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元大魔導師は、家族のために完璧な姫になりきりたい  作者: ぽよぽよ大魔神
前章 大魔導師エマ
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執務室

コンコン

私はアリアに習ったように、執務室に入る前にドアをノックする。


「どうぞ。」


中の声に促され入室すると、甘ったるいような独特の香りが全身を包んだ。

不思議な香りだと立ち止まっていると、部屋の奥に置かれた大きな執務机に向かっていたドンノが顔を上げた。


「ああ、来てくれたかい。さあ、ここに座ってくれ。」


と部屋の中央に置かれたソファへと誘導した。

私が座った事を確認するとドンノはにこやかに話しだした。


「どうだい?ここでの生活には慣れたかな?」


「あ、はい!」


「そうか、もしわからないことがあったり、何か相談したい事があればいつでも私の執務室に来ると良い。もう私達は家族なんだから、何でも話してくれ。」


そう言って徐に立ち上がったドンノは、私の頭を撫でた。

ゆっくりと近づいてくるドンノのその手に、一瞬殴られるのではと考え、ぐっと身構えたが、大きな温かい手が頭を包んでいる事を確認すると、途端に温かい何かが胸に溢れ出したような気がした。

私の記憶にはもう等にないが、憧れていた父親のようだと、そんなふうに思った。

溢れ出る嬉しさが、表情筋を支配しつつあり、跳ね上がろうとする口角に必死に抵抗し、ニマニマと何とも微妙な表情をしていると、


「先程レント先生から聞いたよ。君の魔術の才能は素晴らしいものだってね。」


「そうだ、君の魔術を今ここで見せてくれるかな?」

褒められた事が嬉しくて、もっと認められたいと思った私は


「はい。」

と力強く答えた。

先程の工程を繰り返し、火、水、土、風、木の魔術を難なく披露すると


「君は・・・本当に素晴らしいな。」

噛みしめるようにドンノが呟いた。

勉強部屋でやってみた時よりも魔術発動のスピードがスムーズになっていることに自分でも驚きつつ、心の底から思っているであろうドンノの言葉に、


「嬉しいです。」

と満面の笑みで私は答えた。


「そういえば、君は文字の試験にもたったの1周間で合格しているね。いきなり環境が変わったんだ。その中で勉強するのは大変だったのではないかい?」


「いえ!アリアの教えるのが上手だったから!それで私勉強が面白くて、アリアのおかげで頑張れたんです。」

それから少しの間は私はドンノに、これまでの事を話した。

最初はぎこちなかったが次第にアリアと仲良くなれた事、初めて文字の勉強をして自分の名前が書けるようになったのが嬉しかった事、リリーという自分をお姉ちゃんと呼び慕ってくれる可愛らしい子と同室になった事、授業の見学で迷惑を掛けみんなに謝った事。

ドンノにとってみればどうでも良いだろう話をニコニコと、決して話を遮ることなく、時折相槌を打ちながら聞いて貰えた事で、私は思わず喋りすぎてしまった。


一通り私が話しきった事を確認するとドンノは、週に一度この執務室来て今日のように話をしてくれないかと提案した。

話す内容は何でも良く、その日あった事や、授業で習った事、もちろん使えるようになった魔術を見せても良いという話だった。

私はまたドンノとゆっくり話すことが出来るのが嬉しくて、二つ返事で了承した。

その返事に満足した様子のドンノは約束の日を毎週金の日に決め、そして私は毎週金の日の魔術の授業終わりに、ドンノの執務室へ来ることになったのだった。

叱られるかもと身構えていたドンノとの面会が、一変楽しいものだった事もあり、上機嫌で仕事部屋に戻った私は、歩くたびに時折香る、服についたあの部屋の香りに、ついニマニマと持ち上がる口角を抑えようとその日は1日中苦労した。


仕事部屋に戻った私はリリーを見つけると隣に座った。


「おねえちゃん!なんだった?」


「話をしただけ!叱られなかった!」

リリーに合わせ小声で返す。


「ふふっ。ドンノ先生が叱るはずないよ!だって一番優しいもん!」

リリーの言葉に確かに、と腕を組む。

あんなにニコニコと自分の話を聞いてくれたのだ、一番優しいというリリーの言葉がストンと腑に落ちた。

先程のやり取りを思い出し、またしてもニマニマとしていると、


「おねえちゃん、いいことあったみたいだね。」

とリリーがからかうような表情をした。


我に返った私は誤魔化すような咳払いをし


「そんなことより」

と話を変えた。


「あれは何をやっているの?」

私は仕事部屋の前方で机を挟んで向き合う生徒と先生を指さして聞いた。

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