第十五話「衝撃」
カラカティツァの北側にあるグウラ領。
ここは、この国で最も貧しいと言われる地域だ。
そう言われる理由は雪にある。
雪のせいで農作ができない、海にも面していないので、漁もできない。
なので、ご飯は山で取れる少ない山菜と狩りで調達が主流だ。
また、都市を繋ぐ街道は常に雪かきがされていて、ある程度快適に行き来できるが、それ以外の道は1晩で道じゃなくなる。
しかもこの雪、春夏秋冬全ての季節、年がら年中降っている。
カラカティッツァより北に位置する国でも、冬しか雪が降らないと言うのに。
なのでこの地は呪われていると有名なのだ。
そんな呪われている土地を管理している貴族様は、グウラ城塞に住んでいる。
僕とチカセはようやく呪われた地にたどり着いた。
30日ほど経ったかな。
本陣にて、赤珊瑚第3小団どこにいるか聞いた。
そしたら、ちょうど本陣に戻ってきていると言う。
なのでそのまま第3小団が張っているテントに向かった。
中に入ると、すぐに声がかかる。
「貴様たち、無事だったか」
タロウ小団長だ。
頭にぐるぐるに巻いている包帯は大分が赤く染っている。
他の者はいるのかと見回すが、ここにはいないようだ。
「僕達は無事ですけど、タロウ小団長こそ凄い怪我だ」
「これか? 心配ない」
そう言いながら、左親指だけ立てて、トントンっと自分の頭を小突く。
小突いた所の包帯が、白から赤へと変色した。
全然大丈夫じゃない! と言いそうになる。
「イサミ、チカセ、よく聞け」
急にタロウ小団長の表情が厳しくなる。
僕達の到着がすごく遅かったから怒れる、そう思っていたが、違った。
この地における戦の状況を説明された。
僕達は今、とても厳しい状況にいる。
ウルス軍は次々に関所を突破し、グウラ城塞を次に攻めようとしている。
グウラ城塞を突破されれば、グウラ領の侵攻を阻止する機会はもう無く、近隣の都市まであっという間だ。そうなれば、グウラ領は手放さなくてはならない、都市にいる民も含めて。
言わば、最後の砦だ。
そんな状況にもかかわらず、僕は寄り道を選んでしまった。
いたたまれない気持ちになる。
僕達が少し早く合流したとて、現状は変わらなかったかもしれない。
それでも、兵士としてやってはいけない事をしたと思う。
なので、その場で僕とチカセは遅れた事を謝った。
タロウ小団長は『気にするな! 民を獣から守るのも兵士の務めだ! 良くやった!』、怒られるどころか、逆に褒められてしまった。
よし!
切り替えよう。
今度は城塞を守る。
心のモヤモヤは取れた。
1人じゃ無いけど、村を熊から守れた、なら砦も守れる! できる!
自分に言い聞かせる。
皆はどこにいるのだろう。
「そういえば、皆はどこにいるのです?」
「ああ、既にグウラ城塞に行く準備をしてもらってる、貴様らも準備しろ、今夜出る」
「分かりました」
皆と再開を楽しみながら準備する。
減った物資を補給しに、あちこっち走り回る。
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出発した時には、日は沈んだ後だった。
皆の顔を見るの、すごく久しぶりに思う。
だが、僕の良く知ってる顔とは少し違った。
誰もがボロボロで、あきらかに憔悴していた。
いつも楽しげな雰囲気を纏ってるトラジロウですら、険しい表情をしていた。
この暗い状況をどうにかして変えたかった。
こんな時、そのような力があればどんなにいいことか。
何でも良かった。
僕の言葉が達者ならば、皆を笑わせて、元気にできたのに。
ウルスの軍勢を押し返せる強さがあれば、最初から不安にはさせなかったのに。
そんな、考えてもどうしようも無いことが頭に浮かぶ。
「グウラ城塞に着いたぞ」
トラジロウに肩を叩かれ、ようやく気が付く。
そんなに歩いたっけ、もう目的地についた。
橋を渡ってグウラ城塞に入る。
既にグウラ城塞は2度、ウルス軍を返り討ちにしている。
グウラ城塞は周りが湖で囲まれ、西側に立てかけられた橋でのみ入れる。
だが、この橋を大勢で渡ろうものなら、外壁の上から、雨粒の如く降り注ぐ矢は躱せない。いかに弓矢など、遅いし弱いし当たらない武器と言われてても、この場では猛威を振るう。
2度も撤退を余儀なくされているウルス軍だが、3度目の侵攻に着々と準備しているとの話だ。
あと数日もしない内に攻めてくる。
この3度目は確実に攻め落とす気で来る、なぜならウルス王の出陣が見られたと情報が入って来たからだ。
ここで負けたら国の滅亡にまた1歩進む、だが、ウルス王の首を刎ねる事さえ出来れば、問答無用でカラカティッツァの勝利だ。
たとえ、1対100で確実に勝てる状況でも、王を討ち取られたら負けだ、戦は終わる。
それゆえ、王は戦場になど出ない、普通はな。
なのに、普通じゃない事を幾度と繰り返し、戦果を挙げて生還する様は、どれほどウルスの兵士に勇気を与えてるか、分かったもんじゃない。
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城塞に着いてから2日経つ。
僕は城塞の北側に位置する場所で見張り番をしている。
この凍える湖を泳いで、そこから城壁をよじ登れる奴などいないと思われるが。
それでも見張りは必要だ。
見張りは、第3小団からは僕とトラジロウが見張り役に選ばれた。
そして他の団から2人、トラジロウと彼らはうとうとしている。
夜明けも近いしな。
このままじゃ僕も寝てしまいそうだ。
イメージする事にした。
ウルス軍が攻め込んで来た、そんな状況を。
勝つ気でいる。
たとえウルスの王と合間見えても、必ずその首を刎ねる。
そんな心意気でいるのに、足が震えてきた。
想像しただけで足が震えるとか……僕はなんて臆病なのか。
震えてる場合じゃないのに! もう!
落ち着こう。
目をつぶって深呼吸する。
すー、はー。
すぅー、はぁー。
目をつぶったせいで、他の五感が研ぎ澄まされたのか。
音が聞こえて来た。
すぐにトラジロウの肩を揺する。
「何か聞こえないか?」
「んー? なにも」
トラジロウは目をこすりながら言った。
だが僕には聞けえた気がした。
ガラガラ、ゴロゴロ、そんな音が。
城壁から顔を出して、湖の向こうを見る。
まだ薄暗くてよく見えない、でも何か、大きな生き物がうごめいているような気がした。
ちょうどその時、日の光が大地を照らし始める。
暗闇がどんどんと消されていく。
音の正体が、うごめいていた何かが、ハッキリと見えた。
軍勢だ。
黒くうごめく虫に見えるほど、大軍勢が見えた。
「起きろトラジロウ!! 敵だ!」
「んあ!?」
トラジロウも飛び起きて、城壁から顔を出す。
それを見てすぐにトラジロウはガラン、ガランと鐘を鳴らして、叫ぶ。
「敵襲!!」
鐘の音で次々に人が集まり、敵の数を見て騒ぎ始める。
敵軍勢は湖のそばで動きを止めた。
そして何かが前に出される。
あれは、投石機? 10台ほどある。
どうやってあんなものを雪中で持ってこれたんだ?
よく見ると、車輪に鎖のような物が括り付けられている、あれで滑り止めができるのか?
色々と疑問が湧く中、1番はやはり何故城塞の北側に現れたのかだ。
橋を通りたければ、投石器で橋側の城壁を壊せばいい。なのに、何故北側に?
僕の疑問に答えるかのように、投石機から何かが射出される。
そして弧を描きながら、凄いを破壊音を立てて、僕から少し離れた、右側、つまり東側に落ちた。
土煙がおこり、一瞬にして周りがよく見えないほど拡がる。
振り返り、ゲホゲホと咳払いしながら、晴れるのを待つ。
徐々に土煙が晴れて、何が飛んで来たか分かる。
最初は目くらましのための何かかと思った、でも違った。
岩や石でもなかった。
人だ。
人が飛んできたんだ、投石機を使って。
その者は左手だけに手甲を着けて、右手に槍を持っていた。そして、背中にも1本剣を背負っている。
かの者をこの目で見るのは2度目だ。
1度目は、自分の村でその力と技を見せた。
2度目は今、知略と度胸を見せた。
ウルスの王がそこにはいた。




