第13話「氷解」
撤退から7日かけて、僕達は街に帰ってきた。
知らなかったけど、この街はアル・リア領にある、オーチルという名の街だ。
間違えた、街じゃなかった。
城市だ。城市オーチル。
街と何が違うんだとトラジロウに聞いたら、
『お前の村には学び舎は無かったのか?』と聞かれた。これに対して『無い』と答えたら、黙ってしまった。
僕達の話を聞いてたのか、キヨマルが代わりに教えてくれた。
いくつもの街が何個も集まり、その土地全体を管理する貴族様がいるなら都市だという。
さらに、都市を囲む壁があり、守りに特化した都市は城郭都市と言う。
略されて城市。
でも、中には1箇所しか囲まれてない城塞都市というのもあると言われた。
それも略したら城市。
もう!
略したらどっちか分からないじゃないか!
僕の後ろでチカセとケンセイが聞き耳を立てて、
『そうだったのか』と声が聞こえた。
どうや彼らも学び舎には行った事が無いようだ。
僕だけじゃなかったとホッとした。
そんなこんなで帰ってきた。
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行きと帰りは長い割に、戦場は一瞬だったな。
帰って来てから数日。
いくつかの団が帰ってきたり、帰らないで別の戦地に赴いたり、はたまた、どこの戦は勝ち、どこが負けたなど、情報が多く入ってくる。
結論から言うと今回の奪還作戦は失敗だった。
敗因はいくつかあった。
砦を取り戻すというのは、本来は季節を跨ぐほど準備が必要だったが、あえて直ぐに攻めた。
戦力は足りなかったかも知れない、それでも
奪い取ったばかりで、ウルスの兵も疲弊している、敵は予知出来ないだろうと、作戦会議で多くの小団長、中団長がそう考えたそうだ。
たが、あろうことか、ウルスはそれを読んでいた。
僕達が想定する戦力より大きかった。
数日前まで北の戦場で目撃されたウルスの猛者が、何人も既にスクデ砦に移動していて、
待ち構えていた。
僕達小団と対峙した、ハヤタケ……スサノオだったか? あの巨漢もその1人だ。
完全に策が読まれていた。
ウルスにはとんでもなく知略に優れた男がいるとか。
防衛ラインを下げる事を余儀なくされた。
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僕達第3小団には待機命令が下された。
タロウ小団長がすぐには戦えない状態だからだろう。
現在、僕達は皆でタロウ小団長のお見舞いに来ていた。
「お体はどうですか?」
キヨマルが聞く。
「3日も経てば戦えるようになるじゃろう」
かなり早いな。
こんな重症なのに。
なぜそう思うか。
それは、左腕から肩辺りが骨折していると言われて、左腕を添え木と包帯でぐるぐる巻きにしてる僕が、軽傷と診断され、全治10日間ほどと言われたからだ。
「なんで軽傷の僕が10日で、重症のタロウ小団長が3日なんですか、おかしくないか?」
「おかしくないやろ、なんで歴戦のタロウ小団長が、ペーペーのお前より傷の直りが遅いねん」
どうゆう事だ。
ちんぷんかんぷんな顔を今、僕はしているだろう。
そんな僕の顔を見て、タロウ小団長が言う。
「長く戦士をやっていると、戦場に適した身体になるという事だ」
戦場に適した身体?
身体から剣が剣でも生えて来るのだろうか。
「イサミは、漁師だったろ?」
「うん」
トラジロウに聞かれて答える。
「なら海に潜ったりするだろ? 最初から長く潜れたか?」
「最初からじゃないよ、海に潜り続けてると長く……あ!」
「そういうことよ、長く戦ってる者ほど、傷の治りは早いし、身体は丈夫になる」
なるほどなー!
じゃ僕の身体も変わっていくのか。
「歴戦ともなれば、腕を切り落とされても、
くっ付けとけば2日ほどで治るやつがほんどだ」
それはさすがに同じ人とは思えない。
僕がフンフンと頷いていたら、
トラジロウがニヤリと笑った。
「もっと言えばな、ずっと馬鹿、阿呆って言い続けると、言われた奴は頭に花が咲くんだぜ!」
「え!?」
「イサミの阿呆阿呆阿呆馬鹿馬鹿馬鹿まぬけ、うんち阿呆阿呆阿呆阿呆馬鹿ーー」
「い、嫌だ!!」
すぐさま手で耳を遮る。
だが、右耳しか塞ぐ事は出来なかった。
左腕が動かせない、早く左耳を塞がないと!
このままじゃヤバい!
そう思い、近くにいたチカセに助けを乞う。
「チカセ! 早く僕の左耳を塞いでくれ!」
チカセは呆れた顔で、『はいはい』と言いながら僕の左耳に自分の左手を被せる。
「こいつ既に阿呆やろ」
「ふふふっ」
「ガッハハハ」
「なんて事だ」
ケンセイ、アンネ、タロウ小団長、キヨマル達が口を開けてなにか言ってるが、僕には何も聞こえなかった、ただ、真剣に耳を塞ぐ事で精一杯だった。
トラジロウが言っていた事は冗談であると分かったのは、僕達の騒ぎ声で、隣の部屋からうるさいと追い出されてしまった後だった。
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自分達の部屋に戻ることになった。
「トラジロウ、酷いじゃないか」
「悪かった、悪かった……、思い出しただけで、ぐひひッ」
全然悪びれた様子ではないし、
すごく笑いを堪えてる。
「イサミはもっと人を疑った方がいいぞ」
「あぁ、君の事はずっと疑うよ」
「それは、やりすぎじゃんか」
ムッと眉間に皺を寄せて、睨む。
「戦場でもそうやって、すぐ顔に表情出てたけど、直しとけよ?」
「え、出てた?」
「ああ、アンネちゃんも言ってたぜ、何考えてるか分かりやすいって」
「なんで出さない方がいいの?」
「そりゃ相手に自信が有か無いか、分かっちゃうしな、まぁ、中にはわざと表情を出して有利な場に誘う奴もいるけど、普通は表情は出さないな」
今までの、戦う者の顔を思い出す。
初めて戦った盗賊は、余裕そうな顔だった、たしかに、ひと目で油断してるって分かった。
ウルスの王様は無表情だったな。何考えてるか分からなくて、強さも相まって、不気味だ。
ミノ中団長は不敵な笑みをしていた、
こちらが不利かもと思わせるような。
あれは、わざとだったのか。
いや、いつも笑顔だった気もする。
あとは……トラジロウを追ってた、偵察兵も無表情だったな。
例外はタロウ小団長と巨漢の男か、
多分そんな事考えて無い人達だ。
こう思い出してみると、確かに表情は出さない方がいいな。
でも、勝手に顔に出るからな。
ならば。
「よし、顔に表情を出さないためにも、手合わせだな! 修練場に行こう! トラジロウ」
「でもおまえ、左手動かないじゃん」
「右腕は剣が振れる!」
「お、おい! 腕を引っ張るな! 分かった、
行くから、引っ張るな!」
すぐにトラジロウが手合わせに付き合ってくれると分かり。
思わずニッコリしてしまう。
「くそ! そうだ、キヨマルと茶髪男も呼ぼうぜ!」
「いいね! アンネとチカセも呼ぼう」
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皆で剣の修練をした。
皆であれこれ、教え合った。
この技は使いやすくていい、とか、連携はこうしないか、とか、色々学んだ。
皆、戦場に行く時は、ほとんど喋らなかったが、帰りはずいぶん仲良くなった気がする。
戦友ってやつか?
それはさすがに早いか。
途中、気がついたらトラジロウはいなくなってた。
トラジロウは皆と仲が悪いという訳じゃない。
ていうか、1番最初に皆と打ち解けたのは
トラジロウだったと思うし。
ま、気分が乗らないなら仕方ないか。
修練の続きをやろう。




