第十八話「弱点」
僕は今、ウルスの兵舎に来ている。
喉には傷が残っているが、もう痛くないし治った。そういう訳で兵舎に案内された。
「イサミだったか?」
「はい!」
「どこの隊にいたかは覚えてないんだよな?」
「さっぱり覚えてません」
イナリって人の一声で、僕は何故かカラカティッツァとの戦で重症を負って、記憶が一部無くなってると思われてる。
カラカティッツァの兵士ってバレたら何されるか分からないから、このままでいよう。
階級が高そうな兵士が、僕をどこの部隊に入れようかと悩んでいると、横を通り過ぎる女の人と目が合った。
「あれ? 貴方は……」
「なんだコトノ、この者を知っているのか?」
「いや、グウラ城塞から帰還の時に私が看病しただけで、知っている訳じゃーー」
「ちょうどいい、この者をお前のとこ部隊に入れる」
「え!?」
僕の看病?
濃い緑色の髪を後ろで結んだ女性だ、僕よりも少し背が低い。
うーん、見覚えがないな、僕の意識が無い時の話なのだろう。
それにしても僕もびっくりだ。
配属先がいい加減に決められた。
「この人、盾持ってるし、どう見ても戦士ですよね、私のとこ衛生兵の部隊ですよ!?」
「いいじゃないか、盾持ちの衛生兵で」
「そんな……」
まるで部下に面倒事を押し付けるように、上官と思わしき男は去って行った。
2人だけが取り残された。
僕達はお互いに目を合わせる。
「これから……よろしく」
「はぁー、もう、貴方名前は?」
「僕はイサミ、君は?」
「私はコトノ、とりあえず付いてきて」
「はい」
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衛生兵は他の兵士の手当をするのが仕事だ。
要請があれば、戦わないが戦に出て、
けが人の手当をする。
僕は衛生部隊が使ってる医務室と書かれた部屋に案内される。
かなり広く、ベッドが10数個並んでた。
何人かけが人が寝ている。
ここに来て初めてベッドを見たな。
部屋の中にもう1つ扉があり、隣の部屋に続いている。
隣の部屋に続く扉には準備室と書かれている。
準備室には薬の調合に使う変な草や生き物の角や目ん玉など、あと何に使うか分からない道具でいっぱいだった。
ちなみに僕は医務室も準備室も読めなかったが、コトノに教えてもらった。
部屋にいた10数人の他の衛生兵に挨拶をして、歓迎されて僕は衛生兵に異動した事になった。
初日はそれぞれの役割や備品の置いてる場所を説明されて、次の日から仕事だ。
じゃあ、今日はもうやる事が無いなと思っていると、コトノから『暇なら薬草採取を手伝って』と言われたので、手伝う事にした。
本当に暇だしな、あとコトノなら色々聞いても大丈夫だろうと思ったので、ちょうど良かった。
「そういえば貴方、盾はあるのに剣が見当たらないね」
「無くしちゃたんだ」
そう言ったら、コトノは準備室にある山積みの荷物の中に頭を突っ込んでガサゴソと何かを探している。
お尻と足だけが見える状態だ。
しばらくすると、両足をバタバタさせながら出てきた。
手には、剣が握りしめられている。
「はい!」
「……ありがとう」
めちゃくちゃボロい剣だな、長い間ここに放置されていたのだろう。
鞘がもう錆らだらけだ。
剣を鞘から引き抜くと、ギギギイと耳触りな音を立てる。
もちろん刀身も錆びてた。
まぁ、戦う事なんて無いし、いいか。
「じゃあ行こうか」
「うん」
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コトノと一緒に森の中に入る。
するとセミの声が聞こえてくる。
もうそんな季節か。
夏は好きだ、夏に泳ぐ海は最高に気持ちいい。
対して冬はだっ嫌いだ。冬に素潜りするほど嫌いな事は無い。
「この辺りでこの葉がついた小葉を見つけて欲しい」
お、目的地に着いたようだ。
どれどれと見つけて欲しい葉っぱを見る。
葉っぱにぐるぐる模様で、葉が4枚。
「わかった」
両手ぐらいの大きさのカゴを貰って、そこに見つけた葉っぱを入れる。
しばらく無言で葉っぱ集めをしていたが、そろそろある事を聞いてみようかと思った。
「コトノってグウラ城塞から僕を看病してたんだよね」
「そうだよ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
「ところで誰が僕を運んだか分かる?」
重症の僕を誰かがウルスの陣地に運んだはず何だよな。
もしかしてウルスの王かな?
そんなわけないか、理由もないし。
「さぁ、名前は分からない」
分からないか。
「何か特徴があったりしない?」
「うーん、あんまり覚えてないな、あ! でも、右唇に傷跡があった気がする」
右唇に傷跡……。
トラジロウとしか思えない。
あの場に居たし。
でもなんで、トラジロウは僕をウルスの陣地に?
おかげでウルスの兵士と勘違いされて、国内まで運ばれてしまった。
「どうしたの? そんな考え込んで」
「え、あー、僕を運んでくれた人にお礼が言いたいと思って」
「たしかこの街までは一緒だったと思う、でもまだいるかは分からない」
「え!」
トラジロウもこの街まで来ていたのか!
なら直接聞いた方が良さそうだ。
ミノさんもどうなったか知れるかも。
「コトノは運び込まれたけが人に、薄い紺色の髪を持つ女の人見なかった?」
「んー、いなかったと思う」
「そうか……」
ミノさんは来てないのか。
生きてると思いたい、喉を刺された僕でも生き延びたんだ。ミノさんならきっと大丈夫だ。
とりあえず、トラジロウは生きている。
嬉しい事を知れた。
久々に笑顔になった気がする。
つい嬉しくてコトノに駆け寄り、両手を掴んで上下に大きく振った。
「なに! なに!?」
コトノを驚かせてしまった。
よし、葉っぱ集めの続きをやろうとする
「ちょっと!」
だが、そんな僕をコトノが待ったをかけた。
コトノは僕が集めた葉っぱが入っているカゴをじっと見て言った。
「これ違う!」
「え、でも葉っぱ4枚にぐるぐる模様で合ってるはずーー」
「ぐるぐるが逆!」
ぐるぐる模様が逆の葉っぱもあるの!?
「どれくらいが違う葉っぱなの?」
「全部!」
うっそー!
あんまりだ!!
さっきまで笑顔だった僕の顔は、もう悲しみに満ちていた。
「ぐるぐる模様が逆の小葉は滅多に見ないのに、イサミは運がいいね」
「え、じゃあ、結構貴重な薬草だったり?」
「ごめん、薬草にはならない、ただの草」
なんねーのかよ!
全然運良くない。
「……イサミは本当に運が良いのかもね」
「どゆこと?」
「イサミの喉、刺された場所があとちょっとズレてたら助からなかったよ、ってイサミの喉を縫った先生が言ってた」
確かにそれは奇跡的だ。
てか僕の喉、縫われてたのか。
そうだったのか、そりゃ僕の治癒力じゃ勝手に塞がらないよな。
「そんなことより、早く手を動かして!」
「はい!」
直ぐに四つん這いになり、葉っぱを探す。
時が経ち、日が暮れる頃に帰る。
収穫は上々だとコトノは満足気に笑顔でいた。
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僕は薬草を届けたあと、直ぐに街でトラジロウを探した。
聞き込みをして行く内に色々と知った。
この街は元々小さな村だったらしいが、どんどん発展して今や街となった、このまま行けば都市になるほど成長するらしい。
なので街は思いのほか広くて、全部は探せなかった。
それでも幾つか目撃情報があったのだ。
右唇に傷がある青年のだ。
でもどれも、僕が意識が目覚める数日前の話だった。そこからはパタリと見なくなったと言う、つまりどこかに移動した可能性が高い。
トラジロウの事だ、何か考えがあるのだろうが。
本当はカラカティッツァはまだ戦に負けてなくて、反撃の機会を伺ってるとか。
それともやっぱり負けていて、ウルスに徴兵でもされたのだろうか。
はたまた、トラジロウならグウラ城塞で僕とミノさんがやられた後、言葉でウルスの王を言いくるめて、臣下に加わったとか?
んー、どれもありそうだな。
いや、無いか。
とりあえず戻るか。
僕は与えられた兵舎の一室に戻り、これからの事を考える。
とりあえず、衛生兵として働いて、カラカティッツァに帰るための金銭を稼ごうと思っていた。
でもどうやらトラジロウがウルスのどこかにいるみたいだ。
トラジロウを探すべきか、それとも帰るべきか。
トラジロウを探すべくウルスをウロチョロしてたら、すれ違って実はもうカラカティッツァに帰ってたって事になったら嫌だな。
まぁどちらにせよ金銭が必要だ。
兵団は30日で1度お賃金が貰える。
お金を貰ってからもう一度考えよう。
幸いウルスの兵舎にも食堂があって、
1日1回、タダでご飯が食べれる。
食に困ることは無い。
一応望みは薄いが、トラジロウがまだこの街にいるかもしれないから、明日も探そう。
衛生兵は何日かに1度、医務室で夜中ずっと起きて看病する事があるが、基本寝かせておくだけだから、暇らしい。
何とかなりそうだな。
一人部屋で少し贅沢だなと思いながら、その日を終える。
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20日程たって、あと10日でお金が貰えるという時に、面倒事が起きた。
どうやらウルスは既に北にあるバレナ帝国と戦争をしていたらしい。
そして、この街からそう遠くない場所まで、バレナ帝国の軍が攻めてきているのだとか。
そこの防衛戦に僕達衛生兵も加わる事になったというのが、面倒事だ。
医務室で出征の知らせが来た時。
コトノは不安そうに言った。
「また戦場か、嫌だなー」
「もし敵が来ても、僕がここの皆を守って見せるさ!」
「ビビりのくせに?」
「び、ビビりじゃないし!」
僕は君の所の王様に命を持っていかれる寸前にまでされた事があるんだ。
それに比べたら、どうとゆうことはない!
多分……。
「私の方こそ守ってあげるよ」
「いーや! 僕の方が守れる」
「デュクシ!」
「ウッ!」
なんだ!?
コトノが人差し指で僕の脇腹を突いてきた。
痛い訳じゃないが、むず痒い感じだ。
思わず体をよじる。
「守れてないよ? デュクシ!」
「やめてよ! 本当に脇腹は弱いんだ」
また脇腹を突かれる。
くそ! こんな小さな子供が使うような技で追い詰められるなんて。
盾は部屋に置いてきてしまったんだ。
反撃するしかない。
僕も両手の人差し指だけを立てる。
だが、その動作をコトノが見た瞬間逃げ出した。
「待て!」
彼女はベッドの周りをぐるぐると回る、僕も追いかけてぐるぐる回る。
「こら! けが人の周りで何を走り回ってる!」
上官に怒られてしまった。
コトノはケタケタと笑っていた。
笑顔になるのは良い事だ、でも許さん。
絶対に仕返ししてやる。
そう誓いながら、明日の出征に向けて準備をするのだった。




