変化
それからドンノによりあっという間に話が進められ、魔力提供量の変更は今日からすぐに適応するため君も頑張ってくれと肩を叩かれた。私はなんだかふわふわと呆ける頭で、肩に乗った熱をじんわりと嬉しく感じていた。そして他の先生たちに報告に行くと言ったドンノと別れ執務室をあとにすると、私はまだはっきりしない思考を引きずって一旦自室へと戻った。
食事時だからだろうか、部屋ではリリーが一人ベッドに座っていた。
「お姉ちゃん!やっとお話出来る!ごめんね、ずっとお話出来なくて。お姉ちゃんとお話しようとすると皆に止められちゃって・・・。」
私を見るや一目散に近寄ると、リリーは私の顔色を伺いながらも恐る恐る話だした。
「皆の言うことは気にしないで!あたし考えたんだけど、お姉ちゃんは皆のことを思って、皆の魔力が増えれば良いと思ってドンノ先生の提案に賛成したんでしょう?だってあたしでも皆のためになると思って賛成してたと思うもん。それなのに、皆自分の事しか考えられなくて、お姉ちゃんに怒りをぶつけて、ちょっとひどいよね。それでいて皆の分までお仕事してくれてるお姉ちゃんに向かって当たり前だなんて言って皆感謝も出来ないなんて・・・。お姉ちゃんすごく傷ついたよね。ごめんね。」
リリーの潤んだ瞳が私を覗き込む。
「・・・お姉ちゃん?もしかして具合悪いの?大丈夫?」
ドンノの執務室からずっとふわふわとした心地が抜けず、リリーの話をぼんやりした思考で理解しようとしていると、すぐに返事がないその様子を不審に思ったリリーが心配の眼差しを向けてくる。心配させないよう返事をしたいがあの独特の甘ったるい匂いが思考を霞ませているかのようだった。
「・・・大丈夫。・・・皆のことも気遣ってくれて、ありがとう。」
「本当に大丈夫?仕事のしすぎで体調が悪いんじゃない?!」
「・・本当に大丈夫。」
「わかった。でも無理しすぎないで!!一日中ずっとお仕事してくれてるでしょう?そんなずっとやってたら倒れちゃうよ。」
リリーの眉がギュッと八の字に曲げられる。
「・・・それは大丈夫。今日から、魔力提供量が元の量に戻るから。」
「え!?本当?!!でもどうして??」
「・・・私が新しい提案をしたの。ドンノ先生に。・・・だから、このあとの仕事で説明があると思う。」
「よかったぁ・・・。」
リリーの大きな瞳が再び潤みだす。
「あたし、このままだったら魔術のお勉強も出来ないから、魔術師にはもうなれないのかなって思ってたんだ。だからちょっと不安で。でも、そっかぁ。またお勉強出来るんだぁ。よかったぁ。」
心底ほっとしたような笑みを浮かべるリリーを見て、私もこの提案をして良かった、リリーの笑顔を守ることが出来て良かったと心底思った。
「でも、どんな提案してくれたの?」
「・・・皆の魔力提供量を元に戻す代わりに、不足分を私が補うの。」
「え?!!?!そんな事したら、いくらお姉ちゃんの魔力が多くたって今度は本当に倒れちゃうよ!!」
「・・・私の、魔力量が多いことはドンノ先生も知ってて、ドンノ先生が君なら大丈夫だろうって言ってくれたから、・・・きっと大丈夫。」
「そっか・・、ドンノ先生が大丈夫って言ったならそうかも知れないけど、でも!!絶対に無理はしないでね!!倒れたりしたら嫌だよ!!」
「・・うん。わかった。ありがとうね、リリー。」
リリーの優しさが暖かくて思わず目を細めた。
暫くリリーと話し込んだ後、戻ってきたテオに強引にリリーを連れて行かれる形で引き離されたが、久しぶりにリリーと話せて嬉しかった。そのおかげか、頭もはっきりしてきたところで早速仕事部屋へと向かった。