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勇者  作者: 海目 愚丸
なんやかんや
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第十九話「水に流される」

 出発してから3日程経ち、そろそろ予定されている防衛地点に着くらしい。

 少し斜面になってる森中にある、小さな村を守るべく、ウルスは陣を敷いているだとか。

 

 そしてちょうどその村が見えてきた。

 既に戦闘は起きているはずだと言うが、森は静かなものだ。

 戦の場所は村から離れているのかもしれない、近いと村を巻き込んでしまうしな。


 日の光が森をの隙間から差し込み、鳥のさえずりがよく聞こえる。

 すごく落ち着く感じだ。

 水の音も聞こえてくる。

 涼しげでちょうどいいや。

 

 だが、段々と聞こえてくる水の音が大きくなっている。

 最初は『ジャーっ』て聞こえて来たが、瞬きを1度したら、『バシャバシャ』と、まるで高いところから大量の水が落ちた時見たいな音に変わっていた。

 んー、言うなら滝っぽいなって、思った瞬間だった。


 目の前にあった村がいきなり無くなった。

 大量の水だ。

 左から右へ、木をなぎ倒し、岩も削り取り、家までもが連れていかれる。

 一瞬にして何もかもが濁った水に飲み込まれて、流されていく。


 何が起きたんだ? 

 僕以外の衛生部隊もきっとそう思ったはずだ。

 でも誰も声には出なかった。

 立ち尽くしていた。

 

 そんな中、流れて行く濁流から小さな手が一瞬見えた。

 子供が溺れている、でもまだ間に合うような気がした。

 

 背負っていた荷物を捨て、濁流に向かって走る。


「イサミ!?」

 

 後ろからコトノが僕を呼ぶ声が聞こえてくるが、止まらない。


 濁流に飛び込む。

 一瞬、濁流の中でバランスを崩して飲まれそうになった。

 だがすぐに立て直す。

 

 僕はもっと流れが激しい海流を泳いだことがある。

 あれに比べれば、どうと言うことは、無い!


 流れに乗り泳いで加速する。

 視界が悪いし、目も痛いけど、歯を食いしばり泳ぐ。

 

 見つけた!

 男の子がいる。

 追いついて右手を伸ばし、腕を掴んだ。

 このまま横に飛び出して濁流から抜け出そうとするが、人が映りこんだ。

 女の子だ! 

 今度は女の子が縦に、横に、回転しながら流されている。

 男の子を左手に持ち替えて、右手を女の子に伸ばす。

 どうにか足を掴んだ。


 バタ足をやめる。

 両足を揃えて同時に上下に動かし、足の甲で水を蹴って、一気濁流の中を横に進む。

 もう一度やれば抜け出せると思い、足に力をタメていたら、突然何かが頭にぶつかった。

 視界が悪くて避けれなかった、流されている木か岩か、何かに頭を強く打たれたようだ。

 まずい。

 バランスを崩してしまった。

 両腕が塞がって立て直せない。

 それに、盾が凄い邪魔だ、余計に流れに逆らえない。

 為す術なく流される。


 まずいな。

 僕はまだ息を保てるが、この子達は耐えられないだろう。

 このままでは助からない。

 ならば一か八か、投げよう。

 僕の力で濁流の外まで届くか分からないが、やるしかない。

 

 イイイィ!


 2人の子供を1人ずつ、思いっきり投げる。

 頼む。

 届いてくれ。


 投げ飛ばした後、僕も抜け出そうとする。

 だが次々に障害物にぶつかり、意識が朦朧としていく。

 もうダメだと力が抜けていくと。

 何者かが僕の襟首を掴み、濁流から引き抜いた。


「ゲホッ! ゲホッ!」


 口に入った土砂を吐き出す。

 手で顔を拭って、瞼を開く。


 目の前には、左手に錫杖を持ち、頭に笠を被った、顎髭を貯えた男がいた。


---


 顎髭の男は僕を、彼が野営していたであろろ場所まで背負い、どこかに行ってしまった。

 しばらくすると、子供を2人背負って戻ってきた。


 僕が投げ飛ばした子達だ。


「その子達は無事か?」

「無事だ、気は失っているがな」

「良かった……」


 そこである事がまだだった事に気がつく。


「言い忘れていたけど、ありがとう、助かった」

「礼には及ばん。お前さんこそ、良く2人も救い出せたものだ」

「自分でもそう思うよ」


 周りを見回す。

 随分と流されたな。

 まさか森の中で、水に流されるとは思わなかった。

 濁流は地面に吸い込まれながら、どんどんと小さくなっていってる。

 本来流れてくる水が流れてくる場所じゃないって事は分かる。


「おじさん、何が起きたか知ってる?」

「私にも分からぬ、川の氾濫かと思えば、そういう訳でも無さそうだ。あとおじさんでは無い! まだそんな歳では無いわ」

「え……ごめん」


 でも明らかに、おじさん……。


「よい。私はイズモのヨリスエ、お前さん、名は?」


 長い名前だな。

 でも服装が貴族じゃ無さそうだ。

 

「僕はイサミ、よろしく、えっーと、

 ナンチャラのなんちゃらエ」

「最後の1文字しか覚えとらんがな! 名はヨリスエだ」


 じゃあ、イズモが姓なのか?

 王様とか貴族様の名前の前か後ろにある姓だよな?

 この人、偉い人なのかな。


「まぁ、お坊さんとでも呼んでくれ」

「お坊さん? 偉い人?」

「偉くは無い、知らぬのか?」

「うん」

「神に仕える者だ、神職とも言われる」

「神? 凄い人なの?」

「人では無い、そうだな……魂は分かるか?」

「亡くなった人が成るやつでしょ?」

「それは知っておるのか、そう、それだ。だが、生きているモノにも魂はある。魂が神だ」

「……はぁ」


 なんか変な人に会った気がする。

 てか、いつの間にか火打石で焚き火作って、鍋でなんか作ってる。

 美味しそうな匂いが漂っている。


「そして魂はありとあらゆるモノに宿るのだ」


 あ、まだその話続くんだ。

 んー、でももうコトノ達と合流したいな、

向こうの状況が分からないし。


「お坊さん、僕もう行かないと」

「まて、そう急ぐな、もうすぐ雑炊ができる。兵士なら食える時に食っておけ」


 なんか僕の爺ちゃんと似たような事言ってる。

 食える時に食っておけか。

 あんまりお腹すいてないけど、腹にはまだまだ入る、なら食べておくか。

 衛生部隊の皆が気になるけど、けが人の手当をするだけだし、心配ないだろう。


「具は何が入ってるの?」


 そう聞くと、お坊さんはニヤリと笑った。

 よくぞ聞いてくれたと言いそうな顔だ。

 ていうより言った。

 『まずはそこら辺に生えてた草と、ーー』


 問答のあと、雑炊の匂いでか、すぐに2人の子供が起きた。

 男の子は怖かったと泣きながら、お坊さんから雑炊が入ったお椀を受け取る。

 そして、ありがとうと僕に言った。

 その言葉で、僕は助けられて良かったとよりいっそう思う。

 

 4人で鍋を囲んだ。


---


 子供達は先に食べ終わってから、安心したのか、2人とも眠ってしまった。


 目の前のお坊さんは何杯も食べてる。

 美味しかったけど、たまにすんごく苦い葉っぱが入ってる。


「ご馳走様」


 そう言って、お坊さんは食べ終わったようだ。


「ご馳走様ってなに?」

「ん? それはだな、食べ物を作ってくださった者に対しての感謝の言葉だ」

「作ったのはお坊さんじゃん、自分に感謝してるってこと?」

「雑炊を作った者のは私だけじゃない、雑炊に入ってるこの米は農民が作ったものだ。作った者全員に対しての礼だ。」

「……じゃあ、最初に言ってた『いただきます』は?」

「これから食す魂に対しての感謝の言葉だ」

「魂?」

「そうだ、この米も、草も、茸も、全て魂あるモノだ」


 このお坊さん、さっき、神に仕えてる者って言ってたよな。

 そして神は魂だと、自分が仕えてる魂食べてるってこと!? こんがらがってきた。


「亡くなった人は魂になるよね」

「そうだ」

「全てのモノに魂が宿るってことは、亡くなった人の魂が、この米粒1つに宿ってしまうの?」

「そうなってしまうやもしれん」


 じゃあ、僕の爺ちゃんは米粒1つになってしまったりするのかな。


「だからこそ、米粒1つたりとも残してはならぬし、魂を弄ぶ様な事はもってのほかだ。つまり、全ての命を大切にしろという事だ」

「そうなのか……」

「そうだ、故に、私は食べる事以外で虫1匹、草の1本たりとも命は奪わん」

「それは、なんて言うか、いいね」


 なんだろうか。

 どうしてこう思うのか分からないけど。

 お坊さんの考え方がとても良いモノに思えた。

 自然と、僕も『いただきます』、『ご馳走様』をご飯を食べる前後にやろうと、思えた。


 だが同時に過去の自分を思い出す。

 僕は苦手だとか、美味しくないだとかで、

食べなかった食べ物はあった。

 もっと言えば、この手で獣の、人の命を奪っている。

 それは魂を弄ぶ行為なんじゃないか?

 

 戦で命の奪い合いをするのは当たり前のことだ。憎みあってる訳じゃなくても、自分達のために戦う。

 僕もそれが普通の事だと思っている、躊躇なんてしない。

 だから、ウルスの王が攻め込んで来た時も、酷い人だと思ったが、悪い人だとは思わなかった。


 そんな、そんな僕が……。

 今さら命への感謝の言葉を言ってもいいのだろうか。

 相応しくないのでは無いか。


 僕は箸が止まってしまった。


「すまなかった、兵士であるお前さんに話す事では無かったな。」

「そんなことは……」

「私も他者に信条を押し付けるほど愚かでは無い、気にする事は無い」

「僕はお坊さんの考え方が好きになった、僕もそうしたい。でも僕はあなた見たくなれない、

 だって僕はーー」

「もしお前さんが今までむやみに奪った命に後悔などして無くても、これからの心の持ちようで変わろう」


 そうだろうか、そうなのだろう。

 

 でも昔、僕の村に来た商人が、商いで商品の数をちょろまかした際、村の者がその商人を袋叩きにした。

 商人はもう二度としないと言ったが、村の者は誰も信じず、その商人から物は買わなくなった。

 僕もその商人から物を買わないだろう。

 本当に商人が悔やんで改心したとしても、それを知る術は無いから。


 だから、僕がどれほど命を大切に思って、それを口にしようが、僕が戦で命を奪った以上、きっと誰も認めないだろう。

 

「お坊さんは自分の行いが正しいと思える?」

「それは未だに分からぬ、だが、自分の行いを振り返った時、やって良かったと思える時はある」


 正しいか分からないか。

 でも自分の行いがやって良かったと思えたなら、僕だけは自分を認めてやれる事ができそうだ。

 なら僕でも、今更な僕でも、

これから命に感謝する言葉を言えそうだ。

 お椀に残っていた、僅かな雑炊をかっこむ。


「ご馳走様!」


 食事を終えた。


---


 僕達はこの子達を村に送り届けることになった。どうせ、衛生部隊の皆もその近くにいるだろうしな。

 濁流に飲み込まれた村、どうなっただろうか。

 無事ではあるまいが、この子達に親との再会させてやりたい。

 

 それにしても、あれほど大きな濁流はなんだったのだろうか。

 森の中に木々がなぎ倒されて、湿った道が出来ている。

 僕達はその横を沿って戻っていく。

 すると、戻っていくにつれて、濁流に飲まれて木や岩に押しつぶされた者が多く見えた。

 あまりにも無惨な姿に、僕は顔をしかめた。

 お坊さんと僕で、1人ずつ子供を背負っている。この子達がまだ寝てて良かったと思えた。


 1つ不可解なのは、亡くなった者の中に、あきらかに兵士であろう者が多くいた。

 そして彼らはウルスの兵士でも無さそうだ。

 ウルスの兵士には鎧に爪痕のような紋章があるはずだからな。

 この兵士達の紋章はそれじゃなかった。


 そう思いながら、村に着いた。

 いや、村があった場所か。

 ほとんどが崩れ果て、ここに家が建ち並んでいたとギリギリ分かるぐらいだ。


 村の外側に1箇所に集められている人達がいた。

 どうやら彼らは村人のようだ。

 その者達に子供達を預けて、僕とお坊さんは廃村に入っていく。


---


 瓦礫をまたがって進んでいくと、多くの兵士が見えた。

 そしてその中に、ウルスの王が見えた。

 咄嗟に物陰に隠れる。

 それを見てお坊さんも物陰に慌てて隠れる。

 お坊さんは小声で僕に話しかける。


「なぜ隠れる?」

「え、……体が勝手に、な?」

「お前さん、もしやーー」


 お坊さんは口をつぐんだ。

 ウルスの王の声が聞こえてきたからだ。


「来たか、イナリ」


 イナリ? あの怒ったら顔が怖い人か。


「陛下、首尾はどうですか?」

「貴様の策略通りだ」


 策略? なんの事だろう。


「えぇ、そうでしょう。バレナ兵はノコノコとこの村を占領してくれました。

川を引いて来た甲斐が有りました、フフフッ」


 川を引いてきた?


「立地も素晴らしかった。水門で川をせき止めて水を貯め、一気に放流して村にいたバレナ兵を一網打尽。」


 あの濁流はこいつらがわざと起こしたのか!?

 自分たちの民もお構い無しに、なんて事を。


「あやつらの顔! 思い出しただけで笑いが止まりませぬ、フッハハハハ!」


 イナリは高らかに笑った。


「なんて非情な事を」


 お坊さんはただ一言ボヤいた。

 だが、その言葉には怒りが込められていた。

 

「大した一手ではありませぬが、こちらは無傷で相手の戦力を削ぐことが出来たので、良しとしましょう」


 イナリの言った事に、僕は耐えられなかった。

 無傷だと!?

 村人達の命はどうでもいいのか?

 戦で散る命は仕方ない、だが、イナリは、

ウルスは、戦う意思もない村人を巻き込んだ。

 

 この時、いつもの僕なら、もう少し冷静だったかもしれなかったが。

 先程、命を大切にする自分になりたいと思ったからだろうか。

 

 僕は、王の前に飛び出していた。


 後悔は無い。


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