限界
数人のすすり泣く声と、魔術具を組み立てるカチャカチャという音が仕事部屋に響いていた。
甲斐甲斐しく皆の世話を焼き、フォローし、上手く言っている気になっていた。そう思わないと、改めて自分が招いてしまったこの状況を前に心を正常に保っていられる自信が無かったからだ。
ふいに隣のリリーをみる。黙々と作業をするその手付きはいつもよりも格段に遅い。
「大丈夫だよ。あたしは大丈夫。」
リリーが噛みしめるように呟いた。私の心配の目線に気づいたからだろうか。だが、そんな言葉とは裏腹に俯く瞳には今にも溢れんばかりの涙を湛えている。
そんな健気なリリーに、私は何も言葉をかけることが出来なかった。
その日の夜、ベッドに入ってからも私は眠れずに、この状況をどうしたら良いか考えていた。
何とか私のしでかした事の責任を取らなければ、そう思っていた。このままでは子供達の心身がもたないだろう。
しかし、リリーや他の子供達の事を、やっと自分にも出来た家族のように大切に思っている一方で、父のように慕ってくれても良いと言ってくれたドンノの事もまた、大切だった。滞っていた素晴らしい研究が進み、あんなに喜んでいたドンノの顔を曇らせたくはなかった。自分の大切に思う人達を尊重しつつ、どうすれば今の問題を解決することが出来るのか。そんな事を目を瞑り考えているとふと、リリーのある言葉を思い出した。
(「でもおねえちゃんはそれだけ魔力を使っても平気って事は、あたしなんかよりもずっと魔力が多いんだと思う!いいなあ!羨ましいよ。」)
そうか、私は魔力量が多いから、今抱えているこの問題の責任を自分でとることが出来るかもしれない。リリーの言葉を反芻しているうちに、ドンノにも子供達にも利になる提案を思いついた私は、早速明日にでもドンノに伝えてみようと考えた。ドンノ先生は忙しいみたいだから、話せる時間があるといいんだけど。
そんな事を考えながら、少しだけ軽くなった胸をほっとなでおろしていると、隣のベットから微かに鼻をすする音が聞こえた。瞬間、ドキりと心臓が跳ね上がる。じっと耳を澄ましているとまた聞こえたそれは、私や皆の前ではずっと我慢してきたリリーが、声を押し殺して泣いている音だった。
それに気づいた途端、心臓が押しつぶされそうになる。
ごめんね、リリー!本当にごめんなさい!どうしよう。本当にどうしよう!私のせいだ。みる間に溢れそうになる涙をぐっと堪え、私に泣く資格はないだろうと唇を噛み締めた。
ベッドの端を握りしめ、しばらく耐えていると、今度は向かいのベッドからもすすり泣く声が聞こえてきた。
ああ、アーロ。どうしよう。こんな様子の皆を黙って見過ごそうとした自分が、憎くてたまらなくなる。そして二人の泣き声を聞き、ついに罪の意識に耐えられなくなった私は、こんな事になったのはすべて、自分のせいだと打ち明けなければと咄嗟に考え、グッと身体を起こそうとした。それと同時にリリーがアーロのベッドに駆け寄り、声を掛けると二人で部屋から出ていってしまった。
私は宙ぶらりんになった力を抜き、冷や汗で冷たくなった体を再びベットに預けると、
「ねえちゃん、起きてるか?」
寝ていたはずのテオから声を掛けられた。