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勇者  作者: 海目 愚丸
なんやかんや
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第22話「信念」

 バレナ帝国までの道のりは長い。

 いや、長くなっている。

 移動の時を削ってお坊さんに稽古してもう事があるからだ。


 基礎を習得しろと言われて20日程だろうか、

この日も稽古のために移動を止めていた。


「なかなか良くなっているぞ、イサミ」

「はぁ……ひー」


 も、もう、動けない。

 木の上上まで吹っ飛ばされて、枝に足が引っかかって、宙吊りになる。


「ぎ、ギブ」

「ふーむ、では、出発するか」


 直ぐにお坊さんは歩き出した。

 僕はまだ宙吊りである。


 ちょっと待ってー!


 身体をじたばたさせて、どうにか抜け出し、足から着地しする。

 急いで馬に駆け寄る。


「いくぞ、馬」


 そう言いながら、僕は手網を引っ張って馬の前を歩く。

 すると、前にいたお坊さんが振り返った。


「思ったんだが、お前さん、人以外の生きものにはあまり優しくないな」


 …………そんな事は無いと思うけどな。

 ちゃんとエサは……あげてないな。

 この馬、勝手にそこら辺の草食べてるし。

 でも川辺を通った時は、僕の水浴びのついでに、服を濡らして馬の身体拭いたりしてる。

 うん、ちゃんと世話してる。


 僕が呆然としていると。

 お坊さんは首を傾げながら言った。


「違うな、優しくないと言うより、人と人以外の命にハッキリと線引きをしてる感じだな」

「……どういうこと?」

「お前さんにとって、人以外の生きものは食べ物か道具にしか思っていないということだ」


 あー、なんか、そうかも。

 魚は食べ物、馬は荷物運びという認識があるな。

 魚や馬の命に危機があっても、助けるってことはしないと思う。

 僕はまだ命を大切さに思う気持ちも行動も出来てないと、お坊さんは言いたいのだろう、

たぶん。


「馬を道具として見るなってこと?」

「そうでない、食べ物や道具として見たり、使ったりする事は普通の事だ。

 だが、そこに愛をもって接するべきだ」


 愛……。


「つまり、名前をつければいいんだな」

「…………まぁ、それでも良い」


 んー、馬の名前。

 何にしようか。

 昔よく罰ゲームとかでやった、デコピンとかどうだろう、無いな、生き物につける名前じゃない。

 ドンキーや、コンガってのはどうだろう、

どちらも響きがいまいちだな

 もう見た目からつけるか。

 馬体は黒、額だけ白い筋みたいな模様がある


「決めた! こいつは今からシラホシだ」

「ほう、理由は?」

「額の白い筋が星の光に見えるから」

「いい名だ」

「いくぞ、シラホシ」


 名前を呼んでみると、ぶるるるっとシラホシは唸った。

 多分喜んでる。

 

 僕は、んふー、と、口角が上がった。

 今日から毎日頭を撫でてやるからなシラホシ。




 その晩。

 

 僕は取ってきたキノコや野草に1個ずつ名前をつけて、『君は葉がツヤツヤしてて美しいね』など、褒めながら食べてたら、

 お坊さんに『気色悪い事をするな!』と怒られた。

 なんでもかんでも名前をつけて愛情を注ぐのは違うらしい。


---


 さらに10日経った。


 既に僕達は森を抜けて、だだっ広い草原を歩いている。

 ここからバレナ帝国までは森は無いらしい。

 バレナ帝国付近には山が何個もあるが、僕達は通らないだとか。

 

 森や山の中を歩くより、よっぽど楽だ。

 

「見えてきたぞ、バレナの街だ」


 お坊さんが言う前に僕は見ていた。

 遠目からでも分かるほど、立派な……城かな?

 カラカティッツアでは見ない造形だ。

 例えるなら、キノコの傘の上に、また傘がついてるような、屋根が何個もついている。

 さらに、1番上の屋根には金ピカの魚が2匹ついている。どちらも尾をあげていて、エビ反りのポーズをしている。


 近づくにつれて、城全体が、街全体が見えてくる。

 かなり広い様に見える。


「関所が無いように見えるけど」

「ああ、バレナは街を囲う壁を建てないからな、せいぜい街と街を区切る低い柵があるぐらいだ。」

「それじゃ、すぐに攻められちゃうんじゃないの?」

「バレナは街には常に武士がおる。

 そして街と街の間隔が非常に狭い、街を1歩出たらもう別の街に辿り着く」

「武士?」

「お前さんで言う戦士や騎士みたいなものだ、バレナでの兵士の大半が武士だ。

 もしバレナを攻めたら、次から次へと兵が出てくる、故に、容易に落とせない」

「おぉー」


 なるほどな。

 1個の街を攻め落とそうにも、兵士がわんさか出てきて、戦力の規模が分かりづらい。

 しかも、落とせたとしても、隣に別の街があるから連戦になるため、維持が難しいって所かなか?


「勝手に入ってもいいの?」

「2人じゃ気にも留めないだろう」

「そうなのか」


 僕達は城下町と呼ばれる、商売で賑やかな通りに入る。

 道は結構広くて、左右にお店がずらりと並んでいる。

 食べ物だったり、家具だったり。

 お、コレなんか桜の模様がついてる箸だ。

 お、アレはなんだ? 店の前にどデカいタヌキの置物がある。

 思わずじっと見てしまう。

 

 たが、そんな置物より視線を集めるものがある。

 それは僕だ。

 なぜだが、すれ違う人々がチラリと僕を見る気がする。

 やはり、服装の違いか?

 僕はズボンとシャツだ。

 ここの人達は……は上から下まで同じ布を身にまとっている、少し違うが、お坊さんの服に似ている。

 靴も違う、僕はブーツだが、彼らは草を編んで作ったような靴を履いている。


「お坊さん、なんかすごい見られてる気がする」

「お前さんの服はここではあまり見ないからのう、ここで着物を着ていないとよそ者だとすぐに分かる」


 ピーーー


 甲高い、笛の音が聞こえた。


 なんだと思ったら、肩を掴まれた。


「お主、何者だ?」


 振り返ると、男がいた。

 腰に剣を差している。

 こいつは武士か?

 顔も厳ついし。


「えーと……」


 お坊さんに助けを求めようと当たりを見回す。

 が、お坊さんがいない。

 人混みでもうどこにいるか分からない。

 んー迷子か。

 

「目をキョロキョロさせおって、怪しい奴め!」


 男は僕の首に縄を括りつけた。


「こちらに来い!」


 そのまま引っ張られる。


 おおぉ!?

 これまずいのでは?

 まるで罪人を連れていくかのようだ。


「お坊さーん! お坊さーん!」


 大きく声を出して助けを呼ぶ。


「やかましい! 黙らぬか!」

「……はい」


 顔が怖くて思わず口を噤んでしまった。

 

 そして僕は連行された。

 

 どこかの建物まできた。

 厳つい顔の男はシラホシを建物の前に繋ごうとする。

 シラホシは『ヒヒヒィン』と唸るもあっさり繋がれた。


---


 小さな部屋に入れられた。

 机が1つ、椅子が2つ向き合うように置いてあった。

 僕は片方の椅子に座らされ、

 向かいには先程の顔が厳つい男が座る。


 この部屋は窓がなく、机の上にある小さなロウソクがあるものの、かなり暗い。

 男が今から怪談でも話すかの様だ。

 

 嫌だな、僕は怖い話は苦手なんだ。

 子供の頃に母ちゃんが怖い話をした後、僕はベッドの中で自分の足を抱えてうずくまってた。

 そうしないと、足を引っ張られるような気がしたからだ。

 そんな僕を見た妹のハルは『ぎゃははは』と笑っていた。


 トラウマが蘇り、身体が震える。


「お主、ウルスの手先だな?」


 違った。

 怖い話じゃなかった。

 なんだよビビらせやがって。

 フンっとは鼻を鳴らし、右手で額を拭う。


「僕はウルスの兵士じゃない!」

「嘘を言うな!」

「嘘じゃない!」

「嘘つきは政治家の始まりだぞ!」

「せ、政治家じゃない!」


 政治家ってなにか分からないけど、違う!

 

 男は思いっきり机を叩く。

 僕も負けじと机を叩く。

 互いに睨む。


「……なら、お主、野糞する時どうやってする!?」

「? 地面に穴を掘ってそこにする! そして終わったら土を被せる!」


 いきなり訳の分からない質問をされたが、

ここで黙ったらダメだと思いすぐに答えた。


「猫みたいな糞の仕方だな! だか、むむむ、

確かにウルスの手先では無いようだ」


 どうゆう判断の仕方だよ。

 だが、誤解が解けそうだ。


「おじさん、武士の人? ここなら兵士になれると聞いて来たんだけど」

「む? 違う、拙者は奉行者だ、だがそうか、合点がいった、ついて参れ」


 なんか納得したらしく、すぐに首の縄を解いてくれた。


「お主、生まれは?」

「カラカティッツアだけど」

「やはりそうか、だがお前たちならまだやれる、頑張れよ」

「……?」


 何を言っているのか分からないけど、

いいや、無事に解放されたし。


 建物から出て、シラホシの手綱を解いていると。


「イサミ見つけたぞ! 良かった良かった」


 お坊さんは喜びながら近づいてくる。


「あの神職、知り合いか?」

「うん、えー、師匠って所かな?」

「そうか」


 顔は怖いけど優しい人みたいだ。

 先程とは打って変わって、声色が穏やかになっている。


「置いてかないでよ、お坊さん」

「すまん、すまん、ところでお前さんお奉行に捕まっとったんか?」

「どうなるかと思ったよ、お奉行ってなに?」

「治安維持をする者だな、武士と違って戦には出ん」

「ほーん」


 カラカティッツアでは、戦うのも、治安維持するのも兵士だけど。

 この国では戦う兵士と、治安を守るお奉行に役割を分担してるのか。


「いつまでそこにおる! はよついて参れ」


 お坊さんと喋ってたら、いつの間にかお奉行の人がもう離れていた。

 慌てて追いかける。


「そういえば、どうしてここにいると分かったの」

「聞いて回ったら1発で分かったぞ、変な服装のガキが奉行所に連れていかれたと」


 ガキ!?

 もう僕は大人なのに……。

 僕も髭を生やそうかな。

 でも、あんなもじゃもじゃ、

大人どころかお爺ちゃんに間違われそうだ。


「ていうか、どこに向かってるんだろう」

「さてな」


 とりあえずついて行く。


 すると大きな建物の前まで来た。


「ここは兵の駐屯地だ、あとは中のやつに聞きな」

「ありがとうございます」


 僕がそう言うと、お奉行の人は去って行った。

 兵石になりに来たと言ったから、ここに連れてきてくれたのか。


「イサミ、ここでお別れだ」


 お坊さんはバレナ帝国までは一緒な事を思い出す。

 

「そう言えば、お坊さんはなんで旅をしているの?」

「ああ、言っとらんかったか? 

 私の宗派では生涯で4度、大陸を隅まで見て周り、帰ってくる修行がある」

「それは、すごいな」

「今が3度目で帰りの途中だ、だから悲しい顔をするな、4度目でまた会えるやも知れん」

「うん……」


 少し雑談を交えるけど、大した時間稼ぎにはならないな。

 寂しくなるな。

 お坊さんが教えてくれたけど、神職は国の争い事には口出ししない決まりだ。

 僕を助けてくれた、ウルスに敵対すると見なされるかも知れないのに。

 その上、色々と教わったし、力もつけさせて貰った。

 誰よりも僕の師匠だ。


「イサミ、最後に言う事がある」

「……?」

「地形や相性もあるが、3手以内に相手を倒せなかったら格上、良くて同格だと思え」

「はい」

「自分より強い者と相対した時、逃げろ」

「…………」


 僕1人なら迷わず逃げると思う。

 でも、これからは仲間と戦う、 。

 例え勝ち目が薄くても、仲間がピンチなら逃げる事は出来ないと思う。

 だから何も言えず、俯いてしまう。


「私はお前さんに死んで欲しくないのだ」

「うん」

「お前さんは私の宗派の教えを守る必要は無い。

 殺せる時は殺せ、戦場はそれほど甘い場所じゃない事は分かっていよう」

「分かってる、でもせっかく命の大切さを学んだんだ。ここで手放したくは無いんだ」


 何となく、分かってきた事がある。

 今の所、僕は人と人以外の生きもので命の線引きをしている。

 ウルスの王はたぶん、守る人と、守らなくてもてもいい生きもので命の線引きをしているのだと思う。

 そして、守らなくてもいい生き物に、人の命まで入り込んでいる。だから、人を道具のように使い捨てる事ができる。

 

 このまま僕は人の命を奪っていくと、ウルスの王のように、大切な命の範囲がどんどん狭まって、仲間でも大切な人じゃないから亡くなっても良いと思うようなりそうだ。

 そして、最終的には僕の命さえ無事なら良いと考えるようになってしまうんじゃないか。

 そんな風にはなりたくない。


「相手の命を奪わずに無力化できるのは、相手より数段格上出ないと無理だ」

「なら僕が1番強くなる! そしたら命を奪わずに済む!」

「…………頑固な所は似ているな」


 確かにお坊さんは頑固だ。

 やると言ったらやる人だ。

 僕はそこまでじゃないと思ってるけど、これだけは曲げられない。


「分かった、……負けるなよ?」

「もちろんだ!」

「元気でな」

「お坊さんもね」


 別れを告げた。


---


 お坊さんの背中を見送った後、僕は駐屯地に入った。

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