告白
私はゆっくりと体を起こし、テオの方を見やる。
「うん。起きてるよ。」
「あの二人、相当我慢してたんだよな。他の奴らもそうだけど、皆頑張ってるよ。今のだって、オレらを心配させないように出ていったんだろ?やっぱり、知らないフリしてやった方が良いよな?」
二人が出ていった扉をみてそう聞いてくるテオの瞳は、いつもの力強さはなく、悲しげに揺れているように見えた。いつものキツめの物言いとは違うテオの気遣いに、その心根の優しさが伺えた。
「うん。そうだね。バレたらもっと気を遣われちゃうかもしれないし。」
私も扉を見つめた。先程まで喉から出かけていた言葉をグッと飲み込み、私たちを気遣って部屋から出ていった彼女たちの事を考え、最初から何も無かったかのようにまたベッドに潜り込もうとした時、
「ねえちゃんはさ、やっぱ体辛くないのか?」
テオがまたこちらを見つめていた。
「え?」
驚いてまた倒しかけていた体を起こす。
「いや・・・。リリーとかアーロはさ、元々魔力が多くないから。そりゃああいつらは大変だろうなって思ってたよ。だけど、オレは皆よりは魔力が多いからさ、ねえちゃんから魔力も増えるって聞いてさ、大丈夫だって思ってたんだよ。」
私と交差した目線は潤む瞳を隠すかのように下に落ちる。
「でもさぁ、オレも体が限界かもしれないんだ。いつもより疲れる魔力提供やって、授業はいつもどおり受けても頭に入ってこねーしさ、体が大変な奴らの出来ない仕事までやってさ、それでも足りなくて1日中仕事にされてさ、疲れたままの体で頑張ってもさ、終わる気がしねーし。」
その声に次第に涙が混じってくる。
「なあ、本当にこれで魔力増えるんだよな?増えてんだよな?」
絞り出すようなその言葉越しに、こちらをまっすぐに見つめるテオの瞳からは涙が溢れ、伝う雫が顎の先からいくつもいくつも落ちていった。
それを見た瞬間、考えるよりも早く体が動き、まだ私よりも一回りほど小さいその体をきつく抱きしめていた。
「ごめん。」
私の顎を伝う雫がテオの肩を濡らしていく。
「なんで、ねえちゃんが、謝んだよ。」
「私のせいなの。」
言い終えるのと同時に、ガチャリと音を立てて空いた扉の向こうから、リリーが
「どういう事なの?」
と不安そうな表情でこちらを見つめていた。
もう自分一人だけ、逃げることはしない。決意を決めた私はドンノとの執務室でのやり取りを3人に包み隠さず説明した。
「じゃあなんだ、オレらは今、ねえちゃんのせいでこんな苦しい思いさせられてるってことなのか?」
「そんな言い方やめてよ!」
リリーがテオを諌めようとする。
「なんだよ!本当の事だろ!お前だってさっき苦しくて泣いてたんだろ!でもオレらに心配させたくなくて隠れて見つからないようにしてたんだろ!なのにねえちゃ・・・コイツは、全部知ってて、自分のせいだってわかってて、それをオレらにずっと隠してたんだぞ!」
テオの怒号にリリーは何も言い返さず俯いた。
「本当にごめんなさい。」
私が口に出来るのはその言葉しかなかった。
「今更謝られたところで何も変わらないだろ。」
テオはそう吐き捨てると、自分のベッドに戻っていく。
「でも、おねえちゃんは私たちのためになると思ってドンノ先生に言ってくれたんでしょう?将来のためと思って・・」
「今がこんな状態じゃ将来のことなんて考えられないだろ!オレら仕事が終わらなきゃ勉強はさせて貰えないんだぞ!!勉強できなきゃ魔術学校にも行けない!だったら魔力なんか沢山あっても意味ないだろ!」
テオに遮られたリリーは、その言葉にハッとしたのか眉を潜め、その顔には悲しげな色を浮かべた。
「わかっただろ!このままコイツの謝罪だけを聞いてても、どうにもならないんだよ!いっその事自分で責任を取ってオレらの分まで全部引き受けてくれたらいいのにな!」
「取るね、責任。」
私は布団を被ってしまいもう見えなくなったテオの方を見据えた。
「取ってから言えよ。お前ら二人も体休めるために早く寝ろ。」
ごそりと寝返りをうったテオは、そう吐き捨てた。
それを聞いたリリーとアーロは、自分のベットへと戻っていく。ふと止まったリリーが、こちらを向き何か言いたげな、悲しげな表情をしていたが、その口は開かれることはなかった。




