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6. 狂い咲き


狂い咲き(狂化種)……?」


 魔物の中には稀に『狂い咲き』と呼ばれる突然変異が生まれる。その能力値は大幅に上昇し特殊な魔法など通常種とは異なる攻撃を仕掛けてくる。狂暴性は増し、レベルが数段上がった強さの魔物と変貌する。


「また来るぞ!」


 再び火球が二人目掛けて迫ってきた。ザアラがルウナを脇に抱えぎりぎりで横に跳び避けた。その動きを読んでいたのか、着地した二人へマーレが猛然と突進してきた。


「チッ! 投げるぞ!」


 ザアラはルウナを思いっ切り投げ飛ばした。


「キャアっ!」


 一瞬ふわりとした感覚に包まれ彼女は小さな悲鳴を上げた。なんとか体を捻り、転がりながら着地した。ルウナを投げたザアラはマーレに対し一歩踏み込むと大きく跳び上がりマーレの背中を滑りながら剣を立て切りつけた。マーレの背中から血飛沫ちしぶきが吹き出す。


「ブギャアァァーー!」


 ダメージを負いながらもマーレは壁に激突する寸前で急停止する。くるりと方向転換すると間髪入れずに再びザアラへ突進してくる。全身から炎が噴き出しスピードも増した。


 ザアラは先程同様、前に一歩踏み込むと前方へ跳んだ。ザアラがマーレの背中に届こうかという瞬間、マーレは前足を強く踏み込むと、後ろ足を蹴り上げ逆立ちするような格好となった。


「なっ!?」


 迫り来る壁のようなその背中を避けることが出来なかった。ザアラは叩きつけられたように地面へと打ち付けられた。



「ザアラさんっ!!」



 仰向けに倒れたザアラはピクリとも動かない。ルアナは急いで駆け寄ると光魔法を唱える。


リキューリオ(回復)!」


 彼女が手をかざした刹那、二人の間に火球が飛んできた。ドォンという爆音と共にそれぞれ逆方向へと吹き飛ばされる。ザアラはまるで人形のように壁にぶつかるとグシャリと顔から地面へと落ちた。ルウナ目にはその様子がスローモーションのように見えていた。



――――プチン。



「なぁにしてくれてんだぁぁぁっ! こんのぉやろぉぉぉぉーーー!!!」



 彼女が魔物の咆哮が如く叫ぶと全身から光が溢れ出した。それはまるで抑えていたものがその殻を突き破って噴出するかのようだった。光に包まれたルウナが地面を蹴る。瞬時にマーレへと肉薄すると拳を振り上げ横っ腹を殴りつけた。


「うおぉぉりゃぁぁーー! ソフィアーレ(吹き飛べ)!!」


 いつもは体の汚れを取る時にしか使わなかった光魔法を拳へと集中させる。殴った瞬間、その拳から光の衝撃波がマーレに叩き込まれる。たったその一撃でマーレの体の半分近くが大きく抉れた。


「ピギャアァァァーー!!!」


 マーレは壁まで吹っ飛ぶと、その衝撃で壁と天井がビリビリと地響きのように揺れた。



「まだまだーーーっ!! プロテジーナ(護りを)!」



 ルウナは物理攻撃反射の光魔法を展開させる。板状の光が現れるとそれをマーレへと投げつけた。それは高速回転しながら直線の軌道を描き、まるで鋭いやいばの如くマーレの体を切り裂いた。



 暫く気を失っていたザアラは激しい衝突音で目を覚ました。ぼやけていた視界が徐々に焦点を取り戻すと光輝くルウナが目に入る。


「あれは……ルウナか?」


 彼が目にしたのは怒り狂った表情のルウナが次々に攻撃を繰り出している姿だった。ズタズタに切り刻まれたマーレはすでに息絶えているようだった。



「あれじゃまるで――」


 《《狂い咲き》》だな。呆れたような笑いを浮かべ彼はぽつりと呟いた。



 魔力が尽きかけた頃、ルウナはようやく攻撃の手を止めた。大きく肩で息を吐き膝に手を置く。マーレの亡骸はすでに迷宮へと吸い込まれ始めていた。


「はぁはぁ……」


 全身汗だくで体中が熱い。しかし彼女は戦いの後の高揚感と爽快感を感じていた。 心地良い疲れが全身を駆け巡る。



「あっ! ザアラさん!」


 ハッと思い出したかのように彼が倒れていた場所を見る。座り込んではいたが意識があるようで彼女はホッと胸を撫で下ろした。急いで彼の元へと向かうと、ザアラは笑いながら小さく拍手をしていた。



「大丈夫ですか!? ザアラさん!」


「大丈夫大丈夫。いやー見事な戦いっぷりだったよ」


 パチパチと拍手の手を止める事もなく彼は笑顔で彼女を称えた。 


 ルウナは恥ずかしさで顔を赤くしながらも治癒魔法をかけた。


「ザアラさんが飛ばされたのを見た時、カァーっと頭に血が上って。気が付いたら魔物に殴り掛かってました……せっかく回復してたのにあの豚に邪魔されて」


「えっ? 殴ったの!?」


「はい……思いっ切りやったら壁まで吹っ飛んでいきました」



 ザアラはぽかんと大きく口を開けると、暫くして大声で笑いだした。


「ハァーハッハッハ! あいつをブッ飛ばすなんてたいしたもんだ! もしかしておれより強いかもしれないね」


「そんなわけないです! まぐれですよ。火事場の馬鹿力ってやつです」




 ザアラがある程度回復したところで二人はマーレを倒したあたりへとやってきた。亡骸はすっかり消え去り、後には赤い魔血晶が転がっていた。


「こりゃ立派な魔血晶だ。やっぱり狂い咲きの迷宮主だったからだな」


「高く売れますかね?」


「えぇ! これは売らずに持っておこう。君の初討伐の記念でもあるし」


「……わかりましたよ」


 ぷくーっと頬を膨らましながらもルウナも渋々それを了承した。その時、部屋の奥がまばゆい光で照らされ始めた。強い光が徐々に収まると地面に魔法陣が現れる。


「あれは転移魔法陣だな。迷宮主を倒すと出現するらしい。あれに入れば迷宮から出られるよ」


「じゃあとっとと帰りましょう! お腹すきました」



 今日はお祝いのご馳走だな、というザアラの言葉を聞いてルウナは唾をゴクリと飲み込んだ。





読んで頂きありがとうございます。


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