限界
ドンノの言葉通り、今日より魔力提供量が元に戻される事がウォーニーの口から告げられた。
その宣言に皆わかりやすく安堵の表情をみせ、喜んだ。そんないつぶりかの和んだ雰囲気に私の顔も思わず緩んでいた。
だが今日から今までの皆の分以上の魔力を負担することに対して不安がなかったわけではなかった。その不安をかき消すためにまだノルマに達しない仕事を黙々とこなした。随分集中し時間を忘れた頃、やっと魔力提供の順番に呼ばれる。ふぅと一呼吸おいてから立ち上がると、少し重たく感じる足でウォーニーの前に向かった。
「来たか。聞いている通り今日から皆の分、それ以上を負担してもらうことになる。いいか。体が辛くなったら休憩しても良い、君のペースでゆっくりやりなさい。…無理しないように。」
「はい!ありがとうございます。」
少し不安な表情をしたウォーニーからの思わぬ心遣いに笑みが溢れる。そのお陰か少し緊張がほぐれ、幾分かリラックスした状態で挑むことが出来そうだった。
「いきます。」
一呼吸の後、意を決した私は水晶玉に手を置き、言われたようにいつも通りに魔力を流していく。今回私が引き受けた皆の魔力を含めると、ランプ162個分という普段とは桁違いの量であったが、序盤は特に力を加えることなくすんなりといった。
しかし、50個を超えたあたりから徐々に体が重くなり、全身の力が一気に抜かれていく感覚に焦りを感じる。まだランプは60個だ。気力でもってして魔力を注ぎ続けるが最初のスピード感はなくなり、魔力を込める力を強くしても点灯速度はどんどんと遅くなって行く。それとともに全力で体を動かした後のような疲労感が全身を襲い、呼吸も荒くなってきた。
「大丈夫か?一旦休んでも…」
「だ、大丈夫です。っ…やれっます…。」
ウォーニーが言いかけた言葉を遮りながら荒い息で返事をしたのは、虚栄心からではなく限界が近かったからで、一度止めるともう魔力を注げそうになかったからだった。
あと20個。ランプの数を数えながら必死で魔力を注ぎ続け、もうすぐ終わりだと思ったところでガクッと足の力が抜け倒れそうになる。
倒れる直前にウォーニーがエマの両脇を支える。
「おい!大丈夫か?!」
「だ、いじょうぶ……です……。」
ウォーニーの問いかけになんとかそう返事をしたものの、息も絶え絶えな私の体はすでに限界で、ウォーニーに支えてもらっていないと今にも倒れてしまいそうであり、それでもなんとか気力で水晶に手だけは置いている状態だった。
そんな様子を見かねてか誰かが椅子を持ってきてくれたようだったが、座った状態ですら自力で姿勢を保つ事は困難で、ウォーニーに支えてもらいながらそこから数十分かけてやっと魔力を注ぎ終わることができた。
そうして最後のランプが光ったところで、ついに私は脱力する体からゆっくりと意識を手放した。