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勇者  作者: 海目 愚丸
なんやかんや
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第二十三話「一騎打ち」

 駐屯地の敷地に入った途端に、ガランガランと鐘の音が鳴る。


 聞き覚えがある音だ。

 敵襲を知らせるときの警報に思える、きっとそうだ。

 だって、駐屯地にある全ての建物からぞろぞろと武器を持った男が湧き出てくる。

 

 僕はすぐに内側の門の端に、邪魔にならないように移動する。

 

 すごい勢いで門から出ていく兵士達を見ていると、いきなり腕を掴まれて人混みの中に引きずり込まれた。

 有無を言わさず、走らされた。


「わい、ないをしちょい! さっさと行っど、ウルスが攻めて来た!」

「……はい!」


 このおじさん、何言ってるか分からないけど、ウルスが攻めて来た事は分かった。

 これから戦か。

 駐屯地内にいたから、ここの兵士と勘違いされたのだろう。

 ここの兵士になりに来たから良いけど、いきなり戦になるとは思わなかった。


 背中に背負っていた盾を左腕に装着する。


 街中を兵士の群れが突っ切る。

 この通り、先程まで人で溢れていたが、走ってる兵士の邪魔にならないように、住人は道の端によっている。

 道を開けない者は誰もいないから、そういうルールなのだろうな。


「あんわろらまた、こん薩摩藩に来やがった、返り討ちにしてやっ!」


 全然聞き取れないや、んー、でもやってやるぞって意気込んでいるように思えるな。


 屈強な男どもに囲まれながら、街から出だ。


 最初にこの街に来た所が南だとすると、ここは少し南西側に寄った所か?

 相変わらず草原が広がっている。

 だが、南側からの草原はどんどんと人の群れに覆われつつある。

 ウルスの軍勢だ。


 街から出てきたバレナの兵士たちは、着々と陣を成しながら、ウルスの軍勢に向かっていく。

 後続にいる僕も剣を抜き放ちながら、前に出る。

 草原に足を踏み入れると、ベチャリと足が沈む。

 

 ここ、水田か!

 初めて見た、これが米が取れる稲と言うやつか。


 いや、関心してる場合じゃない、足が泥に捕らわれて動きずらいな。

 こんな所で戦うのか。

 慣れない地形での戦いは避けるべきだが、場所を変えられないので、仕方ない。

 やるしかない。


 どんどん、互いの軍勢が近寄っていくが、ある時止まる。

 すると、


 ぶっおおーん


 っと音が、僕よりも後方から聞こえてくる。


 懐かしい音だ。

 多分法螺貝から奏でられた音だろう。


 旋律が終わると同時に、バレナの兵士の全員が声を上げる、だが負けじとウルスの兵士も声を張り上げる。

 両軍の雄叫びが戦場に響く。

 凄まじい気迫だ。

 水田に薄らと張っている水面に波紋がいくつも浮かびあがる。


 僕は今までに無かった空気を味わい。

 緊張して場に飲まれる。

 でもそんな僕を待ってくれる者は誰もいなかった。


「「おおおおおおぉぉぉ」」


 バレナの最前列の兵士は、槍を構えて走り出し始める。


 殺し合いが始まった。

 

---

 

 合戦で味方の援護をしたり、されたり、と、乱戦にどうにか適応してきたと思ったら。

 僕は今、孤立していた。

 敵兵に囲まれているのだ。

 どうしてこうなったのだろうか。


 途中途中、バレナ側から法螺貝の旋律が何回か鳴った。

 つい先程にも1回鳴った。

 そこからだ。

 僕が孤立したのは。


 多分だけど、あの法螺貝の旋律で、陣形の変更を指示してたのでは無いだろうか。

 そして、最後に鳴った旋律は後退の合図なのでは無いだろうか。


「陣形を立て直すために、1人だけ残るとは盾持ちのくせに度胸がある奴だ」


 僕を囲んでる敵兵の内の1人に言われた。


 やはり後退の合図だったのか。

 合図を聞き分けられない僕は、まんまと取り残されたという事だな。

 参ったな、残りたくて残った訳じゃないけど。

 いきなり大ピンチだ。

 死地に赴いたつもりは無かったのに。


 ここは威勢を張るべきだろう。

 少しでも自分に有利になるように。


「お前たちなど僕1人で十分だ! まとめてかかってこい!」


 僕の挑発に乗らないで、全員がかかって来たのなら、僕の言葉を認める事になる。

 だが、誇りある者ならば、そんな事はしないだろう。

 怒って、一騎討ちを申し出てくるはずだ。

 出てこなかったら、本当にまずい。

 お願い、お願い。

 挑発に乗ってくれ!


「随分いうではないか! ならばこの俺が相手になろう!」


 そう言って1人の男が前に出てきた。

 なかなか図体がデカい男だ。

 まん丸してる。

 

 彼の言葉で周りの兵士は何歩か下がる。

 一騎討ちの流れが出来た。


 良し! 

 とりあえず1対1だ。

 こいつをぶち転がす。

 安心しろ、殺しはしない、首の骨が折れるぐらいだ。

 その後は友軍がもう一度敵軍に当たりに来てくれたらラッキー、無かったら……どうにかして逃げる。

 これぐらいしか、今の所思いつかない。


 そう思って、1歩踏み出した瞬間。

 目の前にいた、これから戦う男は僕の右視界ヘと消えていった。

 先程まで男が立ってた場所には、別の男が立ってた。


「雑兵ごときが! 一騎打ちなどと粋なことしてんじゃねぇ!」


 そう言い放ったのは巨漢だ。

 先程の男もかなりのデカさをしていたが、

今、目の前にいる男はそれ以上のデカさだ。

 見ると、右手に持っている大剣を右から左へと振り抜いた後だと分かる。

 先程の男はこの巨漢に2つの肉塊にされて、吹き飛ばされたのだ。

 

「お前に会いたかっぜ、一騎討ちがしたいなら俺様が相手になってやる」


 巨漢は片方の口角をぐいっと上がる。

 わっるい顔だ。

 この顔に見覚えがある。顔どころか、図体も剣も見覚えがある。

 僕の左腕を折った奴だ。

 ハヤタケ、もといスサノオだ。


 最悪だ。

 大ピンチ所の話ではない。

 だが、顔には出さない。

 これからやってやるぞって意気込みを顔に出す。


「『(いかずち)の申し子』がお出ましになられたぞ」


 誰かがそう言って、取り囲んでいた兵士達がさらに5歩下がった。


「相手にとって不足なし!」

「ほざけ!」


 僕は地面を蹴って飛び出す。

 

 向かってくる僕に、スサノオは片手で大剣を振り下ろした。

 振り下ろされる大剣に合わせるように、僕は盾を斜めにしていなしつつ、奴の右側に潜り込む。

 奴の左腕は攻撃に転じる気配は無い。


 剣を掻い潜り、相手の無防備な首が見える。

 あとはその首に剣を叩き込むだけだ。

 今までに無いほど、思い通りの展開になり、少々不安すら覚え、嫌な予感がした。


 そして残念な事に、その予感は見事に的中した。


 身体に電流が流れた。

 閃いた時とかのビビっと来たとか、そんな例えなどでは無い。

 本当に身体が痛むほど痺れるのだ。

 動けない。


「『白皙(はくせき)』」


 巨漢が口から言葉が出た。

 それと同時にバチバチと音が聞こえ始める。


 少し左を向いて、尻目にスサノオの大剣を見る。

 未だに振り下ろされた剣がいなせれて、地面に剣が食い込んでいる。

 でも先程とは違う。

 白く光っている。

 雷が帯びている。


 すぐにあれはヤバいと理解する。

 だが、同時におかしいと思った。

 身体が痺れて動けないのはあの剣のせいだとすると、僕は奴の剣を受けていないのに、何故動けないんだ。


 これからうまく身体が動かない僕に剣が振られる。

 そう思い、どうにか、身体を左に向かせる。

 その時、気が付く。

 水田も薄らと白く光っている、そして自分の足元もだ。

 

 もしかして、水のせいで雷が広がっているのか!?


 自分の考えが正しいかどうかなど、確かめる時など無かった。

 既に、目の前には白く輝く塊が僕に向かって振られていた。


---


 過去に自分の一撃を受け止めた童。

 次会った時は、その心の臓をくり抜いて、犬のエサにでやろうと思った童。

 そんな童は初めて会った時とは別人と見間違えるほど速かった、それから別人のように硬い防御で自分の一撃を凌いだ。

 

 1度目はギリギリ耐えられた。

 2度目は完璧にいなされた。


 そして、今、また時分の喉に剣を振ろうとしている。

 こんな錆びた剣で致命傷を負うとは到底思えなかったが、周りには決闘を見ている野次馬がいる。

 こんな童が自分に一撃を入れる所を見れる訳にいかない。


 もはや、舐めて手加減してる場合などでは無い。

 実に苛立つ。

 これからある程度、力を出さなきゃならない自分に。


 白皙(はくせき)


 それは、白い雷を剣に纏わせて、斬った相手が白く発光する事で名付けた技。

 この技は水を伝う、この場には最適だ。


 使いたくは無かったが、仕方あるまい。


 周りの野次馬は自分が技を使った瞬間、一目散に逃げていった。

 

 童は動けずにいた。

 剣を振って、雷を飛ばす。

 童は最後まで盾で防ごうとしていたが、盾など意味をなさなかった。

 

 童は後方に吹き飛び、身体から煙を出しながら、白目でうつ伏せに倒れていく。

 水田に倒れた際、ぶしゅうっと、焼石を水に入れた時みたいな音と湯気がでる。


 勝負は決した。


 後はまだ息があるかも知れないから、首を落とすだけだと、童に近づく。


 だが、それを阻むように、童の前に現れる者共がいた。


 5人の男女だ。

 女が2人。

 男が3人。

 1人だけ顔を知っている。


 かつて、自分がまだカラカティッツァの兵士だった頃、一緒に肩を並べて戦った戦友がいる。

 リュウタロウだ。

 いや、今はタロウだったか?


 どちらにせよ、倒す。

 そして、街まで攻め入る。

 それが今回、自分に命じられた事だ。

 たとえ、イナリとかいういけ好かない者の命でも、やらなくてはならない。


 スサノオは再度剣を握りしめた。

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