第十話「初陣」
まず動いたのはトラジロウだった。
「報せに行く!」
そう言い残したトラジロウの姿は、
もう見えない。
次に動いたのは、キヨマルと茶髪の男の人、
そしてチカセだ。
キヨマルに聞いたが、茶髪の男はケンセイと言うらしい。
キヨマルとケンセイが森の中を、物凄い勢いで駆け抜ける、チカセもそれ以上の速さで木を伝う。
僕とアンネは少し遅れてみんなを追いかける。
敵も既に次の行動へと移っていた。
背中を僕らに向けて逃げている。
最初は気が付かなかったが。
他にも全身を黒い服で覆ってる偵察兵? が、
数人、1、2……5人!
1人は逃げてる、
4人はこちらに向かってくる。
違う! 4人の内2人はトラジロウが走った方に行こうとしてる。
止めなければならない!
アンネもどうするべきか決まったようで、トラジロウの方へ向かってる2人を追う。
僕はアンネを追いかけるが、どんどん離されていく。
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アンネが見えなくなってからしばらしくして、
少し開けた場所に出た。
すると、アンネが2人と対峙しているのが見えた。
敵兵はトラジロウを追いかけるのをやめたようだ。
僕が見た時には、敵は攻撃を仕掛けていた。
2人同時にアンネに刃を振る、
それをアンネが華麗に避けて、剣で反撃する。
だが、空振りに終わる。
そんな攻防が繰り広げられる中、
敵の内の1人が回避と同時に懐から、短剣をアンネに投げつけた。
そこにようやく追いついた僕が、
間に入り、盾でガギンっと弾く。
背中から剣を引き抜く、
これで2対2だ。
ミノ中団長に教えて貰った事を今1度思い出す。
盾を使い、
敵の剣をいなすか、
振り下ろすている途中の剣を弾くか、
もしくは、懐に入って剣を振る事を出来なくする。
そしたら、相手は体勢を崩す、そこに剣を撃ち込む。
きっとできる。
僕は今か今かと、敵が飛び込んでくるのを待つ。
すると、
敵の1人が、腰の短剣に手をかけた。
それを投げると同時に、もう1人が突っ込んでくる。
短剣は僕の顔目掛けて、まっすぐ飛んでくる。
僕は短剣を防ごうと、盾を顔まで持ち上げて構える。
だがそれが、いけなかった。
短剣は弾けた。
たが、僕は盾を構えたせいで、
左下の視界が、自分の左腕のせいで遮られてしまった。
もう1人は既に、僕の左下に潜り込んでいた。
「ウッ!」
自分の失敗に気が付くのが遅かった。
既に敵の剣は、僕の左側から下から上へと振り抜かれている。
しかし、
僕の左耳に浅い切り傷を残すだけだった。
僕のミスを補うかのように、そうはさせまいと、後ろからアンネの剣が振り抜かれたからだ。
敵はそれを避けようと、踏み込みが1歩足りなかった。
僕も身をよじらせて最大限、回避しようとしたのが、紙一重で僕の命を繋いだ。
どれか1つ、欠けてたら終わりだった。
額から汗が垂れる。
「はぁ……はぁ……」
僕だけが息をあげている。
敵も馬鹿じゃないというより、僕が馬鹿だった。
それはそうだ、
相手が盾持ちなら、盾持ちの対処があるだろう。
どうしようか、
相手に先手を取らせたら今みたいに、盾を掻い潜ってくる。
僕が先手で動いても、僕の遅い剣は当たらない。
違うな……、考え方が間違ってる。
勝つための軸を僕で考えてはダメだ。
さっき一瞬見えたが、アンネの剣は僕より速く、強い。
ならば、アンネが1対1を出来るように、片方の敵を僕が引き止める。
アンネが勝てば、2対1。
これが勝ち筋だ。
たぶん。
これしか思いつかないし。
少し後ずさりしてアンネに近寄る。
盾で口元を隠し、小声でアンネに声をかける。
「1対1なら勝てそうか?」
「左にいるやつは分からないわ、でも右にいるやつなら勝てるわ」
「わかった、左は僕が引きつける」
アンネが頷く。
僕はゆっくりと息を吐いて、息を止めた。
そして次の瞬間、前傾姿勢で駆け出す。
相手の反撃を警戒するため、盾を構えながら、
そして間合いに入れた瞬間に剣を振る。
しかし、簡単にバックステップで避けられてしまった。
「ハアッ!」
その瞬間、僕の後ろをついてきてたアンネが、地面を1歩蹴って、もう片方に向かって飛ぶ。
矢よりも速く、鷹よりも速く。
それを見届けてから、
僕はすぐに目の前の敵に目線を戻す。
すると、彼は腰の短剣に手をかけていた。
またか!
投げられる短剣。
しかし、今度は僕を大きく外し、左上へと飛んでいく。
うん、外れるな、視線を敵に戻そう。
ん? ……なんだあれは。
相手の手先から1本の線が光って見える。
夕日に照らされて、反射している。
っ! 短剣に糸をつけてるのか!
奴は腕を振った。
すると、すぐに明後日の方向に飛んでいった短剣が、僕を目掛けて返ってくる。
それをどうにか、左手の盾を後ろに振り叩き落とす。
しかし、それを受けて敵はすかさず、素早く詰めてきた。
僕のガードが崩れたのを、好機と言わんばかりに。
盾でのガードは間に合わない、剣で捌くしかない!
剣技の差は歴然だった。
1度目の撃ち合いで剣をはじかれ、どっか飛ばされて、尻もちをする。
2度目はなかった。
止めの一撃を、盾でどうにか防ぐのが間に合うか、
という時、相手の喉に剣が突き刺さった。
持ち主を見ると、アンネのだった。
「少し遅れましたわ」
「ゴフッ」
喉から血を垂らしながら、敵は倒れていった。
それを見て、僕は呼吸を取り戻し、振り絞るように言った。
「はぁ……ふー、助かったよ……」
地面に尻をついた僕に、アンネが手を差し伸べる。
アンネの手は、ゴツゴツとしていた。
僕の手もゴツゴツしているが、それとは違う感じだ。
兵士になってからの初戦闘は勝ったが、
苦い気分だ。
このままでは、命がいくらあっても足りないな。




