揺さぶる。
チカセはゆさゆさと揺れながら、むにゃむにゃと唸って身を翻し、僕に背を向ける。
身を翻す時、ついでに僕に掛かっていた毛布をかっさらっていった。
一瞬の出来事だ。
まるであの時とみたいだ。
一騎打ちでスサノオと対峙した時と同じだ。
あの時も一瞬だった。
僕は奴の一撃を防いで懐に容易に潜り込めた。
今思えば、わざと僕を懐に潜り込ませたのだろうか、最初の一撃は手加減してるように思えた。
そこから動きを止めてから一撃。
剣に帯びていた雷を飛ばしていたように思う。
でも、あんな技があるなら、最初の一撃で使っとけば僕は終わってた、なのにそうしなかったのはなぜだ。
結果的は雷は僕に命中したから同じだけど、1手目で放つのと、2手目で放つの何が違うのだろうか。
何かしらの意図があったのだと思う。
考えるの後だ、今はチカセの事だ。
チカセがくるまってる毛布を両手で掴んで、
思いっきり引っ張って剥がす。
転がり出て来たチカセは、パチパチと目を開けて僕を見る。
そして慌てて言った。
「意識戻って良かった! 心配したよ」
「心配してる人から毛布を奪うってどうなのよ」
「い、いや違くてー、あ! お腹空いてない?
空いてるよね! 5日も食べてないんだから、取ってくるね!」
逃げるようにトコトコと部屋から出ていった。
少しして、チカセは食器が乗ったおぼんを持って戻ってきた。
見ると、お米、汁物、焼き魚が並んでいた。
久しく見てない、ちゃんとした食事だ。
急にお腹が減った気がする。
バレナに着くまでのお坊さんとの2人旅。
道中、お肉を食べれたのは3回程だったかな、ほとんどが雑草かキノコだった。
酷い時は花の蜜を啜って終わった1日もある。
口の中に溜まった涎をゴクリと飲み込む。
あぐらの上におぼんを置く。
「いただきます!」
チカセが不思議そうに見てきたが、特に何も言わなかった。
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ご馳走様をしてから、おぼんを傍らに置く。
僕はチカセに質問をする。
「ところで、ここどこ?」
「医務室だよ、あ、えーと、薩摩藩にある兵舎の内の1つのね」
「薩摩藩? 街の名前?」
「薩摩が街の名前、バレナの人達は街の事を藩って呼ぶらしいよ」
「ふーん、じゃあチカセはどうしてここに?」
「……実はイサミの看病する口実でサボってた」
「そうじゃなくて、なんでバレナにいるんだ?」
あ、そっちか!って顔をチカセはした。
「それを言うならイサミこそじゃん!
グウラ城塞で戦死したと聞いたのに、どゆことよ」
「……僕はウルスに連れられて、逃げ出してここまできたんだ」
「えー!
私達はバレナと同盟を結んだの」
チカセの話によると。
カラカティッツァは、ほとんどウルスに征服されてしまったらしい。
でもどうにか王都だけは、落とされないぞって、踏ん張っている。
じゃあ僕達も王都を守るに行くべきじゃないかと聞くと。
味方を王都に迎え入れる時、敵の侵入に繋がるからダメらしい。
それに、王都内の兵士があまりに多くても、物資が限られているため、良くないと言う。
僕はそこら辺よく分からないけど。
チカセがそう言うのなら、そうなのだろ。
あと、たとえ王都が落とされても、現国王は城から逃走し、身を潜めるらしい。
これは僕も知ってるけど、王を討たなければ、国を落とした事にはならない。
だから、国王は命懸けの隠れんぼをしなくちゃならない。
そうしてる間に、残ったカラカティッツァ兵は、
バレナと一緒にウルスを倒そうって算段だ。
大体、チカセの話しはこんな感じだ。
でも1つ、
僕はチカセが言った言葉に引っかかる所があった。
「私達って言ってたけど、もしかして第3小団もここにいるのか?」
「そうよ」
みんないるのか、無事で良かった。
「もしかしてトラジロウもいる?」
「えーと、トラジロウはいない。
元々イサミと、トラジロウはグウラ城塞で
戦死したと思われてたのに、イサミは生きてた。
だからトラジロウも生きてるかも知れない…………、から気を落とさないで」
僕は今、気を落としていただろうか。
眉間に皺を寄せてたから、そう思われたのだろう。
でも僕は気を落としていない、疑問が出ただけだ。
僕はトラジロウが生きている事を知っている。
僕をウルスの衛生部隊に運んだのだから。
でも、トラジロウは第3小団に生存してる事さえ伝えて無いのか。
なぜトラジロウが僕をウルスの衛生部隊に運んだのかは予想がつく。
ウルスの医療はカラカティッツァよりも優れていると思う。
それをトラジロウは知ってたのだろう、だから僕をウルスへ連れてった。
でもそこからの足取りが掴めない。
僕が意識を取り戻す前にどこかへ行ってしまった、第3小団にも戻っていない。
おかげで助かったけど、
本当にどこへ行ったのだろう、そこが分からない。
「そうだ、イサミが目を覚ました事報告しなくちゃ」
そう言ってチカセまたトコトコと部屋を出ていった。
ていうか、チカセはサボってたのか、しかも寝てるなんて。
チカセはバレて怒られるのは怖くないのだろうか、なんて言うか、図太いな。
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あれから7日経った。
僕は身体が治るまで休めと言われた。
ようやく治って動いてもいいのが今日だ。
まだ少し身体の痺れが残っているが、ずっと布団の上にいたから、暇で暇で仕方なかった。
多少の痺れなど気にもならない。
盾と剣を背中に着けて、新しく貰った革鎧を着る。
身支度をして僕は街に繰り出した。
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ここ数日何度もウルスが街に攻め込んで来ているが、悲惨な雰囲気など無かった。
それどころか、より人が増えた気がする。
街は活気に溢れていた。
僕は今、鍛冶屋の前に来ている。
こじんまりした小さな建物だ。
だが、わらわらと武器を持った人が出たり入ったりと入り乱れている、大人気見たいだ。
鍛冶師の腕なんて僕には分からないが、こんなに人がいるんだ、きっと有名な鍛冶師に違いない。
チカセが言っていたが、バレナの兵士と言って、バレナの革鎧についてる紋章を見せれば、代金は払わなくていいらしい。
兵団が後日まとめて支払うのだとか。
僕が鍛冶屋に入ろうとすると、大声を上げて、肩で風を切りながら出てくる茶髪の男がいた。
「やってられるかいな!」
茶髪の男と目が合う。
「ケンセイ!」
「お? イサミ!」
この街にいることは知っていた。
もしかしてケンセイも武器の手入れをしてもらいに来たのかな。
「意識戻ったんか、ちょうどええ、いくねん」
「ど、どこに!?」
腕を引っ張られて連れてかれた。
「着いたで、ここや」
なんかのお店まで連れて、外にある縁台に僕は座らされた。
ケンセイだけ中に入った。
「あらケンちゃん、いらっしゃい」
「久しぶりやなおばちゃん、いつもの……20本頼むわ」
「あいよ」
中から何かを頼む声が聞こえてきた。
しばらくしてケンセイが出てきた。
手には皿がふたつ。
片方を僕は渡される。
皿に乗ってるものを見ると、
白くて丸い塊を3つひとまとめに串で刺して、茶色いドロっとした樹液のようなものがかかっているのが10本ある。
「これは?」
「団子や、バレナ帝国の名物や、この店がいっちゃん好きや!」
串を手に取って、1つ口に入れる。
暖かくて、とても甘い。
こんなに甘いものは初めて食べた。
モチモチと食感だ、甘いお米を食べてるみたいだ。
「美味しい!」
「そうやろ? お祝いや、好きなだけ食べてや」
「やった!」
僕は団子をもぐもぐと口に頬張った。




