第十一話「雷の身無し子」
弾き飛ばされて、地面に刺さった剣を拾う。
自分がいかに、拙い技術かを思い知らされる。
そして相手がいかに、多岐にわたる策があり、それを可能にする技術があることも。
僕は教わった技をまだちゃんと自分の物にできてない。
表面をなぞっただけだ。
ミノさんなら、こうはならない。
奥歯を噛み締める。
まぁいい。
仲間に助けられようと、運がよかろうと、
勝ちは勝ちだ。
ミノさんもそう言ってた!
後で考えればいい。
今は他の味方と合流が先だ。
すぐさま、アンネと共に最初の待機地に向かう。
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戻ると、そこには立ってる者が3人、倒れている者が2人。
が、すぐにホッとする。
キヨマル、ケンセイ、チカセ、皆無事のようだ。
足元に転がってるのは、敵の偵察兵だった。
ケンセイだけは、とても不機嫌そうだった。
キヨマルに何があったか聞く。
どうやら、キヨマルとケンセイが向かってくる敵兵を抑え、チカセに逃げてる1人を追わせたらしい。
チカセは、逃げてる敵に追いついて、
足を切りつけたが、取り逃がしてしまったとの事だ。
ケンセイは、敵を生け捕りにしようとした
チカセに怒っていた。
最初から、首を刎ねてりゃ良かったと。
「ごめんなさい……」
今1度みんなにそう言ったチカセは、
しょんぼりしてた。
「まぁまぁ」
ケンセイを静めるキヨマル。
言葉を続ける。
「とりあえず、相手もこちらも、
情報を持ち帰ってお相子って事でいいじゃないですか」
敵は僕達が潜んでいるの知った。
僕達は敵にバレた事を知った。
うーん、こちらの方が不利に思うな。
いつ、奇襲が来るか分からないし。
僕達がバレた以上、敵の索敵範囲も広がるだろうし。
僕達は、敵にバレたなら本陣に戻るか、
作戦通り、このまま僕達だけで敵を引きつけるか、悩んでいた。
本陣までも敵にバレてたら、戻るべきたが、
バレてないのであれば、続行すべきだ。
そう僕達が頭を悩ませてたら、
ガサゴソと草むらから音がした。
振り返ると、人影が2人。
月明かりで薄らと、森の中が照らされる。
よく見えない。
剣の柄に手を伸ばそうとしたが、すぐにやめた。
タロウ小団長とトラジロウだった。
「無事で何よりだ」
そう声をかけて来たタロウ小団長に、
これからどうするのかを聞く。
どうやら、バレたのは僕達だけらしい。
なので、このまま作戦通りに行くようだ。
「予定では明日の早朝だったが、
儂らはこれより砦の南側に移動し、陽動作戦を開始する」
「「了解!」」
歩いて移動する。
トラジロウとタロウ小団長は、森に来る時に本陣に置いてきた馬を連れてきたようだ。
何故だろうと思い、
歩きながら、タロウ小団長に質問する。
「この馬たちは?」
「おー、言い忘れておった。
儂が撤退を指示したら、本陣には戻らず、
馬でそのままスクデ領を出る」
「こんな少数で、囮になりますかね」
「少数だからこそなるさ」
少数で来るなら、強者達に違いないと、
敵はそう思うから、無視できないという事か。
あれ、でも、敵もそれを分かってたら、
強者で出迎えてくるのでは?
「相手も強者が出て来るのでは?」
「案ずるな、矢や投石が当たらん程度の森から、
攻め込む意思さえ見せつけてやるだけでいい」
「分かりました」
直接戦う訳じゃないのか、
僕達の本隊と別の小団に割かれる人員を減らしたい、あわよくば対応も遅らせたいってところか?
「なんやお前? ビビってんのか? やっぱり
腰抜けやないか」
茶髪の男の人、ケンセイにそう言われる。
違う! と言いたかったが否定出来なかった。
さっきだって、戦闘が終わると足が震えた。
自分では勇気があると思ってたが、
そうじゃなかった。
「イサミは腰抜けじゃねぇ!」
「あ?」
僕の代わりに否定したのはトラジロウだった。
彼は僕が盗賊と戦うのを見たから、僕は勇敢だと、度胸があると思ったのだろう。
たが、あれは村のみんなが、ハルがいたから、僕は戦う事を選んだ。
僕が1人なら、きっと戦う事はしなかっただろう。
きっとあれは勇気なんかじゃなかったんだ。
そう思うようになっていた。
「チカセちゃんの事も責めてばっかで、
そんなに言うならおめぇが飛脚を追えば良かったじゃんかよ! ヴェェェェェェー!」
「あ!!? 頭に花畑咲かさせたるわ! 」
トラジロウは両手の人差し指で、
口の両端を横に引っ張り、舌を出しながら
ふざけた様子で言う。
両目も別々の方向を向いている。
どうやってんだあれ。
もう頭から花が咲いてそうな顔だ。
それに対して、ケンセイはとてもお怒りだ。
手はもう背中の剣の柄をがっしり掴んでいる。
ギラり、と鞘から刃を見せた瞬間。
「こんな時にやめんか! コラ!」
2人の頭部に拳骨が飛んで行く。
「喧嘩なら帰ってからにしろ、もうすぐ着く」
タロウ小団長の言葉でみんなが気を引き締める。
さっきまで怒っていたケンセイも、冷静に鋭い目付きに変わる。
トラジロウも……、いや、まだ両目は別々の方向見てるし、まだ口角引っ張ってるし、舌も出してる。
いつまでやってるんだ。
見なかった事にして、深呼吸する。
「フー」
もう目の前だ。
砦の南外周に来た。
森を出たらすぐ目の前に、砦の角、側防塔がある。
たが、そこまでの高さでは無い。
地形的に、ここだけ低くいのか。
ロープが届く高さだ。
全員に鉤爪がついてるロープが渡された。
「全員で壁を登る、バレたらすぐに森まで後退、
バレなかったら、上で何人か倒して、ヤバくなったら降りる」
「「了解」」
「よし、トラジロウ、作戦開始を本陣に報せに行け」
「ほいきた」
「どれくらいかかる?」
「線香の半分ってところかな」
「分かった、その時に作戦開始とする」
トラジロウの背を見送る。
しばしの時を待つ。
「よし、行くぞ」
タロウ小団長の掛け声で、一斉にロープ投げて、鉤爪を引っ掛ける。
そのまま、よじ登る。
鉤爪を引っ掛ける音で、もうバレててもおかしくないのに、上から覗くものはいない。
そのまま登り終えた。
かなり大きい側防塔のようで、
屋上が円形の広場になっている。
円の端には、囲うように、等間隔で松明が設置されている。
闘技場見たいだな。
そこにいるはず数人の見張り番はいなかった。
代わりに、真ん中に1人だけいる。
そいつは椅子から立ち上がる。
男だ、男が立ち上がった。
その者は、かなりの巨漢なのが分かる。
その者は、顎に髭が無いが、歳はかなりいってるように見える。
その者は、椅子の斜め前に突き刺さった、
大きな剣を右手だけで引き抜く。
そして、左手で椅子を持って側防塔の外に投げた。
「遅かったな……」
まるで、待っていたと言わんばかりの台詞を言う。
次第に、奴の剣にビリバリと音を立てながら、紫と白い光が帯びる。
「全員撤退!!」
そう叫んだタロウ小団長と、
外に投げ捨てられた椅子が、
ガシャンと壊れる音と同時だった。
巨漢の男は既に僕たちを全員薙ぎ払うのに、
十分な距離まで飛んで来ていた。
次の瞬間、バギン! っと大きな音を立て、
凄まじい衝撃波と風圧が生じて、僕達は吹き飛ばされる。
ゴロゴロと転がり、端にある出っ張りにぶつかった。
すぐに起き上がり、
クラクラしながら正面を見る
タロウ小団長が巨漢と鍔迫り合いをしていた。
今の凄まじい一撃をタロウ中団長が受け止めたのか!
受け止めてなお、あれほどの衝撃なのか!
他の者はどうなったか見る。
だが、誰1人として見当たらない。
衝撃で全員塔から落とされたのか?
なんなんだこいつは!
「どうした! リュウよ! 衰えたか?」
「貴様こそ、随分変わったのう、ハヤタケ!」
巨漢の男は嬉々として話しかけ、
タロウ小団長が応える。
「よせ、その名はもう古い、俺様は陛下から
スサノオと立派な名を授かった」
「儂ももうリュウは名乗っとらん、今はタロウじゃ」
あぁ、今の衝撃で僕も塔から落ちてれば良かった。
そうなってれば、こんなのと戦わずに済んだのに。
タロウ小団長は撤退を僕達に言い渡したが、
僕は意識があるし、動ける。
味方が戦ってるのに、背中を向けるなんてできない!




