魔術師
「ああ、そうだもう一点魔力がある者には特徴があってね。君の足の裏、左右どちらかに不思議な紋章のようなものはないかい?」
そう問われ、反射的に答えた。
「あります!」
「やはりそうか。これも私たちの研究の成果で分かった事なんだが、魔力がある者には必ず左右どちらかの足の裏に不思議な紋章があるんだ。」
私がそれに気づいたのはごく最近の事だった。たまたま見つけ、いつからあるかもわからないそれを、不思議そうに見つめる事しか出来なかったが、今答えが分かったのだった。
「はは!素晴らしいな。同時にとても羨ましいよ。それは私にはないものだからね。君は魔力を持った事を誇りに思うと良い。ただね、その紋章、決してこの施設以外の者に見せてはいけないよ。君はまだ子供だ。攫おうと思えばいつでも攫える。魔力のある者は利用価値があるからよからぬ事を企む奴はいくらでもいるからね。自分の身を守るためにくれぐれも気を付けなさい。」
「はい。分かりました。」
ドンノの話を聞き、初めて自分の能力をまともに評価され舞い上がる程嬉しかった。それと同時に、スラムで他の孤児たちが突然いなくなる事の恐怖を知っており、いなくなった者たちのその後も噂程度であれば聞いており、それがスラムで暮らすよりもどんなにひどいものかと分かっていた為、絶対に攫われてはならない、自分の身は自分で守らなければとより一層気を引き締めた。
真剣な表情をした私に合わせるようにしてドンノもまっすぐ真剣な眼差しを向けると、
「君は魔術師になりたいかい?」
と問いかけた。
「なりたい!」
間髪入れずにそう答えた私は、咄嗟に出た一言にバツが悪そうな表情をした。
出来るだけ行儀よく話そうと思っていたところ、思いもよらない問いかけに反射的にそう答えてしまったからだ。
それを聞いたドンノは満足そうにニコリと笑うと続けて聞いた。
「では、魔術師とはどんなものか、わかるかい?」
「魔術師とは…。魔術師とは、魔術を使えて、国や貴族のお抱えになる、すごい人…です。」
分からないながらも何とかひねり出した私はおずおずと答えた。
「はは!すごい人か!まあ概ね正解だ。今君が答えてくれたように魔術師とは、国に仕える者と、貴族に仕える者の2種類存在している。国に仕える魔術師は皇宮魔術師と呼ばれ、なるためには高い知識とより確かな魔術の技術が必要であり、魔術師の中でも実力はトップクラスと言えるだろう。かといって貴族仕える魔術師がすごくないというわけではなく、皇宮魔術師になれる実力がありながらもあえて貴族に仕える者もいると聞くくらいだ。まあどちらにせよどちらもすごいという事には変わりないわけだ。」
ドンノはキラキラと瞳を輝かせる私を満足そうに見ながら話しを続けた。
「さて、それじゃあ君はどのようにして魔術師になるか知っているかい?」
私は固まった。街の大人たちによる噂程度の知識しかない私はそんなことを考えたこともなかった。
どうやってなるんだろう…。私は何も魔術師のことを何もわからないし知らない。にもかかわらず当たり前のように魔術師になろうと浮足立っていた心に影が差したようだった。