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元大魔導師は、家族のために完璧な姫になりきりたい  作者: ぽよぽよ大魔神
前章 大魔導師エマ
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変化

その後も勉強に仕事にと忙しく過ごしていた私だったが、先週ついに初級の授業の履修が完了した。

最後の初級授業担当のウォーニーに「とっとと中級に上がんな。」とお墨付きを貰い、今週からは中級の授業への参加となる。リリーと、よく慕ってくれているアーロは、一緒に授業が受けられ無くなる事を非常に寂しがったが、テオはというと、もうすぐ自分も中級に上がれそうだからまたコツを教えてくれと、益々魔術勉強に精が出ているようだった。

中級の試験は初級で行った5大属性の魔術のコントロールだった。試験担当先生により出された合図に合わせて、適した魔術を適した魔力で行使しなければいけないというような内容だった。コントロールだけといえば案外簡単そうに聞こえるが、その実非常に難しかった。初回の授業で試験に挑戦する他の子の様子を見学したが、先生の「ウォーター大」や「ファイヤー中」といった声に合わせて、制限時間10秒以内に適した魔術を講師できなければ不合格となっていた。威力、精度はもちろんのこと発動スピードまで求められるとなると、そう簡単には合格できないようだった。

リリーからもらったアドバイスのもと魔力調整を日々行っており、その点だけにおいては多少の自信はあったが、今回はしっかりと座学を履修してから試験に挑戦しようと決めた。

そして何よりの楽しみとなっているドンノとの面会も5回目くらいになった頃、普段は私の話の聞き役に回ってくれていたドンノが、少し聞きたい事があると突然話を振ってきた。

何時ものお返しが出来ればと常々考えていた私は、私で役に立てるならばと喜んで聞くと、


「毎日皆に頼んでいる魔力提供だが、その量を多くしようと思っているんだ。」

という話だった。

へえ、魔力を。となんとなく聞き入れたが、そう言えばリリーが前に魔力が沢山あるわけではないから大変だと溢していたことを思い出しハッとする。


「そう言えば、魔力総量は増やせる事は君に伝えたかな?魔力は使えば使った分だけその総量がどんどん増えていくんだよ。だから少ない子は最初のうちは少し大変かもしれないが、使ううちにどんどん増えていくわけだから、皆にとっても研究所にとっても、将来的にはメリットしかないと思っているんだが、君はどう思う?子どもたちの代表として、君の意見が聞きたいんだ。」


魔力は使った分だけ増えるんならば、確かにメリットしかないように思える。だけど、一瞬立ち止まってまたリリーのことを思い出していた。魔力提供が終わった後、隠してはいたけど結構つらそうな顔をしていた。メリットしかないからと言ってその苦痛をリリーに与えたくない。それにリリーだけじゃなく、他の子も愚痴のようにポロッと溢した事があったが、魔力提供のあとは非常に疲れるらしかった。そして出来れば、授業が午前で仕事の時間は午後に固定してもらえれば、勉強に影響が出ることはないのにとも言っていた。勉強に支障をきたすような負担を増やす事が本当に良い事なのだろうか。悶々と一人悩んでいると、ふっと部屋に充満する甘い香りが強くなった気がした。


「どうだろう?私は魔力量が多くなることの方が、将来的にも皆に喜んでもらえると思うんだよ。君たちは近い未来、皇立魔術学校に通うであろう将来有望な、言わば魔術師の卵だ。魔術学校に入り優秀な家庭教師に鍛えられてきた貴族の子達と肩を並べるためには、魔力なんていくらあってもいいだろう。むしろ足りないかもしれない。私はそんな自分達の将来に投資するような感覚で今からその準備を始めるべきだと思うんだよ。ああ、もちろん無理にとは言わないけれど、私は君の意見を子供たちの代表のものとして聞いているから、君が一言だめと言えばこの話はなかった事にしよう。だが、それを聞いた子供たちは、自分の利になることを蹴ってきた君に対してどんな反応をみせるかな?さあ、それも踏まえて、皆が得をする選択をしてくれ。」

不思議な浮遊感が私を包み、ドンノが言った言葉が断片的に頭を巡る。魔力なんていくらあっても足りない。皆が得する選択。


「皆の魔力が増えるんだ。これを逃さない手はないだろう?」

ドンノの言葉が2重にも3重にも重なって頭の中をぐるぐると回っているようだった。

ゆっくりと時間をかけて私の中で消化されたそんな一言は、先程のリリーや子供たちを思い悩んでいた不安を、溶かしていった。

そうだ。こんな好機を逃したら逆にみんなに怒られるかも。そうしなければいけない。徐々に確信に変わっていく。


「皆、喜んでくれるだろうか?」

ドンノの声が頭に響いていく。


「・・・はい。・・・きっと。」

なぜだか夢にいるような心地で上手く話せない。


「そうか。では、魔力提供量を多くしてもいいだろうか?」


「・・・いいと思います。」

するとドンノの手が伸びて私の頭を優しく撫でた。すると今まであった浮遊感や夢心地もすっとはれていく。


「良かった。君ならそう言ってくれると思っていたよ。」


「はい!」

また褒めてもらえたようで嬉しくて力強い返事をする。先程の上手く話せないような感覚はもう無くなっていた。


何時もの倍近く話し込んでいたらしく、もう仕事の時間も終わりに近づいていたため、今日はもう部屋に戻って休むといいというドンノの言葉に甘え、自室に向かった私は、その後仕事から戻ってきたリリーに、今日は何の話をしたのかと興味津々で聞かれたが、内緒だと言ってごまかした。

魔力提供量を増やすのは翌週からとドンノが言っていたため、それを聞いて驚く姿が見たかった。リリーは喜んでくれるだろうか。私は楽しみに翌週を迎えた。


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