興奮
「そもそも魔術とは詠唱というものが必要で、いや、そんな事よりも本当に初めてか…?しかし事実、あれは紛れもなくファイアの魔術だったし…詠唱が無くても魔術として行使できるなんてそんな話…。ひとまず先生に報告しなくては…。」
初めは早口で捲し立てるようだったが、次第に声を落とし、終いにはぶつぶつと独り言のように呟いた後、
「悪いがまた席を外す。」
とレントは足早に部屋を出て行った。
レントが完全に部屋を去っていった事を確認すると、息を呑んで見ていた子供達からわっと歓声が上がった。
「すごーい!!エマお姉ちゃん!本当に初めてなの?!しかも詠唱もしてなかったよね?!どうやったの?」
1番に声を上げ、私に飛びついたリリーは鼻息荒く興奮した様子だった。
「ごめん。詠唱って何…?」
先程レントが呟いていた事もそうだが、何を聞かれているのか分からず、私は混乱していた。
「あっ!!そっか!さっきの説明でも詠唱なんてなかったもんね。うーんと、詠唱っていうのは、鍵みたいなものなんだって。魔術式が扉で、魔力を魔術式に集めて、詠唱っていう鍵で扉を開けると、それがトリガーになって魔術が発動するんだって。あたしにはまだ難しいんだけど、魔術にはその二つがセットだって座学で習ったの!」
扉と鍵…。知らなかった。先程の説明でイメージすれば魔術が発動するものだと思い込んでいたのだ。
ともすれば、何か大変な事をしてしまったのではないかと思い到った私は、少しずつ落ち着いてきていた鼓動がまたゆっくりと早くなっていくのを感じていた。
「姉ちゃん本当すごいよ!俺、テオ!今日から同じ部屋なんだよな!俺とも仲良くしてくれよ!」
「ちょっと!抜け駆けはやめてよ!私はミラ!同室ではないけど仲良くしてあげてもいいわ!」
子供達は、私が俯き考え込むのもお構いなしに、我先に押し掛けてきた。子供達はどんどんと声を掛けていくため、先程の思案の続きをする場合では無くなった。だが私を姉と慕い、取り合うようなそんな様子に、胸をくすぐられるような、そんな嬉しさが込み上げてきて、自然と笑みがこぼれていた。
私は子供達の名前を覚えようと、一人一人の話に出来る限り耳を傾けていると、
「おーい、何やってる。」
とレントが戻ってきた。
蜂の子を散らしたように一目散に子供達が自分の席に戻ると、レントは私の前に立ち、
「エマ。もう一度先程のように、魔術を見せてくれ。今度は、ウォーター、ウィンド、アースの順番で。」
とニコリと言った。
私はゴクリと唾を飲み込むと、恐る恐る聞いた。
「詠唱は、どうすれば良いですか?」
「ああ、詠唱はなくても良い。さっきと同じようにやってみなさい。」
レントの優しく言い聞かせるような声音に、叱られるのではと思っていた私は、ホッと胸を撫でおろし短く息を吐くと、先程と同じように目を瞑り集中し始めた。
空気が変わる。シンと静まり返ったその部屋で全員の注目が私に集まっていた。